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ひとりで夜空を見に行った。‐第2夜‐【ショートストーリー】


今夜は冷え込む
天気予報はそう言った
でも、さほどでもないな
そう自分に言い聞かせながら
両膝を抱え込み
体育座りの僕は身を縮める

昨日までかかってた
薄いフィルムが剝がされたかのように
今夜は星がクッキリ見える
光が届く
ぐぅーっと顎を上げて
天空を見上げる
そこに月があった

「寒くないんですか?そんな恰好で…」

声が聞こえたけど無視した
それなのに
星関係の仕事のその人は
僕のすぐ隣に座った
会うのはまだ今日が2回目なのに
肩が触れ合いそうな距離で

僕はずっと月を見上げたままだ
ちょっとずつ月が近づいて来た気がした
いや、僕が月に近づいていってると感じた
隣のその人も真似して月を見上げた
だから言ってやった

「月って…昼間にも見えるって知ってます?」

チラッと横目で僕を見たとわかった

「知ってますよ!そんな事…普通に」
「青い空に白い月が浮かんでるんですよ?見た事あります?」
「ありますよ!当たり前でしょ!」
「なんで…月だけは昼間にも見えるんだろ…他の星は見えないのに」
「それは…」
「月が一番近くにあるから。他の星も空にあるはずなのに、遠くて小さくて昼間には見る事なんてできない…ですよね?」

星関係の人はハッキリと僕の横顔を見た

「わかってるじゃないですか」
「わかってますよ…僕だって…でも…」
「でも?」
「僕が昼間に見える星って『月』だけなんですよ…夜が明けたら見られないはずなのに姿を見せてくれる…だから『月』はやっぱり特別なんですよね…僕にとっては…ダメですか?」

話してる間にも月がどんどん大きくなる
星関係の人も、また月を見上げた

「ダメかと言われれば…良いとはいえません、立場的に…でも…」
「でも?」
「みんな星を見てます、それぞれの場所で…自由に、勝手に、自分の想いを星に届けています…それを他の誰かが否定する事はできません…ひとりひとりが『月』や星に託す気持ちを…」
「…あれ?…」
「え⁈」
「なんか…こないだと言ってる事違いません?」
「んっ⁈…ち、違いません!」
「勝手に星座つくるなとか言ってたのに…」
「それは…ダメです!」
「えぇぇっ!誰も否定できないって言ったのに!」
「いやいや!違うんです!ただ…アナタの意見を明日の全体会議で話してもいいけど…って意味です!」
「全体会議?」
「はい」
「なにそれ⁈それは…どこで?どんなメンバーでやってるんですか?」
「そ、そんな事…言えませんよ」
急に身を乗り出して質問した僕に
星関係の人は少しひいていた

「会議って…何を話し合うんですか?」
興奮した自分が恥ずかしくなって
また空を見上げてから落ち着いて訊ねた

「いろいろ…ですよ…今後の星と人の関係のあり方とかね…」

何かと気になる答えだった
会議の結果が僕らに何か影響してるのかと考えるとコワい気もした

では明日の準備がありますので、と言って
その人はまた突然消えた

昼間の月を初めて見つけた時の事は
よく覚えてはいない
ドキドキした胸の感触が
残っているだけだ

僕は大の字に寝転がって
全身で夜空を見上げる
背中やお尻にあたる草が
けっこう濡れてる気もしたが構わなかった

明日はきっと晴れる
夕方には大事なイベントがある
その前に
真っ白な月と
また出会えますように

願いをこめながら
今は光ってる大きな月をみつめた





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