タカシマアキラ

怪奇幻想文学とマカロニウエスタンが好きです。底辺文化系トークラジオ29歳までの地図。カ…

タカシマアキラ

怪奇幻想文学とマカロニウエスタンが好きです。底辺文化系トークラジオ29歳までの地図。カリギュラは気まぐれ。

最近の記事

『フィッシャーマン 漁り人の伝説』 ジョン・ランガン

『フィッシャーマン 漁り人の伝説』 ジョン・ランガン 植草昌実訳 新紀元社『幻想と怪奇』叢書 変えられぬ運命や不可能ごとに立ち向かう人々の物語は文学にとって主たるテーマの一つと言っていいのではないかと思う。オイディプスやカリギュラ、そして今作のエピグラフに挙げられている『白鯨』のエイハブ然り彼らは不条理に直面しながらも己の感情を純化させ彼等を損なわせた運命に対して壮絶な闘いを挑んでいく。個人の視点に立てばヒロイックな物語になる一方、客観的に見た時その闘いは一つの想いに固執し

    • 『ゴールデン・フライヤーズ奇談』シェリダン・レ・ファニュ

      山奥の美しい湖畔に佇む屋敷がありそこに因縁深い二つの家族が住んでいる。これぞゴシック小説とでも言うような舞台だての本作ですが、その舞台の中で大まかに三つの奇談が語られ、それぞれが巧みに絡み合っていく事で恐怖が醸造されていく過程が見事に描かれていく素晴らしい小説になっています。 物語はゴールデン・フライヤーズという山と湖に囲まれた風光明媚な土地を地所として持つマーダイクス准男爵が帰郷してくるところからはじまります。マーダイクス家は代々ゴールデンフライヤーズを治めていましたが当代

      • 『僕には世界がふたつある』 ニール・シャスタマン

        芸術の世界において狂気はある種の憧れを持って需要されているところはなきにしもあらずだと思う。こと文学においては芥川龍之介やアンナ・カヴァン、シャーリー・ジャクスンなど狂気がカリスマ性をもって輝いてしまうことはかなりある。内的な感情の吐露とそこに対する共感がある程度できるのが文学という形式であるが上記の作家には凄まじいビジョンにより圧倒的な他者性をもって狂気が作品に昇華されており「カッコいい狂気」として受け止められているところが多分にあると思う。 そのような中で今回取り上げる『

        • 『サンダリング・フラッド』感想

          『サンダリング・フラッド』ウィリアム・モリス 中桐雅夫訳 平凡社ライブラリー 久しぶりの感想投稿になりますがこれからはこまめに投稿していきたいと思っているので宜しくお願いします。 ウィリアム・モリスの『サンダリング・フラッド』という作品について書いていきたいと思います。 物語の舞台は国の中央を東西に二分するサンダリングフラッドという大河の流れる中世ヨーロッパのようなファンタジーの世界です。 主人公のオズバーンはサンダリングフラッドの上流の片田舎に住みながら年少のころから獰

        『フィッシャーマン 漁り人の伝説』 ジョン・ランガン

          マリオ・バルガス=リョサ『楽園への道』

          マリオ・バルガス=リョサ『楽園への道』田村さと子訳 東西冷戦が終わり「歴史の終わり」が訪れてからもう30年経ってしまう。冷戦の中で、西側諸国は資本主義体制下での自由なユートピアを東側諸国では共産主義体制下での平等なユートピアを夢みていた。しかし、現在はどうだろう。共産主義という200年ほど人類が夢見た平等な社会という夢がソ連崩壊を機に一瞬で崩れ去ってからというもの、資本主義社会で常に過度な競争にさらされ、資本主義以外の社会体制という夢を見ることも叶わず、日々淡々と資本主義と

          マリオ・バルガス=リョサ『楽園への道』

          アレクサンドル・ポチョムキン『私』

          アレクサンドル・ポチョムキン『私(ヤー)』コックリル浩子訳  2013年群像社 生まれてこない方がよかったと反出生主義がアクチュアルな問題として叫ばれる今、2004年にロシアで書かれたこの『私』という小説はこの世界は最悪で救いようがないし、人生は苦痛で溢れているという反出生主義的なネガティブな世界認識をドストエフスキー的な饒舌さをもってポジティブに反転させたとても躁的でパワフルな21世紀の地下室の手記と言っても過言ではない作品となっている。 この作品の主人公かつ語り手であ

          アレクサンドル・ポチョムキン『私』

          『スウェーデンの騎士』について

           はじめましてタカシマアキラと申します。自分の読んだ本や映画の感想など書いていきたいと思っています。よろしくお願いします。 『スウェーデンの騎士』レオ・ペルッツ 垂野創一郎訳 2015年国書刊行会  今回紹介する作品はレオ・ペルッツという作家の『スウェーデンの騎士』です。ペルッツは近年再評価が進んでいて、ここ日本でも幻想文学愛好家を中心に人気を集めていますが、まずは簡単な紹介から始めたいと思います。  レオ・ペルッツは1882年にオーストリア=ハンガリー二重帝国下のプラハ

          『スウェーデンの騎士』について