Takehiko Yoshida

環境哲学/メディア論研究者。非常勤講師とプログラマをしながら生きています。読むのも書く…

Takehiko Yoshida

環境哲学/メディア論研究者。非常勤講師とプログラマをしながら生きています。読むのも書くのも自然言語もプログラミング言語も好きです。要するにまあ、大体何でも好きです。 ブログ https://cloud-leaf.com 研究 https://yoshidatakehiko.com

マガジン

  • Books, Life, Diversity

    厳しい状況にある書店の支援のために何かできることがないかと思い、これまでに読んできた素晴らしい本の紹介をすることにしました。少しでも興味のある本があれば、ぜひ書店から(オンラインでも)購入していただければ嬉しいです。

最近の記事

ジャロン・ラニアー『万物創生をはじめよう 私的VR事始』谷垣暁美訳、みすず書房、2020

ここしばらく更新が滞っていましたが、次の単著に向け読むだけは大量に読んでいました。原稿を書きつつ雑事に追われつつなので間隔は遅くなるかと思いますが、またゆっくりとでも素晴らしい本の紹介をしていこうと思います。 + 今回はVRの始祖のひとりであるジャロン・ラニアーによる『万物創生をはじめよう』。タイトルから想像されるような、技術によって人間は神になり代わるのじゃ……的なお話ではなく、強い人間愛に貫かれたラニアーによる半自伝的な素晴らしいVR思想史です。これはほんとうに面白い

    • アディーブ・コラーム『ダリウスは今日も生きづらい』三辺律子訳、集英社

      最近読んだ小説のなかではいちばん心に残りました。現代社会が、そしてそこで生きる若者たちが経験している様ざまな問題をテーマにしつつ、等身大の主人公の苦しみと成長を丁寧に描いています。帯の説明が端的で良いので引用します。「民族、人種、性的指向、うつ病、多重のアイデンティティに悩む16歳の青春物語」。ただ、決してこれらの重いテーマが説教ぽく語られるのではなく、これが正解だ! みたいな形で答えを決めつけられるのでもありません。すべてが解決するわけではないけれどちょっと何かが変わっ

      • 徳井直生『創るためのAI 機械と創造性のはてしない物語』BNN

        AIを用いたアートの現状と将来の可能性について知りたい人にとって、現状におけるベストの本ではないでしょうか。著者の徳井氏は研究者であると同時にアーティストです。 出版社は面白い本を多々出版しているBNN。 本書は著者の知識と経験がふんだんに盛り込まれ平明に書かれており、幅広くかつ深く丁寧に考察された専門書であるにもかかわらず、入門書としても非常に読みやすいものになっています。またAIの歴史についても触れられており、それも勉強になります。人工知能の「人工」という言葉がかつて

        • 『多様体4 特集 書物/後世』月曜社

          月曜社から不定期刊行されている雑誌の第4号です。数多ある人文系の雑誌のなかでも特に好きなもののひとつ。 (追記です。忘れていた! 『多様体』のトークイベントがあるとのことなので、興味がある方はぜひ!) 今回の特集は「書物/後世」。これまでの特集は「人民/群衆」、「ジャン=リュック・ナンシー」、「詩作/思索」で、どれも魅力的です。今回は特に、この特集を端的に表現している最初と最後のページの言葉がとても良いのです。 これがいちばん初めのページにある言葉。それで次がいちばん最

        ジャロン・ラニアー『万物創生をはじめよう 私的VR事始』谷垣暁美訳、みすず書房、2020

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        • Books, Life, Diversity
          51本

        記事

          断絶と孤絶の時代に抗して他者について考える

          優れた本を多々出版なさっている月曜社の小林浩さんにお声をおかけいただき、hontoのブックツリーに本紹介を書かせていただきました。とてもありがたいことです。ブックツリーとは、hontoが提供しているサービスのひとつで、テーマを決めて本を5冊紹介できるというものです。ぼくが声をかけていただいたのは小林さんがコーディネーターをなさっている「哲学読書室」というものです。 「哲学読書室」については以下のように説明されています。 「哲学読書室」ではとても良いテーマ設定で素晴らしい本

          断絶と孤絶の時代に抗して他者について考える

          カイ・T・エリクソン『そこにすべてがあった バッファロー・クリーク洪水と集合的トラウマの社会学』宮前良平、大門大郎、高原耕平訳、夕書房

          ここ最近読んできた本のなかで、その理由を具体的に挙げることが難しいのですが、もっとも丁寧に作られた本だなあという印象を持ちました。内容自体も名著ですが、著者、翻訳者、編集者そして装幀をした人すべての、これを世に送り出したい、ださなければという真摯な祈りのようなものが感じられる、とてもお勧めの本です。出版は2021年8月。まだ出版されたばかりです。なお、著者のエリクソンはあのエリク・エリクソンの息子とのこと。 本書は1972年に米国のウェストヴァージニア州の炭鉱町バッファロー

          カイ・T・エリクソン『そこにすべてがあった バッファロー・クリーク洪水と集合的トラウマの社会学』宮前良平、大門大郎、高原耕平訳、夕書房

          吉田健彦『メディオーム ポストヒューマンのメディア論』共和国(3)

          プログラミングに追われて、気がつけば『メディオーム』が発売されてから4日が経ってしまいました。幾つかの書店では目に留まるかたちで置いてくださっていて、ありがたく思います。たまたま誰かの目に留まって、興味をもって購入してくれるひとが居るとしたら、それは途轍もないことだと改めて思います。ああでも、そんな途轍もない奇跡としてではなく、ありふれすぎた感じでどんどん売れてほしい! それから、これも本当にありがたいことに、月曜社さんの主催なさっているブックツリーに声をかけていただけまし

          吉田健彦『メディオーム ポストヒューマンのメディア論』共和国(3)

          吉田健彦『メディオーム ポストヒューマンのメディア論』共和国(2)

          明日が発売となりますので、引き続き頑張って広告をします。既に店頭に置いてくださっている書店の追加です。本当にありがたいことです。まずは早稲田大学生協ブックセンター。これ、うれしいことがもう一つありまして、前回の広告記事で同じく共和国から出版された『レイシズムを考える』の共著者のひとりである百木漠氏について触れました。 その百木氏による『アーレントのマルクス』(これは二刷とのこと)と並んでいるのです。どうということのない話かもしれませんが、今回の出版ではこういうコインシデンタ

          吉田健彦『メディオーム ポストヒューマンのメディア論』共和国(2)

          吉田健彦『メディオーム ポストヒューマンのメディア論』共和国(1)

          共和国から本が届きました。とても美しい装幀で、改めて共和国から出せたことをうれしく思っています。 早速、本棚の共和国領土に仲間入りさせました。 こうしてみると素晴らしい本ばかりで(まだ入手できていないものもありますが)、共和国ファンとしては、ここから出版できたというのはちょっと出来すぎだな、運を使い切った俺の人生、これから転落する一方だな、という気がします。 とにかく、宗利淳一氏による装幀が美しいです。非常に多くの装丁を手掛けていらっしゃるので、ぜひ探してみてください。

          吉田健彦『メディオーム ポストヒューマンのメディア論』共和国(1)

          吉田健彦『メディオーム』共和国

          再開第一回目が自分の本というのもアレなのですが、本というものは手に取って読んでもらって初めて完成するものなので、ぜひお読みいただければということで紹介してしまいます。 でもって、それが本書のテーマでもあります。どういうことでしょう。もし本というものが誰かに読んでもらって完成するのだとすると、その完成の在り方には、例えば読者が10人いれば10の形があるということになりますよね。実際、ぼくはそう考えています。例えば『神とカエル』という題名の本があったとします。それが流通するとい

          吉田健彦『メディオーム』共和国

          Books, Life, Diversity #37

          『レイシズムを考える』清原悠編、清原悠、明戸隆浩、安倍彰他著、共和国、2021年 ヘイトとレイシズムは現代日本社会における深刻な問題であり、同時にそこには、連綿と続いてきた歴史的な背景もあります。だからそれは一朝一夕に解決できるようなものではないかもしれませんが、私たちの日常生活の傍らで、というよりもむしろただ中でどれほど暴力的で悲惨なことが起きているのか、少なくとも知る必要があるはずです。本書はそういったことを知っていくための、優れた入門書であり、導きの一冊になってく

          Books, Life, Diversity #37

          Books, Life, Diversity #36

          『クリティカル・ワード メディア論 理論と歴史から〈いま〉が学べる』門林岳史、増田展大編、フィルムアート社、2021年 キーワード集や用語集はけっこう好きで、特に自分の研究分野にかかわるものであればなるべく入手するようにしています。本書もその一冊ですが、内容が充実しているだけではなく読み物としても非常に面白いです。メディア論を学んでいるひとだけではなく(私自身メディア論を研究していますが、恥ずかしながら知らないことやなるほどと思う視点がたくさんありました)、メディアに関

          Books, Life, Diversity #36

          Books, Life, Diversity #35

          今回は出版社も併せて紹介します。プログラミングやデザインに関心のある方なら、きっと本棚にBNNの本があると思います。内容はもちろん、装丁も非常に洗練されていて、お気に入りの出版社のひとつです。以下はBNNのオンラインショップです。希少本や企画などのお知らせもあります。5/23まで送料無料キャンペーン中とのことなので、ぜひこの機会に。 noteもあります。 あと、いま気づいたのですが、以前に紹介したフィルムアート社とBNNは関連会社とのこと。この辺の関係は良く分かりませんが

          Books, Life, Diversity #35

          Books, Life, Diversity #34

          今回も、前回に引き続き思弁的実在論関連の本を紹介していきます。 篠原雅武『「人間以後」の哲学―人新世を生きる』講談社選書メチエ、2020年 篠原氏は思弁的実在論というよりも人新世に関して優れてユニークな論考を発表し続けているイメージが私のなかにあったのですが、そもそも思弁的実在論と人新世とはその背景からして深く関連しており、実際にはその双方をつないで優れた思想を紡いでいる方です。また篠原氏が日本に紹介したティモシー・モートンはグレアム・ハーマンと並びOOOの代表的な論者の

          Books, Life, Diversity #34

          Books, Life, Diversity #33

          今回(と次回)は思弁的実在論関連で紹介します。思弁的実在論は現代哲学のひとつの潮流として注目されていますし、書籍も数多く出版されていますので、ご存知の方も多いと思います。私自身は思弁的実在論に対して少し距離を置いて見ていますが、問題意識自体は共有できますし、人新世/気候変動や加速主義、ポストヒューマン論など、現代社会を表す重要なタームとも接続する重要な思想だと思います。また、例えば『美術手帳 vol.69 NO.1062』(美術出版社、2017年)の特集「これからの美術がわか

          Books, Life, Diversity #33

          Books, Life, Diversity #32

          東京はふたたび緊急事態宣言ということで、書店や出版社の置かれた状況はどこまでも厳しくなっていきます。ですのでこの投稿も、まだ続けていこうと思います。 いうまでもなく厳しいのは書店や出版社だけではありません。ここで本という文化に拘るのは、他の何かと比べてそれが客観的に重要だからかということではなく、単純に私自身にできることなどたかがしれているのだから、まずは私にとってできることをする、というだけのことでしかありません。それは責任逃れではなく、むしろ何の力もない平凡な――要する

          Books, Life, Diversity #32