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前鋸筋(serratus anterior)

今回は肩関節疾患を治療するときには必ずと言っていいほど名前を聞く、
「前鋸筋」についてです!

臨床では前鋸筋のトレーニングが大切なのはわかっていても、意外と難しいと思っている方も多いのではないでしょうか。

前鋸筋の筋力低下や長胸神経麻痺によって起こる「翼状肩甲」と、見た目上はすごく似ている「立甲」の違いについても説明していきたいと思います。

肩甲骨の外転という意味で、前回解説した僧帽筋の拮抗筋でもあります。

それでは、唯一の肩甲骨外転筋としても知られ、投球や肩関節疾患とのつながりも深い前鋸筋について詳しく見ていきましょう。

前鋸筋の起始停止

画像1

(Visible bodyから引用)

起始:第1~9肋骨
停止:肩甲骨内側縁
神経支配:長胸神経C5~C7 
作用:肩甲骨を前方へ引く、肩甲骨上方回旋
(基礎運動学第6版)
起始:第1-8(~10)肋骨
停止:肩甲骨内側縁、上角、下角の肋骨面
第1~2肋骨と腱弓からの筋束は上角に、2~3肋骨からは広く内側縁に、第4肋骨以下からは下角に集まる
神経支配:長胸神経C5~C7 (C8)
作用:肩甲骨を前方へ引く、下2/3の筋束は肩甲骨上方回旋
(分担解剖学1総説・骨学・靱帯学・筋学)
起始:第8~10肋骨の前外側面、上縁と肋間筋の間
停止:肩甲骨上角から下角までの前内側
神経支配:長胸神経C5~C7 
作用:肩甲骨外転/上方回旋/挙上
(オーチスのキネシオロジー第2版)

全体として、肋骨から肩甲骨の前面に広く付着し、肩甲骨を前方へ引く(外転)する作用を有していることは一致しています。

肋骨へ付着していることを考えると、胸郭の可動性つまり呼吸機能へのかかわりも深いと考えられます。

肩甲骨の内側縁に広く付着しているため、肩甲骨の可動性や安定性への関与は言うまでもありません。

筋機能

画像2

書籍によっては前鋸筋の作用として肩甲骨の前方突出として記載されているものも多いです。

前方突出や前方へ引くと言った表現では肩甲骨の外転を意味しますが、それでは上方/下方回旋が曖昧にされています。

前鋸筋の筋機能としては肩甲骨の外転と上方回旋になります。

アライメント不良姿勢における肩甲骨の外転位では、上方回旋か下方回旋かも筋肉の短縮を予測するうえで重要な所見となるので覚えておきましょう。


前鋸筋と僧帽筋の作用は、肩関節の挙上や外転において非常に重要です。

両筋ともに上方回旋作用を持ちつつ、内転と外転という拮抗した作用も持っています。

これらの作用により、肩甲骨を安定させた状態で上方回旋させることができます。

特に90°を越えて挙上や外転をするときに肩甲骨の上方回旋は重要となり、そこでの可動域制限や痛みがある場合は、これらの筋肉の機能低下も疑いましょう。

筋膜連結

図2

筋膜連結では、スパイラルライン(SPL)に前鋸筋が含まれます。

板状筋⇒菱形筋⇒前鋸筋⇒外腹斜筋⇒内腹斜筋(対側)⇒(下肢へ)

臨床上多いパターンとしては、菱形筋が伸張位、前鋸筋が短縮位で固定されているパターンです。

これは胸椎後弯を呈している人に多く見られます。

この場合は肩甲骨の内転筋力をつけていきながら、前鋸筋のストレッチや胸椎の伸展可動域の向上が必要になります。


また、前鋸筋と外腹斜筋は強力に筋膜的に連続していると言われています。

さらに外腹斜筋から対側の内腹斜筋へ白線を介してつながっていくため、前鋸筋をトレーニングしていくときは体幹筋の収縮も意識して行いましょう。

また、猫背姿勢などで腹筋群が短縮してしまうことでも、前鋸筋への影響も出てしまうので注意しましょう。


そこから大腿筋膜張筋へつながり下肢筋へも連結が続いていくので、もちろん下肢からの影響も無視できません。

今回は分量の関係もあって下肢は割愛しますが、ぜひご興味あれば調べてみてくださいね。

経絡

図1

経絡としては胆経が最もかかわりがあると思われます。

淵腋(えんえき)と輒筋(ちょうきん)という経穴があり、それが第4肋間付近にあるので前鋸筋とかぶっています。

さらに外腹斜筋にもかぶっている経穴もあるため、胆経のラインが硬くなることで前鋸筋の機能低下を引き起こす可能性があります。


胆経は足の薬指から始まり、身体の側面を走行して側頭部まで続きます。

気軽にできるところとしては、足の薬指を丁寧にほぐしたり、耳の上あたりを気持ちよくマッサージしたりするのもいいでしょう。


胆嚢は消化液をためる臓器です。

消化に時間がかかったり、油もの、化学調味料などが多い食べ物ばかり食べるのは避けることも必要に合わせて指導してあげることも重要です。

前鋸筋の周辺組織

画像3

(Visible bodyから引用)

前鋸筋のより表層には大胸筋や小胸筋があるので、これらの筋肉が硬くなることも前鋸筋の機能低下に関係してきます。

当然肋骨の動きにも関係してくるので、深く呼吸ができるかどうかも評価ポイントになります。

また、腋窩には神経や血管が数多く走行しています。

前鋸筋だけでなく、腋窩周囲の構造物を3次元的にイメージ出来ることは肩関節周囲の疾患をみる際にとても重要になってきます。

後述する翼状肩甲においても問題になる、長胸神経麻痺にも関わる部分になります。

長胸神経は前鋸筋にそって走っており、乳房切除術や腋窩部の外科的処置、スポーツにおいては直接の引き抜き損傷などによって神経損傷が起こると報告されています。


立甲と翼状肩甲

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最後に、今回の記事の表紙にもある「立甲」と見た目上よく似ている「翼状肩甲」について書いておきます。

立甲とは、肩甲骨を外転位で内側縁を浮かせた状態であり「前鋸筋が効いた状態」です。

一方、翼状肩甲とは、肩甲骨が内転位で内側縁が浮いてきてしまう「前鋸筋が効いていない状態」です。

見た目は非常に似ていますが、その中身は全くの真逆なのです。


立甲ができることがすごいわけではありませんし、それだけで前鋸筋が鍛えられるわけではありません。

ただ、肩甲骨の可動性や中枢部から肩を動かす感覚をトレーニングすることの意味は大きいです。

特に野球などのように肩甲骨が大きく動くことがそれだけでメリットが大きい競技では非常に意味の大きなトレーニングになります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

前鋸筋が重要とはよく聞くかもしれませんが、実際は僧帽筋との共同作用や、体幹部との連結を考慮してトレーニングしないとなかなか効果は得られません。

筋肉1つ1つを丁寧に解説しているこの「muscleマガジン」ですが、実際のトレーニングや治療で考える時は全体との関係性をしっかり考えられるようにしていきましょう!

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