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異分野融合を阻む社会的境界と認知的境界

この3年くらい日本機械学会の中で、「少子高齢化社会を支える革新技術の提案」という学会横断の取り組みを担当させて頂いています。活動の一環で、年1回の講演会みたいなものを開催。

ご興味ある方向けには、2021年2022年の公開動画を貼ってきます。

今年の話の中で、ヘルスケアに限らず一般論としても面白いなと思った話があったので、紹介しておきたいと思います。それは、「異分野連携における壁」の話。

慶應の名誉教授であり、日本医工ものづくりコモンズの谷下 一夫 先生が講演の中で紹介されていたなのですが、イギリス King's College LondonのEwan Ferlie先生らの研究 "The Nonspread of Innovations: The Mediating Role of Professionals" です。(原文が読みたい方はこちらから。日本語の解説的な記事が読みたい方は東大阿部先生のこちらがオススメです。)

この論文自体は、ヘルスケア領域、特に急性期医療やプライマリケア、におけるイノベーションの事例を分析して、どのようにイノベーションが拡がっていくのかという内容です。その中で、イノベーションが組織を超えて、拡がらないところには、2つの境界があるというのです。

  • 認知的境界

  • 社会的境界

です。

「境界 (boundary)」というのは、「異なる専門家のグループ間に存在し、新しい実践の 拡がりを妨げる相対的な不透過性をもつ境目 (a relatively impermeable frontier between different professional groups that inhibits the spread of new work practices)」と定義されているのですが、「見えない壁」があるということでしょう。

認知的境界というのは、「知識の基盤」と、そもそもの「文化」が違うために生じるもので、専門用語はもちろんのこと、日常的に使う言葉も違うし、その結果として、何を重んじるとかいった考え方や文化が違い、結果としてわかり合えない、という内容。

一方で、社会的境界は「役割」、「アイデンティティ」、「仕事の実践」が影響していて、ザックリ言えば、仕事の内容も役割も違うし、そもそもアイデンティティが違うので、わかり合えないという感じかと思います。

認知的な境界というのは、育ってきた環境が違うから仕方ないよね~という話で、勉強したりしていくしかないように感じるのですが、社会的な境界というのは、厄介です。前述の阿部先生の解説の中でも触れられていましたが、『専門家は自身が属する専門家集団の「管轄権 (jurisdiction)」とアイデンティティを守るために、外部者が自身の専門領域に介入することを妨げる性質をもつ』、そして、『専門家の役割は専門分野ごとに決められており、それに基づいて現場で働く専門家個人のアイデンティティが形成されている』というものなので、安易にそのあたりを変えようすると、逆に大きな反発が出るというか、余計に上手く話が進みにくくなるような気もします。ある意味では、その分野とかその人の尊厳に関わるような話かもしれません。

論文の中では、役割分担上の工夫や良好な関係性を築くこと、そして、前向きな議論をしていくことで、社会的境界も乗り越えることができるとされていますが、なかなか難しい問題な気もします。むしろ、組織のデザインとか、リーダーの振る舞いなど、マネジメントのあり方が大きな役割を果たしそうな問題でもあります。
※谷下先生の講演の中では、異分野連携の障壁を乗り越えるためにも、個々の繋がりだけではなく、専門家の学会同士が連携できる場として、複数の医学系学会、工学系学会が属する「医工ものづくりコモンズ」を作り、運営しているというご説明もありました。

言われてみれば、2つの障壁があるというのは、当たり前のような内容かもしれませんし、実際に異分野連携を進める上では、ぶち当たる壁としての実感とも合っています。

この論文自体は、非常に高い専門家(プロフェッショナル集団)の医学分野での連携という話でしたが、専門職と呼ばれるようなレベルでなくとも、1つの会社の中での部門を超えての連携とかでも十分に起こりうる現象です。

イノベーションは新結合!、越境、共創、異分野融合、総合知、オープンイノベーションとか、さまざまなコラボレーション系の言葉が乱れ飛んでいる今だからこそ、改めて、認知的、社会的という2つの境界を意識したマネジメントが重要とも思いました。

では、また来週〜。

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安藤健(@takecando)

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