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「介護ロボットで事故が起きている」報道を受けて

※本記事における意見は所属機関などとは全く関係ありません

先日ちょっと気になるニュースが話題になっていました。

介護ロボットを利用するシーンにおいて、少なくとも年間70件くらいの事故、370件のヒヤリハットが起きているという内容。

Yahoo!ニュースでもSNSでも多くの方がコメントされています。「恣意的な報道だ」「ロボットは正しく作動しておりロボットの事故ではない」「結果が公表されるのは良いこと」などなど。

そもそもニュースの発端となった報告書

読売の報道の元ネタは、厚生労働省の委託事業で三菱総研が調査し、公開した以下のレポートです。
介護ロボットの安全利用に関する調査事業研究

調査事業の目的は
「本事業では、介護ロボット利用上における安全性を確保するため、アンケート調査・ヒアリング調査 を通じて介護ロボットの活用時のヒヤリハット事例収集を行い、介護ロボットの活用における安全を確保するために必要となる事項を整理するとともに、介護ロボットの安全な使用方法や使用に当たって の注意すべき点等を整理し「介護ロボットを安全に使うためのポイント集」を作成する」
とされています。

13種類のロボットに関して、介護ロボットを導入している施設・事業所1517カ所にアンケートを行ったというものです。アンケート回収率は42%(639カ所)。

その639件の中で、過去一年間で事故があったのが29件(4.5%)、なかったのが563件(88%)。無回答47件。そして、ありと答えた施設では、平均年間4.9回ヒヤリハットがあったとされています。

一方、ヒヤリハットに関しては、639件の中で、過去一年間でありが89件(14%)、なかったのが504件(79%)。無回答46件。「あり」と答えた施設では、平均年間2.9回事故が起きているとされています。

図1

ここで事故とヒヤリハットは、受診あり、受診なし、で分けています。
もちろん、ハインリッヒの法則にもあるように、ヒヤリハットにもカウントされていない軽い事例はもっと沢山あることは間違いないと思われます。

この数字が多いのか少ないのかは、ロジック次第でどちらでも言えるので、ここでは議論はやめておきます。

 どんな事故やヒヤリハットがあったのか?

画像2

画像3

どんな事故やヒヤリハットがあったかは、「介護ロボットを安全に使うためのポイント集」として、イラストも交えながら、事例の紹介と気を付けることが纏められています。

例えば、見守りロボットにおいて、「電源が入っておらず、見守りできなかった」というようなものから、装着ロボットにおいて、「ワイヤーが脚に食い込み、皮膚が赤くなった」というようなものまで本当に様々です。

もちろん、メーカー側からすれば、「電源は入れておいてくれないとどうしようもないよ」、「仕様書通りに使ってもらったら、ちゃんと安全に使えるのに」「取扱説明書に注意事項は書いてあるので、守ってもらわないと」という想いでしょう。メーカのエンジニアとしては、めちゃくちゃわかります。まぁ、現実には現場では取説はほぼ読まれないし、それでも安全に動く、使えるモノになっているのが、必要なんだろうと思います。

技術的に考えれば、例えば、電源入っていない問題に関しては、電源が入っているかどうかを確認するためのセンサを更に加える、そのセンサがちゃんと動いているかも更に監視するセンサを入れる、みたいにリスクを減らそうとすれば、無限大にやることはあります。ただし、当然その分、コストは上がります。。。

メーカーサイドからすると、基本的にはリスクはゼロにならないという中で、ALARP(As Low As Reasonably Practicable)の考え方に則り、『予見可能な誤使用』に関しては『許容可能なリスク』になるまで、徹底して下げる。残ったリスクに対しては、利用者に通知する、運用でカバーするということしかできません。もちろん、通知が分かりやすいように、そして運用がしやすいようにデザイン、UI/UXを配慮するというのも必要です。

リスクアセスメントを行う際に、どのようなことを予見可能な誤使用とできるか、またどれくらいの頻度で起きうるのかということに関しては、今回のような調査は非常に有益であり、是非続けて頂きたいとも思います。

それをしても、やっぱりリスクはゼロにはなりません。最終的には、現場での運用が非常に大事になるでしょう。運用次第で、リスクを更に低減することもできるでしょうし、逆に許容可能範囲に入っていたリスクが逆に増えることもあります

この辺りはサービスロボット分野において、メーカー側はISO13482、JIS B 8446,8447に記載されていますし、運用側に関してはJIS Y 10001に記載されています。興味ある方は、読んでみて下さい。

ロボットはリスクを増やしたのか?

このような事故レポートを見る際に大事なこととしては、ロボットがある場合とない場合でリスクや危険源は変わっているのか、というのかあるかと思います。

例えば、ベッドからの転倒転落。
もちろん、転倒転落を防ぐために見守りセンサを導入するわけですが、仮にセンサがOFFになっていたとしても、元々あった危険が増すわけではないです。もちろん、センサに頼り切って、見回り頻度を下げたりすれば見逃す頻度が上がってしまいますが、その辺りは一旦置いておいて、単純に見守りセンサを設置していたのに、転倒転落が起きてしまったから、見守りセンサは良くない、悪だ、みたいな論調になるのは避けたいところです。

たとえ電源が入ってなければ、何も入っていない状況に戻っているだけです。年間の医療事故の1/5を占めるとも言われている転倒転落をセンサ導入によりどれくらい下げられるかということの方が、導入した場所でどれくらい起きたかということよりも大事な気がします。

そういう意味においては、これまで事故が起きた時にしかわからなかったベッドからの転落というものが、センサをつけることにより、事故が起きた回数だけでなく、たまたま転倒せずに移動できたケースも含めて計測できるようになったということは、ロボット化によるメリットの1つと言えるでしょう。

一方で、装着型ロボットを使う時に、ワイヤーが足に食い込んだというような事例は、ロボットを使わなければ起きないリスクでもあるので、こういうのはメーカー側もサービサー側もより丁寧にケアしていくべきかと思います。

メーカーが悪い、メディアが悪い、ユーザーの問題だなどと、誰が悪いのかという責任分界点を明確にするのも悪くはないのですが、最も大事なのは、最終的に介護者や被介護者などのステークホルダーが身体的、精神的、経済的な大きな負担を感じることなく、皆が快適に生活できるようになることです。

関連する方々、業界、そして一般の社会という中で、こうした調査をもとに定期的に現状や今後の考え方に関する意識合わせをしていくのがよいのではないでしょうか。

そして、事故、ヒヤリハットだけではなく、良い方の事例もどんどん集められる仕組みもあればと思います。どのような方にはどれくらいの効果があるのか、一方でどの程度のリスクがあり、コストが掛かるのか。このベネフィット、リスクのバランスとその対価がより精緻になってくると保険点数なども含めて合理的な方向に向かいやすくなるでしょう。

そういう意味では、今回の報道やその元となった厚労省の調査にはとても意味があったと思います。

では、また来週〜。

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安藤健(@takecando)

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