📗信用の貯金

　生徒が宿題を忘れてきたとき、A君には、
　「宿題は約束だ！今日残ってやってから帰れ！」と、きつく接する。
一方、B君には、
　「なぜ、宿題忘れをしたんだ？そうか、宿題を家に忘れてきたんだな。わかった、家にはあるんだな。今日だけ特別に許そう。明日持って来いよ。」と、かなり緩い。

　生徒を教える立場を経験したことのある方は、わかると思うが、生徒によって、異なった対応をしているのだ。逆に言うと、全ての生徒に同じ対応をしていては、上手くクラスを運営できない。

　これは、依怙贔屓（えこひいき）ではない。生徒の性格や状況に合わせて対処方法を変えている「臨機応変な対応」なのだ。

　しかし、その対応の差が生徒に気付かれやすい状況がある。多くの生徒の前で宿題忘れを注意するような場面なのだ。「先生！ずるいぞ！エコヒイキだぞ！」と、A君。
A君に同調するいつもの「宿題忘れ組」たち。

　塾講師になりたての頃は、その正当そうな訴えに、かなりドギマギしたのを覚えている。「A君はいつも宿題を忘れてくるが、B君はめったに忘れてこないから、対応を変えているだけだ。」と言いたいが、

　それを生徒に言っても、説得力に欠けるのだ。結局、「おまえが、いつも宿題を忘れるのがいけないのだ！」などと、無理やり強い言葉で生徒をうなずかせるような形を取ることになる。

　そこで、ひねり出したのが「信用の貯金」という考え方だ。分かりやすく言うと、コツコツと宿題を忘れずに提出し続けた実績を「信用の貯金が増える」と換言するのだ。　
　そうすると、クラス全体を見回したとき、「信用の貯金」の残高（💦）で、生徒が分類される。　

　「信用の貯金」を導入すると、生徒がエコヒイキをねじ込んできたときにも、「君には信用の貯金がほぼ無い。しかも、前回忘れてきたとき、一日提出を待ったのだから、『信用の借金』ができているくらいだ。だから、叱られたのだ。」などと、カウンターパンチをくらわすこともできる。💦　

　そこまで言えば、許された生徒は「信用の貯金を持っていた」ということが、言わなくともみんなに伝わるのだ。

　生徒は、「平等」という言葉が好きだ。「人はみな平等なのだから、ぼくだけこんな目に合うのはおかしい！」と、詰め寄る。しかし、この考えは「平等」と「公平」をはき違えているのだ。

　生徒を「平等」に扱うなら、このようなことになる。

　しかし、本来はこのように「公平」に扱わなければならない。

つまり、平等とは「個⼈の資質、能⼒、努⼒に関係なく⼀定の規則通りに遇するシステム。差別や偏りがなく、みんな⼀様に等しいこと。」であり、

公平とは「すべての⼈に対し機会が均等に与えられて、成果を挙げた⼈が評価され報われること。えこひいきをしないこと。その⼈に必要な⼿⽴てや⼿助けが与えられること。」なのである。

　以上をまとめると、「信用の貯金」は「公平」の立場を取ったシステムと言える。
　詰め寄ってきた生徒にはこういうのだ。「先生は、不公平は嫌いだ。だから、君には厳しく叱り、Ｂ君にはチャンスを与えたのだ。君は不公平が好きなのか？」と。

🦉以上

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