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250周年の北欧絵皿に込められた遊び心と優しさ③

 今回で謎解きは完結です。
 3枚の絵皿をめぐる旅、いかがでしたか。

「君たちに謎が解けるかね?」
 スウェーデンの絵本画家フィッベン・ハルドは、ロールストランド創業250周年を祝う絵皿で私たちにどんなメッセージを伝えようとしたのでしょうか。

『18世紀』『19世紀』の絵解きは、我ながら上手くいったと思います。
『18世紀』は貴婦人とおかしな顔のセールスマンでした。

『19世紀』は時計屋に来店したマダム。

 そして3枚目『20世紀』がこちら。
 一番見てもらいたかった絵皿です。

 他の2枚とずいぶん趣が違いますね。
 

3枚目の絵皿はなぜ
こんなにも違うのか


 同梱のパンフレットにはこんな説明が添えられていました。

陶磁器が庶民のものになったのは20世紀に入ってからです。フォーマルにも日常にも使える陶磁器が製造されるようになりました。デザインはシンプルに、華美な装飾が減ってより機能的になったのです。

 絵皿の登場人物たちも貴族や富豪から一般市民へバトンタッチしています。

 ほかほかと湯気の立つキャセロールを食卓へ運ぶ女性。スープ皿を頭に乗せて待つ子供は1970年代に流行したベルボトムのパンツ姿。穏やかな家庭の情景です。

 お隣のたくましい人は男性でしょうか。
 食器をどっさり載せた板をギリシャ神話の巨人アトラスのように支えています。

 この人物を特定する手がかりは18世紀の絵皿同様、その「顔」でした。

 18世紀のセールスマンの顔はスープ鍋にそっくりでしたよね。20世紀の人物は花瓶のような顔。つまり、彼もまたロールストランドの人間であることをほのめかしています。

 おそらく工場で働く職人でしょう。
 颯爽と歩く姿は現代アート風。腰から下はエプロンを表しているのかな。ロールストランド工場で働く人々の1925年の写真を見つけました。
 ビンゴ!
 女性も男性も皆長いエプロン姿です。

 

アニバーサリーのアは
ありがとうの「あ」


「会社の創立記念日を祝う絵皿をデザインしてくれませんか」
 もしあなたが依頼されたらどんな絵を描きますか。

 会社のロゴマーク。
 歴代のヒット商品。
 お偉いさんの肖像画。

 絵皿を依頼されたフィッベン・ハルドはそれらには目もくれず、ロールストランドの愛用者と、名窯の歴史を支えてきた名もなき職人たちを描きました。

 だってアニバーサリーは、誰かへの感謝を伝える日だからね。新聞に風刺漫画なども描いていたフィッベンさんは、持ち前の反骨精神で私たちにそう語りかけているようです。

 20世紀の絵皿には職人さんたちへの感謝の思いが込められていたんですね。
 

2023年に祝うなら
何を描く?


 駆け足で絵解きをしてきました。
 楽しんでもらえたら嬉しいです。

 絵皿が私の手元に届いたのは7月で、以来ずっとにらめっこしてました。新しい発見があった日のビールは最高。アガサ・クリスティーと誕生日が同じ私は根が推理好きなのかもしれません。

 そうそう、あとひとつ。
 20世紀の絵皿の右端で誰か走ってますね。バドミントン? テニス?

 これはたぶんショートテニス。
 1970年代にスウェーデンで生まれたスポーツです。軽めのラケットとスポンジのボールを使い、バドミントンのコートでプレイします。ショートテニスの普及と共にスウェーデンはテニス人口が増え、その後ビョルン・ボルグやステファン・エドベリ(エドバーグ)などの名選手を輩出しました。

 でも、なぜ陶磁器と無関係な絵を?
 私の推理はこうです。

 フィッベンさんは20世紀の絵皿に、1976年当時一番ホットな話題を盛り込みたかったのではないでしょうか。後世のスウェーデンの人々が、ああ、そんな時代もあったよねとしみじみ振り返れるように。これが2023年の日本だったら、武将の兜をかぶったメジャーリーグの野球選手が描かれるのかな。

 つまり、絵皿の右端の人物はスウェーデンの『今ここ』を象徴しているのです。

 他にもいろいろな暗号が隠されているかもしれません。ヴィンテージ好きの皆さん、ぜひ推理を楽しんでみてください。

 優しいまなざしとユーモアに満ちた絵皿は、眺めているだけで和みます。


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