#14 薨の退団



あまりの驚きでまた飛び起きてしまった
目に飛び込んできたのは


"薨、HYDRANGEA退団!!"


「えー!えーっ!!何があったの?!」
そのままネットニュースを読み進めた


要約すると
大晦日の契約更改最終日
つまり私が観に行った両国大会の日までに合意を得られずに退団になったと
QOH王座は当然ながら返還
HYDRANGEAとの揉め事はなく円満退団
今後はアメリカ最大の団体に行くのかグローバル展開を狙う日本最大の男子の団体で初の女子レスラーとして契約するのかはたまたモデルとして本格活動するのか去就は明かされてないとのことだ


「えーだからあの時ベルトはもういらないみたいな仕草をしたんだぁ」
私の考察癖が燃え始めた
このところ通常より気合いを入れて練習に取り込んでいて休みの日も自主練に励み疲れてすぐに寝てしまう為、考察している時間もなかった

「確か最後に言ってた言葉は、、、」
すぐに調べた

「そうそう、I hate myself and I want to die.かぁ」
英語が不得手な自分でもわかる簡単な英文

"自分が嫌いで死にたい、、、"

「どういうことだろう?それに思ってたとしてもこういう場で言うかなぁ?」
何か腑に落ちない
そのままの意味では絶対に無さそうだ
でも深読みしてみようともするが全く糸口が掴めない

「そういやガンタさんが誰かへのメッセージじゃないかって言ってたけど、、、誰?」
頭の中がこんがらがる

私は頭を抱え
「NOーー!!全くわからーーん!!」

薨だけは私のプロレス脳では分析不可能だ

「あ!でも確かABRACADABRAって呪文みたいなの唱えてたけど、、、」


聞いたことある言葉だが意味まではわかんない
またまた速攻調べる
諸説あるが基本的には厄災を祓う呪文みたいだ

「何ー?なになにーここで厄災祓うのーー!」
ダメだー常人には付いていけん!


「で、ピースして笑ったよね?」
もうお手上げです、、、


寝る前に体だけじゃなく頭も使いすぎた
もう横になろう

またまたベッドの背面を見つめる

「いつか薨は答え合わせしてくれるのかなぁ」

その答えが出るのが待ち遠しいような
何か悲しい結末が待っているのか
何となくだが私にとって何かしらの影響を与えられるような予感がした

「薨がフリーになったってことは私と闘うことになったりして、、、なんてことはないか?」
そんなことを考えてる内に眠りについた




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


あれからひと月程経った
変わらず練習の日々
だが少しずつだが技の練習も始まり実戦的なスパーリングもメニューに加わっていった


「いやー寒い!やっぱ2月が一番寒いよねー」
なんて当たり前のことを言いながら道場前の掃き掃除

「おう!」

「あ、おはようございます」
ペコリ

社長が手を上げながらやってきた

「寒いなー悪いけど掃き掃除終わったらお茶淹れてくれや」

「ハ、ハイわかりました」
冬の朝の日常風景


キッチンでお茶を淹れ事務所へ
社長は自分のデスクで新聞を読んでいる

「お茶持ってきました」

「おう!ありがとよ」

「じゃあ失礼します」
ペコリとしようとしたら

「最近は技の練習やスパーリングが中心になってきたんだって?」

「ハ、ハイッ!」

「ここに来てどれくらいになったんだ?」

「あ、えーっと7ヶ月くらいですかね」

「早いなーそろそろプロテスト考えなきゃなあ」

不意に社長の口から出たプロテストという言葉
私の体に緊張と興奮が走り抜ける

「今日は夢子と亀か?」

「ハイ、その予定です」

すると社長は老眼鏡を鼻先まで下げ私を上から下までゆっくり見る

「だいぶいい太ももになったじゃねーか!レスラーはよーパンッと張った太ももじゃねぇといけねぇ!ハッハッハ」
いつものように豪快に笑った

「よしっ!今日も励めよー」
指先を私に向けくるくる回しながら言った

「後よ、もうちょいしたら出るからな。今日も戻んねえから二人にも言っといてくれ」

「あ、わかりました。では失礼します!」
ペコリ


最近、社長はちょくちょく出掛ける
まあ社長だもんねいろいろと付き合いなんかもあるかもしれない

それよりも社長の口から出たプロテストという言葉

夢へのチャンスが巡ってきた!
心どころか体まで踊り出してしまった

くるくるくるくるリングの上で

よし!今日もやってやる!!

まだ準備運動の前なのに体が熱くなるのがわかった

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