#73 思い出に余所者は無用でござる

真っ黒なオーバーシャツにトラックパンツ、髪を一つ結えにし、薄めの色のサングラスをかけた薨が立っていた
そして顔には真琉狐さん同様所々青タンが

サングラスを少しずらし
「あ、タカエさん来てたんですか?」

「え、ハイ、お見舞いにぃ、、、」

「お邪魔でした?」

「いえいえ、そんなワケないじゃないですか!」

ビックリした
まさか薨が真琉狐さんのお見舞いに来るなんて
やっぱ2人には今も熱い友情があるんだよぉぅー!
嬉しさのあまり興奮、胸の高鳴りが抑えられないくらい

すると真琉狐さんが
「カーコ!そんなとこ立ってないで座れば」

「え、あぁ、うん」

私は急いで椅子を用意する

「ありがとうございます」
そう言って薨が腰を掛ける

ニコニコ笑う真琉狐さんとどこかぎこちない薨の対比がなんか可笑しい

少しの沈黙
真琉狐さんは薨が喋り掛けるのを待っているみたいで笑顔のまま薨を見つめていた

そして照れ臭そうに薨が切り出す
「お見舞いの品さぁ、、いろいろ考えたんだけどぅ、、今の真奈美が好きなモノが思い付かなくてさ、、、ハイッ」
両手で袋を差し出した

その袋を受け取る真琉狐さん
「フフッ、やっぱそうなるか。私も逆の立場だったらこれ持ってくかもね!」

薨もフッと笑い
「だね!」

「ありがとね、ヒロタのシュークリーム」

薨は笑顔で頷く

「さっき話てたんだよ。ねぇ、たまちゃん?」

「ハイッ!」

すると薨は例の表情
また見れた

2人を見てると本当に友達っていいなぁって思えた
いろいろあって何年も会ってなくても顔を合わせるとすぐにあの頃に戻れる
お互い様々な想いが錯綜して捩れてもその想いをぶつけ合うことでさらに強い絆が出来る

羨ましいしいつか私にもそんな友達が出来るのかなぁ?
出来たらいいなぁ


あ!
そっか!
こういう時って
あれだよね!
気を利かすやつよね

何の漫画か忘れたけど
「思い出に余所者は無用でござるよ薫殿」
ってあったなぁ
でござるよ


「あ、じゃあ私そろそろ帰りますね!」

「えーっ!たまちゃんもう帰っちゃうのぅ?」

「ハイ、明日からまた練習始まりますのでいろいろと準備もしときたいなぁ、、、なんて」

「ふーん、そうなのぅ?ま、今のたまちゃんには練習がんばってもらわないとだよね!今日は来てくれてありがとう!嬉しかった」

「ハイ、こちらこそありがとうございました」
ペコリ

「あ、そうだ!ちょっと待って!カーコこれいいかな?」

薨はニコッと頷く

「これ、ヒデが好きだったやつ!ヒデに食べさせてあげて」
そう言ってカスタードとホイップのシュークリームを渡してくれた

「ハイッ!必ず!!」

「食べたら感想聞かせてね!」

「わかりました!それでは失礼します!薨さんもお疲れ様です!」
ペコリ

2人とも笑顔で手を振ってくれた

私は扉の前でもう一度ペコリして病室を出た



一体、2人はどんな話をしてるのだろうか?
昔の思い出話かこないだの試合の話
きっと語り尽くせないくらいあるだろう

うーん、でもあの2人なら目を見るだけで言葉はいらないくらい語り合えるかもしれないなぁ

「ウフフッ、これはまさに歴史的邂逅ってヤツだよねー。その場面に出くわすなんて凄くない?しかもそんな場面なのに気遣ってバッと出てくるなんて私、カッコいいーー!!」
病院を出て駅に向かう途中にこんな独り言
そしてオチは自画自賛

ま、でもたまには自分を褒めてあげない、、、と?


「ああーー!!」

そうだぁー!
タオル預かってることを薨に伝えるの忘れてたぁーー!!

きっと誰かに聞けば薨の連絡先もわからなくはないだろうけど何か詮索されそうでめんどくさそうだ

「うーん、引き返してちょっと待つか?でもぅ、カッコつけて出てきちゃったからなぁ」
どうでも良すぎるプライドが私を苛む

暫し立ち止まり考えるが
「ま!本当のこと言えばいっか!戻ろ」

病院に引き返して待合室の薨が降りてくるのを見渡せる席に肩身を狭くして座った


20分くらいしてエレベーターが開き薨が降りてきた

私は立ち上がり
「こ、こぅ、、、」

ヤバ、こんなとこで呼んだらダメじゃん!
ここは聖地水道橋だ

なので薨に向かって小さく手を振る

するとまたサングラスを少しずらし
「んん?タカエさん?」

「お、お疲れ様です」
ペコリ

「帰ったんじゃなかったんですか?」

「あ、いやぁ、そのつもりだったんですが薨さんにお伝えすることを忘れてまして」

「ほぅ」
そう言って薨は唇に人差し指を当て視線を上に

????

「タカエさん、すぐ帰らなきゃダメですか?」

「あ!いえ、そんなそこまで急がなきゃってことではないんですがぁ、、、」

「うーん、でしたら少しお茶しません?流石に私も3日振りの外で少し疲れましたので」

「え!逆にいいんですか?薨さんの方こそ」

「ええ、私も明日から体動かそうと思っていたので今日は何もありません!」
そう言って笑ってくれた

「そ、それでは、ぜ、是非よろしくお願いします」
ペコリ


病院を出て2人で歩く
緊張とワクワク
冷静に考えて半年前までは考えられなかったシュチュエーション
凄いぞ私
と、また自画自賛

「だいぶ暑くなってきましたね。タカエさんはこの辺でいいお店知ってるんですか?」

「い、いえ。後楽園ホールに来たのもこの間が初めてでしてぇ、、、」

「そうですか。私も10年以上振りなので街並みもやっぱり変わってますね」

そんなことを話しながら歩いていると薨が急に立ち止まった

「あ、まだここはあったんですね。タカエさん、ここでいいですか?」

「あ、ハイ。お任せします」

そのカフェは私でも知ってるチェーン店
ちょっと広めで平日の昼間ということもありお客さんもまばらだ

何か思い出でもあるんだろうか?


薨はアイスコーヒーを注文、私はロイヤルアイスミルクティーをご馳走になった

それを奥側の人目の付かない席へと運ぶ
だが若い女性の店員さんやプロレスファンといった男性2人組には気付かれた様子

だけど薨はそんなことなどどこ吹く風で自然な
佇まいだ

「ここは昔とあまり変わりませんね。落ち着きます」
そう言いながらガムシロとミルク混ぜながら呟いた

うーん、気になる
やっぱ思い出の場所なのかな?

私は「いただきます!」と言ってから聞いてみた

「ここは昔、よく来たんですか?」

薨はチューと一吸いして
「まぁ、そんな大した話でもないですけどね」


えーー
薨の大したことない話なんて
私にとっては大した話より大した話だよー

私は目をキラッキラさせながら薨を見つめる

そんな私に少し引いた様子の薨だが
「本当に大したことないですが聞きます?」

「ハ、ハイーッ!!」

「あ、じゃあ」
と言って薨が話始めた




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