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「ホントはロボットよりヒトのが好き」というロボット開発者の原点

「いつからロボットの研究を始めたんですか??」

今週は就活生と話したり、インタビューを受けたりと「キャリアの原点」的な質問をいくつか受けたので、それに関連した話題として、自分の事例も踏まえながら、スキがどのように仕事に繋がっていったのかを書いておきたいと思います。

noteのプロフィールにも書かせてもらっているのですが、「ホントはロボよりヒトが好き」というのが、私の中に結構なコアな想いとして存在しているものになります。

まず今回はそこにつながる原点の学部4年時代の話です。まだロボット存在はでてきません。。。笑

ロボットの研究開発をしているのに意外と思われる方も多いかもしれませんが、ロボット研究者の中では割と多いのではないかと思っています。ロボットを研究している人の中には、「ロボットを作ること自体が好きな人」(イメージ的にはロボコンとかをやっている人)と「ロボットを通じてヒトについて迫りたい人」がいます。私は完全に後者のタイプ。

ピュアに二足歩行ロボットを作ることがとても楽しいという人と、二足歩行ロボットを作ることで人がどうやって歩いているかの本質を理解したいという人みたいな違いでしょうか。

アンドロイドで有名な阪大の石黒先生も、おそらく人を知ることを主目的にしているように思います。

そんな私が「あっ、自分はロボットよりも人の方が好きなんだ!」と自覚したのは、大学の学部三年生になるときでした。卒論を行う研究室を選ぶということになったときに、機械工学科であったにもかかわらず、どうしても周りの人たちみたいに自動車が好きとか鉄道が好きとか、エンジンが好きとか、ロボットが好きとかそんな気分にならずに、どうやって研究室を選ぼうかとかなり迷いました。

そんなときに出会ったのが、医療福祉工学研究室という研究室で、手術ロボットとか、リハビリロボットの研究をしているところでした。単にロボットを作っているだけではなく、よく聞くと、例えば手術ロボットの研究テーマでも臓器を粘弾性試験機にかけて、医師の言う「硬い」とか「プニプニ」とかいう感覚を工学的に表現しようとしているという感じでした。

今考えると、どこまでわかっていたのか怪しいですが、当時は「これだーー!」というよりも「なんか面白そう!」と思ったのを覚えています。

というわけで、その研究室に配属されることになった私は、次なる難題にぶつかりました。

「卒論のテーマを何にしよう」

というものでした。その研究室では、本当にテーマ設定は自由で、一人一人が自分のしたいことを知るということでした。手術みたいなテーマにするか、福祉のテーマにするか、先輩に相談したり、論文とかを読んでみたりする中で、あっという間に学部三年の一年間が過ぎ、いよいよテーマを決める4年生になりました。

結果、筋肉をテーマにすることにしました。特に、それまで野球をやっていたので、肩とか腕とかの筋肉。どうやったらもっと速いボールが投げられるのか、どうやったらケガをしないようになるのか。ケガが多かった自分としても単純に興味をもったのだと思います。

最初のうちは、わけもわからず動作解析というのをやっていました。モーションキャプチャーと呼ばれる装置の中で、自ら全身タイツとかパンツ一丁にになり、全身に反射マーカーを付けて動きを計測する。

ハリウッドの映画とかで使うやつで、これはとても楽しかった。自分の投げる様子がコンピュータの中に取り込まれて、棒人間として再現される。何度も何度も投げる様子を計測して遊んでいました。

工学的には、そのデータを使って、逆運動学とか逆動力学とかそのあたりの知識を勉強しながら、各関節の負荷を推定したりしました。そのあたりまではできたのですが、さらにその先の筋肉の負荷まで計算しようとしたら、ド素人の学部四年生には難しく、ギブしたことを覚えています。
(東大の中村先生グループが発表した論文とか見て、さすが東大!と思いました。20年くらいにはオリンピック向けの活動などにも使われていて、社会貢献としても素晴らしいですね!)

人体の動きをより手軽に迅速に計測|中村仁彦|オリパラと東大。 | 東京大学 (u-tokyo.ac.jp)

そんな難しい計算にギブをした私は、もっとシンプルな問題にしようということで、野球みたいな複雑な動作ではなく、肘を曲げる、肩を上げるみたいなシンプルな動作をまずは調べることにしました。

特に、部活で野球をやっているときから言われていた「インナーマッスルが大事だ!!」ということを、もうちょっと調べてみようということで、ちゃんとインナーマッスルが鍛えられているかを調べるための研究をしました。

使ったのは、表面筋電位という情報です。普段意識することはないですが、身体動かそうとすると、脳から動かせという信号が出て、それが筋肉に届くとき、筋肉を動かすためにとても弱いですが電気が流れるんですね。それを皮膚表面から読み取ってあげることでちゃんと筋肉が動いているかを調べようと思ったのです。

ところがどっこい、皮膚の表面からなので、いわゆるアウターマッスルという表面に近い筋肉が活動しているのか、インナーマッスルという少し奥の方にある筋肉が動いているのかがわからないということがわかったので、であればそれを見極めることを卒論のテーマにしよう!ということになりました。

ところがところが、やっぱりそんな簡単にはいかないわけです。同じ人でも筋肉の信号を測る電極の位置がちょっとズレただけでデータは全然変わるし、もはや被験者変わったら筋肉のつき方とかも全然違うので、どこに電極貼れば良いかもよくわからないし!!みたいな格闘をしばらく続けました。

ところが人間というのもよくできたもので、何度もやっていたり、解剖学を勉強してみたりすると、だいたい一発で所望の計測位置がわかってくるようになるのです。

結果的に、卒論の研究は、「表層筋と深部筋の表面筋電位のSVMによる識別 : 肩外転動作と外旋動作の識別」という形で論文になりました。

今から見ればいろいろとツッコミどころは満載ですが、何もわからない学部四年生としてはよく頑張った!ということにしておきましょう。

モーションキャプチャで遊んでいたことも含めて学部4年のこの一年の経験が、ヒトの神秘さというか、ヒトの身体やそのメカニズム、生体の発する情報などへの一層の興味に繋がり、今確固として自分の中に存在する「ロボよりヒトが好き」という考え方の原点となる体験になったことは間違いないと思います。

そして、副次的にはサポートベクターマシーン(SVM)という機械学習(今でいうAI)を使うことになったのですが、自分でコーディングして理解を深められたことは、のちのAI大活躍時代にとっても何となくでも触っておいて良かったなと思います。

そんな私も、学部四年で卒論を書いてから20年ほど経ちました。ヒトを理解することの難しさと魅力を知ってから20年とも言えますが、そんな私も今では企業でロボットの研究開発をする組織の責任者になっています。

そこまでの道のりはまたの機会として、「当時(学生時代)好きと思ったこと」と「今の仕事」は一見違うようにも見えますが、脈々と自分の中では繋がっていますし、逆に研究室を選ぶタイミングで違う選択をしていたら、今のキャリアとは違う道になっていたはずです。

将来どんな仕事がしたいか具体的にイメージできない人も、まずは目の前の楽しそうなこと、興味あること、もしくは、与えられたことを、必死になってやってみるのが良いのではないでしょうか。

というわけで、就活生へのエールと自分の研究の原点を忘れないようにするための今週のnoteでした。

では、また来週~!!
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安藤健(@takecando)
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