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250周年の北欧絵皿に込められた遊び心と優しさ①

 皆さんはアニバーサリーをどのように祝っていますか。
 お祝いのヒントになるかもしれない3枚の絵皿をきょうはご紹介します。

「何だ、この絵!?」
 初めて絵皿を見た時びっくりしました。描かれているのは人間‥‥にしては奇妙なかたちですよね。もっと驚いたのは絵皿を製作したのがスウェーデンのロールストランド(Rörstrand)社だったこと。

 ノーベル賞授賞式の晩餐会で使われる陶磁器ブランド、ロールストランドはドイツのマイセンに次いでヨーロッパで2番目に古く、1726年にスウェーデン王室御用達窯として創業しました。

 名窯の創業250周年にあたる1976年に作られた記念品がこちらの絵皿。3枚にはそれぞれ『18世紀』『19世紀』『20世紀』と名付けられています。

 描かれているモチーフを一つ一つ読み解くうちに、不思議な絵に込められた当時の人々の思いが少しずつ判ってきました。

絵皿『18世紀』に
描かれた男性の職業は?


 絵皿『18世紀』に同梱されていた1976年の冊子にはこんな説明が添えられています。

18世紀の陶磁器はかなりの高級品。使っていたのはごく一部の富裕層でした。テーブルセッティングはこの時代にはまだなく、単品の皿や風変わりな水差しなどが作られていました。庶民は素朴な木の皿で毎日食事をしていたのです。

 中央に描かれている貴婦人は、おそらく18世紀のロールストランド食器愛用者。左の召使いは大皿に載せた料理を運んでいます。

 右の男性は誰でしょう。彼女の夫?

 いいえ、彼は18世紀のセールスマンだと思います。近寄って見ると‥‥

‥‥顔が陶磁器っぽい。チューリン(食卓でスープを取り分ける鍋)に似ています。手の皿を掲げて「奥様、こちらのお品などいかがでしょう」とにこやかに営業しているように見えませんか。 

 そう言われてみると、他の2人も花瓶や壺のような、つるんとした曲線で描かれています。今から半世紀近く前に、AIも顔負けの不思議な人物画を描いたのは誰なのか。気になって調べてみました。

作画を担当したのは
スウェーデンの挿絵画家

 ディズニー映画に登場しそうな愉快な陶器人間たちを描いたのはNiels-Christian Hald(ニルス=クリスチャン・ハルド/1933〜)。筆名フィッベン(Fibben Hald)で知られ、新聞漫画や絵本の挿絵で活躍したイラストレーターです。数々の受賞歴を持ち、彼が挿絵を手がけた絵本『アコーディオンひきのオーラ』は日本でも出版されました。

 ロールストランドほどの老舗なら、250周年にふさわしい美しい絵を描けるデザイナーがいくらでもいたでしょうに、あえてフィッベンに依頼したのはなぜか。

 フィッベンの父親Edward Hald(エドヴァルド・ハルド/1883〜1980)はかつてロールストランドでも活躍したガラス工芸作家でしたから、その縁で息子に白羽の矢が立ったのかもしれません。

 しかしフィッベンは単なる縁故採用ではありませんでした。

 スウェーデンのウィキペディアは彼をこう説明しています。
 ・ユーモアと遊び心に満ちた絵本画家
 ・最小限の手段で読者を深く印象づける人
 ・子供もおとなもなく全ての人々のための絵を描く人

 記念絵皿にありがちな堅苦しい絵ではつまらない。フィッベンなら何か面白いものを作ってくれるんじゃないか。案の定、彼は名窯の歴史をユーモアたっぷりに伸び伸びと表現しました。スープ鍋頭のセールスマンを見てロールストランド社の人々は大喜びしたに違いありません。

 どうです?
 改めて眺めると絵が違って見えませんか。
 壁に飾ったら部屋の雰囲気が明るくなりそう。


 続く『19世紀』と『20世紀』の絵皿にも楽しい秘密がたくさん仕込まれていました。

 ②に続きます。


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