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夫婦の微調整



A山さんの提案


ある日、夫が言い出した。
「交代しよっか、順番」

順番?

「漢字の順番」
と言いながら走り書きしたのがこれ。

  ×夫婦
  ○婦夫

「歌合戦も、白組先攻の翌年は紅組先攻だろ」

まぁ、そうだけど。

「僕たち夫婦も人生折り返し地点。
 ここから先は、こっちのフウフで」

婦夫もフウフって読むのかな。

「たぶん」

持ち場を替えるってことかしら。
仕事と、家事と。

「いや、持ち場はそのままで」

表記を変えるだけ?

「善男善女とか、兄弟姉妹とか
 デフォルトで男が先に来る。
 そんな時代は終わっていい」

お気持ちはありがたいけど。

でも耳で聞いたら
どっちのフウフかわかんないね。

「いいんだ。
 僕たち二人がわかってれば。
 婦夫なんだ、って思ってれば」

うーん。

「どう?」

そうね。

どうせなら
持ち場の分担も見直してよ。

「あはは」



B崎さんとC田さんの孤独


B「素敵なご夫婦ですね。
  って言われたいな」

C「どっちがフウでどっちがフ?」

B「うーん。っていうか
  どっちも夫だし」

この国は同性婚を認めていない。
でも二人は人生の伴侶だ。

C「じゃあ、夫夫(フーフー)だ」

B「フーフー」

パンダの名前みたい。
B崎さんは笑った。

C田さんも笑う。
寂しそうに。

夫夫と書いて「それぞれ」と読む。

同居してても、僕ら
それぞれなんだよな。


D島さんの譲渡


もう、ため息しか出ない。

俺の闘病生活が長引いて
預金も底をついた。

ごめんな。君の誕生日なのに
何もしてあげられなくて。

ベッド脇の丸椅子で妻が笑う。
「わたしね、欲しいものがある」

えっ。

「言っていい?」

いいけど。

「わたし、ウが欲しい」

ウ?

「フウフの、ウ」

何だそれ。

妻が言うには、
夫婦は二つのフなのに
フフ、じゃなくフウフと読む。

そして誰もがなんとなく
フウ・フだと思ってる。

「誕生日祝いにあなたのウを
 わたしにくださいな。
 そうすればあなたはフ、
 わたしはウフになる」

俺がフ。
君がウフ。

フ・ウフ。

えーと、君って
そんなキャラだっけ。

笑おうとして俺は咳きこんだ。
背中をさすりながら妻も笑う。

ウフ。ウフ。

咳きこみすぎて涙が出た。








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