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2023年度第33回青山音楽賞受賞者に聞きました②(全4回)〈バロックザール賞〉TRIO VENTUS〜トリオ・ヴェントゥス

※冒頭から目次までの文章は①〜④まで各回共通です。
毎年1月から12月までの1年間に青山音楽記念館バロックザールで開催された公演の中から選考され、個人または団体に贈られる「青山音楽賞」は、演奏の質そのものだけではなく、将来性やプログラムの構成力なども含めて、演奏会のすべてがまるごと評価されるという他にはないユニークな審査方式をとっている。また、受賞者には賞金に加え、音楽研修費や受賞後の演奏会開催などの副賞が贈られるという充実ぶりで、これまで多くの演奏家が青山音楽賞受賞を期に更なる飛躍を成し遂げてきた。

若手奏者に贈られる「新人賞」、音楽における芸術性をさらに高めることが期待できる音楽家に贈れる「青山賞」、アンサンブルとしての質の向上と演奏活動の継続が望まれる団体に贈られる「バロックザール賞」とがあり、2023年度の受賞者、受賞団体は次の通りです。

〈新人賞〉
太田 糸音(ピアノ)
戸澤 采紀 (ヴァイオリン)
〈青山賞〉
該当者なし
〈バロックザール賞〉
ディルク・アルトマン(クラリネット)&岡本 麻子(ピアノ)
TRIO VENTUS  トリオ・ヴェントゥス(ピアノ三重奏団)

※青山音楽賞の詳細はサイトを参照ください。
〈青山音楽賞とは〉
https://aoyama-music-foundation.or.jp/music_awards/

〈これまでの受賞者〉
https://aoyama-music-foundation.or.jp/laureates/

TaKE NOTEsでは、第33回(2023年度)受賞者にインタビュー。受賞の歓びと、プログラムに込めた思いなどを聞きました(全4回)。
(2024年3月2日、青山音楽記念館 バロックザールにて)

第2回は〈バロックザール賞〉受賞、廣瀬心香(ヴァイオリン) 鈴木皓矢(チェロ) 石川武蔵(ピアノ)によるピアノ三重奏「TRIO VENTUS (トリオ・ヴェントゥス)」です。


TRIO VENTUS*受賞公演について

2023年度第33回青山音楽賞
〈バロックザール賞〉TRIO VENTUS (トリオ・ヴェントゥス)/ピアノ三重奏団 廣瀬心香(ヴァイオリン) 鈴木皓矢(チェロ) 石川武蔵(ピアノ)

賞公演: TRIO VENTUS RECITAL 見知らぬ情景 2023年12月16日(土)

シューマン:ピアノ三重奏曲 第1番 ニ短調 作品63
リーム:見知らぬ情景Ⅲ
ラヴェル:ピアノ三重奏曲 イ短調

評価:凛とした風格のある演奏で、三人の音の美しさが絶妙に溶け合っていく。互いに触発し合う躍動感に満ちた音楽は新しい息吹を感じさせた。

略歴
https://aoyama-music-foundation.or.jp/profile/2959/

2024年3月2日バロックザールで行われた授賞式にてラヴェルのピアノ三重奏曲より第1楽章を演奏(写真提供:公益財団法人青山音楽財団)

ドイツで結成した常設のピアノトリオ

桐朋学園大学を卒業後、ベルリン芸術大学で研鑽を積んだヴァイオリニストの廣瀬。同じく桐朋学園大学を経て、バルセロナのリセウ音楽院、ハンス・アイスラー音楽大学ベルリンで学んだチェリストの鈴木皓矢。桐朋女子高等学校音楽科(男女共学)卒業後、フランス・パリ国立高等音楽院で学んだピアニストの石川武蔵。その後、ベルリンを拠点に演奏活動を展開していた3人が、帰国間際の2019年に結成したTRIO VENTUS。日本ではとても珍しい常設のピアノトリオだ。
バロックザール賞受賞の感想を訊ねると、「結成以降、コンサートの度に相談しながらプログラムを作り、入念にリハーサルを積み重ね、密度の濃いコンサートを行ってきました。そうした地道な活動がやっと実を結んだのかと思うと感慨深いものがあります。そしてとても嬉しく思います」と石川。「これまで名だたる演奏家が受賞している賞なので、臨むからには絶対に欲しいタイトルでした」と廣瀬が続けた。

このコンサートのプログラムは、今年2月23日にリリースされたアルバム「LUX」にも収録されている。テーマは「光」。
「シューマンの第1番を取り上げようということになり、この作品を軸にパズルを組み立てるように選曲していきました。シューマンはロマン派を代表する作曲家で後世に与えた影響が非常に強いです。そうした繫がりと、私自身、フランスで勉強していたこともあって、フランス作曲家を取り上げようと思い、ラヴェルの作品を。そしてふたりはドイツで学んでいましたからドイツの作曲家を、ということでリームの作品を選びました」(石川)
「このプログラムは収録することと、コンサートで演奏することと、その両方を念頭に置いて選曲していきました」と廣瀬。アルバムもコンサートを聴いているような感覚で聴いてもらえるようなプログラミングを意識したのだという。
「私たちはプログラミングにこだわりを持って取り組んでいます。青山音楽賞は、演奏だけではなく、選曲やテーマなども含めてコンサート全体を評価してくださるので、私たちの趣旨と合致すると言いますか、挑戦し甲斐がある賞でした」(鈴木)

現代音楽もフラットに

プログラムにあるヴォルフガング・リームは前衛的な響きが特徴的なドイツの作曲家だ。コンサート当日の聴衆の反応を尋ねると、「フラットに受け入れてくださっているように感じました」と石川。「現代曲を取り上げると、“一体この曲は?”と微妙な空気が流れることもあるのですが、そういったことはありませんでした。シューマン、リーム、ラヴェルという流れが良かったのかもしれません」(石川)
「終始あたたかい雰囲気でしたね。このコンサートは賞にエントリーしていたわけですが、コンクールに挑戦するような特殊な緊張感はなく、お客さまが集中して聞いてくださっていたおかげでのびのびと演奏することができたと思います。自分たちの力を発揮することができました」(鈴木)

天井が高く気持ちの良い響き

バロックザールでの演奏はこのコンサートが初めてだったという3人。弾き心地を訊ねると「天井が高いのがこのホールの特徴だと思うのですが、その効果なのかとても良い響きで室内楽に最適な会場だと実感しました」と鈴木。石川は「ヨーロッパの教会を思い起こさせるような音響ですね。程良く響いて、その残曲が響きに益々エネルギーを与えてくれるようなところがあります」と語った。
廣瀬によると、コンサート直前のリハーサルの際、ステージ上で音のバランスの取りやすい場所をじっくりと探し、ベストな状態で演奏できよう、準備に時間をたっぷりと費やしたのだという。「それも良い演奏会に繋がったのだと思います。また、バロックザールは一番後ろの席の方までお顔が見える規模なので、客席の皆さんとコミュニケーションを取りながら演奏ができるところが良いですね。とても楽しい時間を作ることができる空間です。そうした会場で演奏できたことが私はとても良かったです。次は初回での経験を活かしたプログラミングができますから、今から楽しみにしています」(廣瀬)

ピアノトリオの魅力

写真左より、石川武蔵(ピアノ)、廣瀬心香(ヴァイオリン)、鈴木皓矢(チェロ)
写真:©TaKE NOTEs.

最後にピアノトリオの魅力を訊ねると、「チェロが活躍する曲が多い!」と鈴木。シューマンのピアノ三重奏曲第1番も冒頭の主旋律はチェロが奏でている。チェロ好き必聴の作品が意外に多い。
すると、「ヴァイオリンはどんな演奏形態でも目立っているので、目立つから嬉しいというようなところはないのですが(笑)、ピアノトリオでのヴァイオリンは“良いところ取り”でやり甲斐を感じます」と広瀬。室内楽の基本は「クァルテット」と言われているが、「室内楽の入口としてピアノトリオを薦めたい」と続けた。ソリスト的な面も要求されるため、取り組みやすいのだという。

常設であることのメリットについては、「クァルテットに取り組むようにバランスを考えた音楽作りができることです。このトリオでは常設ならではの演奏をしたいと常日頃思っています」と鈴木が答えてくれた。
石川は留学時代に師事していたジャック・ルヴィエがピアノトリオを組んでいた時期があったとのことで、いつか自身もピアノトリオをライフワークにしたいと考えていたのだという。「仲間がいなければ実現することはできませんから、こうして常設で取り組めるようになって、本当に良い出逢いだったな、と感じています。私たちは日々進化していますから、次のコンサートも期待していてください」

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