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ロボット化により新たに生まれる遠隔オペレータという職種

「遠隔オペレータ」という職種を聞く機会が増えてきました。ロボット導入に伴う、新しい?職種と言えるかもしれません。ロボット化というと、人員が減るという印象が強いですが、当然ロボット化により新たな仕事が生じる領域もあります。

WIREDの記事では、”Shadow workforce(影の労働者)”と表現され、現実世界で動くロボットに不可欠な存在としています。

遠隔オペレータの事例

例えば、今週も知床の海に沈んでしまったKAZU 1を再度引き上げる作業を無人潜水機ROV「はくよう」が行ったようです。この「はくよう」には、海中で作業できるロボットアームが付いていますが、離れた場所からでも操作ができるようになっています。ここにも「遠隔オペレータ」の存在があります。遠隔操作のイメージは、以下のYoutubeを参照ください。

今回の知床のような極限環境とは異なりますが、オリィさんが進める「分身ロボットカフェ」も多くの遠隔オペレータが活躍しています。(ホームページでは「オペレータ」ではなく「パイロット」という表現をされています)

なかなか自宅から出ることができない重度障碍者に新しい就労機会を提供する取り組みとして注目されていることが多いですが、私が訪問したときには障害がある方だけではなく、海外に住まれている健常者が会話の相手になってくれたエリアもありました。

将来的には気軽に自宅から

深海での作業、分身ロボットカフェと聞くと、特殊な事例と思われる方もいるかと思いますが、「遠隔オペレータ」は最終的には身近な存在になっていくんだと思います。

そのイメージを表現したのは、ソニーと川崎重工業が作ったリモートロボティクス社が昨年度末の国際ロボット展で行ったデモかもしれません。家を模擬した環境からタブレットのアプリを使って、工場などにあるロボットを操作して薬品の調合を行ったりするデモを行っていました。内容としては、まだリアリティがあるという状況ではなかったという意見もあったようですが、「それぞれの家が職場になる」「専門的な制御技術がなくても、アプリで簡単に操作ができる」といったような最終的な使い方の妄想は十分できるものでした。

遠隔オペレータというバイト

このような遠隔オペレータが仕事の募集が掛ったことが話題になっていました。募集したのはロボット系のスタートアップであるテレイグジスタンス社です。コンビニの商品補充をロボットで行うなどの取り組みをして話題になったので、ご存じの方もいらっしゃるかと思います。

Twitterでも投稿された遠隔オペレータアルバイトの募集は、若干バズっています。勤務地は同社のオフィスになりますが、時給1450円(夜間は1800円)という待遇で、既に複数名の応募があったということです。

遠隔オペレーションは簡単?難しい?

ここで沸いてくる疑問としては、「遠隔オペレータという作業は誰にもできるのか?」というものです。この疑問は答えるのが難しいというか、タスクや技術のレベルに強く依存します。

オペレータの仕事は、ザックリ言えば、「状況の理解・判断」と「ロボットの操縦」という2つなんだと思いますが、①適切に状況が理解できるだけの情報が集まっているか、②その上で適切な行動を判断ができるか、そして、③判断を実現するようにロボットが思い通りに動かせるのか、という3つの関門があります。

基本的に①、②、③の全てが簡単なタスクはないと思われます。もし全てが簡単なのであれば、もはや遠隔からロボットを操作する必要は無く、完全自律化・自動化してしまった方が良いです。

①状況の理解:環境側にほとんど変化がない状況であれば、難易度は低くなりますが、状況が刻々と変わる環境においては結構難しいです。その場にいない中で、限られたセンサの状況だけで現場を完全に把握するのは難しく、不完全な情報の中で推定もしていく能力が求められると思います。

②行動の判断:①で状況が理解できたとしても、どんな行動をすべきかは別次元の話です。ここでも環境が一定であったり、フローがある程度決まっている場合には楽かもしれませんが、例えば、周りに人がいたり、モノが動いていたりする中で、適切な行動を判断できるかのは、オペレータが持っている性格とかにも強く依存すると思われます。(分身ロボットカフェの場合は違いますが)、基本的には遠隔の作業が必要な場合というのは、トラブっているときや例外処理的なときです。これはロボットでなくても、他の業界でもそうだと思います。例えば、コールセンターのような仕事は、AIのチャットボットでは対応しきれないようなお客様が困っているとき、怒っているときなどに、人が介入して、解決をしていく作業です。このようなプレッシャーのかかる状況を適切に読み、お客様や周りに悪い影響がでないような選択をする必要があります。ロボットの例で考えると、例えば道路をロボットが遠隔操縦で横断するとき、同じような環境に対する理解度であっても、道を渡るかもう少し待つかは人によって異なるでしょう。

③ロボットの操縦:①②の判断が難しく、何をするかが決まってしまえば簡単というケースもあります。その場合には、例えばロボットの作業をボタンとかで選ぶとかゲームコントローラで操作するという比較的単純な操縦にしてしまうことができます。一方で、①、②は簡単だけど、③が難しいという場合もあります。それは、自動が出来ない理由がタスク自体がロボットには難しいという場合です。例えば、先ほどのテレイグジスタンス社の例で言うと、98%は自動で動いていると発表されています。逆に言うと、残りの2%はロボットには難しくて自動化できないとも言えます。これが判断の面で難しいのであれば、人間側の知能を使って、タスクを実行すれば良いのですが、タスクそのものが例えば微細とか繊細とかレベルが高い場合には、遠隔でやっても当然難しい場合が多いです。触覚や視覚などの情報を提示することで作業をサポートしますが、難しい場合も多々あります。

①~③いずれも技術レベルが上がってくることで、それぞれが簡単にできるようになっていくとも思いますが、当面は①~③のどこの部分が難しいタスクなのかというのを十分に理解していく必要があるのかと思います。

遠隔オペレータに求められる能力

例えば、世界中で配送ロボットの取り組みを推進しているstarship社は、遠隔オペレータに求められる要件を以下のように設定しているようです。

令和2年度流通・物流の効率化・付加価値創出に係る基盤機構事業 (自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた調査) 報告書 2021年3月19日

例えば、「信頼性が高く、細部にまで気を配り、プレッシャーにさらされても落ち着いていられる」「一度に数時間、画面の前で警戒と応答に対応可能」「自立しており、思いがけない状況でもイニシアチブをとることができる」「路上で見知らぬ人とも問題なく話ができる」「想定外の状況でも素早く考え問題解決できる」などと、結構要求レベルは高いです。笑

テクニカルなこともよりも、ヒューマンスキル的なところを意識しているように感じます。特に、デリバリーの受け渡しやトラブル時のコミュニケーションというのを意識しているのかもしれません。もちろん、対象とする遠隔タスクがコミュニケーションがメインなのか、物理的な作業がメインなのかによっても異なりますが、これまでロボットを開発してきた、もしくはインテグレーションしてきたというスキルとはちょっと違う領域のスキルを身につけていく必要があるということでしょう。


そして、①~③のそれぞれが技術的に簡単になるだけではなく、人側もしっかりトレーニングしていくことも重要な要素になるでしょう。これはどんな仕事でもそうだと思いますが、新しく始める場合にはリスクを理解し、しっかりスキルを習得する、そして、継続的に自分のスキルを向上させていくコトが必要です。

例えば、ドローンの業界においては、教習所・訓練所みたいなところが多く設置されていますし、移動ロボットにおいても同様の取り組みが始まりつつあります。


産業革命以来、技術の進化と仕事の関係については、仕事を奪うなど様々な意見もありますが、新しい仕事もどんどん生まれてくることも事実かと思います。今回は、そんな1つである「遠隔オペレータ」について紹介してみました。

ご興味あれば、是非遠隔オペレーション体験してみてください!

では、また来週〜。
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安藤健(@takecando)

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