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『夏物語』(川上未映子)感想

夏の読書感想文ではないが、まじめに書こうと思う。
特に愛読者として、本当に感想文ぐらい書いてあげないといけないぐらいの大作だと思った。あとちゃんとサイン本も買った。だから本日は素直に書きます。ネタバレはしない。

世界なんて、あなたと私でやめればいい。『発光地帯』より

こんなタイトル打ち出しただけで、もう脱帽だと思う。note始めた当初から都度言ってきたが、私は川上未映子さんの大ファンを自負している。どんぐらいかと言うと、純粋悲性批判やってた頃から、です。

で、昨日読了しました。このお方は、また一つ、また一個、世界にギロチンを放った。それを私ははっきり思った。それを自分にとっての救い、になるのかどうかは結局別の話で、川上さんがギロチンを放ってくれているから、私も傲然とnote書けているのかな、と割と本気でそう思う。

『夏物語』はもちろん個別の大長編としてとてつもないステージに立っている。だけど大の川上ファンとしては、連作に思えてならなかった。『夏物語』があって、その中に『すべて真夜中の恋人たち』があって、『ヘヴン』できつい現実に晒された2人がいた。で、当然ながら『乳と卵』が根底に流れている。核心の核心を、上記の『世界なんてあなたと私でやめればいい』という一編の独白に置いて。
一読目はそんな風に読んだ。だけどきっともう一度読む事になる。希望を持ちたいから。

川上作品の、ギロチンについて触れて置かなければならない。川上作品には、絶対に直接対決をする絶対的な敵が出てくる。『夏物語』の善百合子、『すべて真夜中の恋人たち』の聖、『ヘヴン』の百瀬。
捉え方はきっと人それぞれなのですが、私は彼等を現実側の一般論者だと見ました。彼等の言葉に、間違いは一つもない、なのに、絶対に受け入れたくない言葉を放つ、そこに善悪はない、ただの抵抗し難い現実と言う名のギロチン、それが彼等の言葉です。川上さんはこの鋭利なギロチンをフィクションの形で混ぜ込めねばうち出せすらしなかった。徹底的な現実と、一般論と、そこに苦悩する主人公の気持ちをへし折る圧倒的な敵意、これを、フィクションという形で具現化して、本当は隠して、飾り付けて誤魔化している現実を、振り下ろした。
その後の彼等がどうなったのか、それは甘えないで読んで欲しい。
川上さんは読者に絶対に目を背けさせない。僕とあなたと、その周りの大切な人を守る為に、今、現在は世界を敵に回す必要があるんだ。その現実から、目を、背けるな。

ここまで書いて、私はようやく理解が出来ている。川上さんは、特にブログやらエッセイなんかを読んでいるとすごい分かるのだが、文章の終わりに必ず、読者に向けてものすごい気遣いをする。ご自愛下さい、ってレベルじゃなくて、謝辞、にしては長い。これ無意識かもしれないけど、読者の人生観を自分の著書で思いっきり変えてしまっていることを分かっている、からなのかなぁ。だとしたらとんでもない話。一度だけ本人にお会いしたことがあるのだけど、どこからどうみても優しい人なのだ。そんな人が、読者の人生を激変させると思って、長編を書き、謝辞を送る。その覚悟、やっぱり私は尊敬してしまう。

男性、に関しても間違いなく触れておかなければならない。なぜか?この小説の中で、男性は完全否定されたのだ。心も身体も、全くいらない。ごく一般的な話じゃない。気持ち悪いとか下心が、とかそんな話じゃない。存在自体、いらない。私はもちろん男性だけど、もう完全に論破された気分である。納得している。そうだと思う。
下心丸出しのどうしようもない男も否定された。ことここに至り、フェミニズムに媚びて漁夫の利を得ようする男も否定された。遺伝子。それ以上は存在としていらない。

本気で考えなければいけないと思う。男性、という生き物に対して、存在として、人間として、どうあるべきなのかを誤魔化さず、損得勘定抜きで考えなければいけないところまで、来てしまった。

実際のところ、それまでの作品を読んでいて、気づいていた。本当は時々、忘れたかった。でも、もうそんなことは許されない。凄まじく長いレビューになったが、本当に、一愛読者として、たくさんの人が読んでくれますように。と切に願う。

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