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250周年の北欧絵皿に込められた遊び心と優しさ②

 前回の記事では絵皿『18世紀』を紹介しました。

 今回は『19世紀』と題された絵皿の話です。

 この絵皿には19世紀ヨーロッパの上流階級で大流行したものが3つ描かれています。どれだかわかります?

 ヒント)ここはおそらく時計店。

 右のヒゲの男性は店主でしょう。
 19世紀に流行したチェーンストラップ付きの懐中時計を豊富に取り揃えたお店のようです。

 マダムは時計を買いに来た?
 いいえ、彼女のお目当てはローネット(Lorgnette=長柄付きの眼鏡)。当時の裕福なご婦人たちはこぞって買い求め、演劇鑑賞に出かけました。

 19世紀の時計店は眼鏡店も兼ねていたんです。なぜかというと、どちらも修理に熟練の職人技が求められたから。改めてこの絵を見るとマダムの声が聞こえてきそうです。「じゃあ、これをいただこうかしら」

 彼女の背後にご注目。もうひとつの19世紀ヒット商品が立っています。
 タイルストーブです。

ストックホルム郊外のマナーハウスに設えられたタイル貼りの円柱型ストーブ

 部屋全体をじんわり暖めてくれる陶製放熱器はタイルストーブと呼ばれ、19世紀以降に人気が出ました。ヨーロッパの寒い地域を旅行したことのある人は見覚えがあるかもしれません。

 1974年のテレビアニメ『アルプスの少女ハイジ』を覚えていますか。
 フランクフルトからスイスの村へ戻ったハイジのためにおじいさんは、かつて村のお金持ちが使っていた大きな廃屋を改装します。大広間の中央に置かれていたのが白いタイル張りの立派なストーブでした。放映の前年、アニメ制作チームの宮崎駿や高畑勲はスイスロケを敢行しています。彼らも現地のタイルストーブを目にしたのでしょう。

北欧の名窯が19世紀に
作っていた意外なもの

 絵皿に描かれていた19世紀のヒット商品は「懐中時計」「ローネット」「タイルストーブ」の3つでした。では肝心のロールストランド製品はどこに?

 はい、それもきっちり描かれています。しかも3つ。

 ①左の食器棚のティーカップセット
 来店のお客様をもてなすのに使われたのでしょう。

 ②右の壁に掛けられた3枚の絵皿
 ロールストランドは飾り絵皿を18世紀から製造販売していました。

 ③タイルストーブ
 ロールストランドは一時期、食器の他に陶製のストーブも作っていました。それだけ需要があったのですね。下の絵は1860年代のスウェーデン。川の向こうにロールストランドの工場が見えます。

蒸気船が川を行き来しています

 このように、19世紀になってもロールストランドの陶磁器は依然として富裕層のための贅沢品でした。しかし20世紀になり、世界は激変します。

 『20世紀』と名付けられた3枚目の記念絵皿がこちら。

 雰囲気、がらりと変わりましたよね。
 20世紀の絵皿にはこれまで以上に楽しい仕掛けと重要なメッセージが秘められていました。③に続きます。





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