見出し画像

第4話:アフリカで体験する初めての産婦人科はまるで夢のようだった 「アフリカから帰ってきたニート夫と娘の成長期

これまでのお話をご覧になりたい方は以下の記事から


妊娠後1番最初の壁は産婦人科で受診することだった。

地方では助産婆が自宅でお産を行うのが通例で、乳児死亡率が3%の国(世界ワースト20の数値)で出産する選択肢は流石になかったが、胎児の様子を見るには病院に頼るしかなかった。

幸いにも、タクシーで15分ほどの距離に国内ではトップクラスの信頼がある産婦人科があった。その名もドリーム。うん、いい夢を見させてくれそうだ。

早速、その病院に向かったのだが、僕たちの夢はどうやら悪夢の方だった。

前回の記事にも書いたが、僕のアラビア語学力はりんごを好きなだけ買える程度。病院で使われている単語なんて何一つ分からない。
全集中耳の呼吸で受付のお姉さんの言葉に必死で食らいつく。

うんうん、なるほど。

どうやら最初は名簿登録なるものが必要なようだ。名前、年齢、住所、電話番号など基本的なプロフィールを確認していく。これは何度も答えているので問題ない。全力のドヤ顔で回答していく。
ただそのドヤ顔は30秒も保たなかった。

「診てもらいたい先生はいますか?〇〇先生、⬜︎⬜︎先生、△△先生の受診が可能ですが」

何度聞いても名前が聞き取れない。3回ほど聞き返したところで、受付のお姉さんが「あーもう!」とイライラされている様子だ。
「誰でも、いいので、お願いします」とカタコトのアラビア語で伝える。

ふぅーなんとか伝わったようだ。
「では7時からで。お金の支払いお願いします」
と言われる。
なんだって?7時?
今は朝10時なんだけど、9時間待ち???!

いやいやそんなことはない。僕は高校生の頃、英語のリスニングテストで24/100点を叩き出した男だ。4択なので勘で答えても25点取れるのに、それを下回る奇跡の低点数。
僕の耳力には全く定評がない。聞き間違いに間違いなかった。

とりあえずお金を払って受診表を受け取る。
そこには妻の名前と年齢、先生の名前が書かれていた。

妻の年齢のところを見ると「13歳」と書かれていた。

いや、そんな訳無かろう!まあ確かに日本人は海外に出ると若く見られることが多い。
だがしかし!僕の言い間違いだとしても、流石に疑え。

ようやく待合室に入れたが先生は一体どこへ?

そんなこんなで何とか受付を終え、妊婦さんがたくさん座っている待機エリアに移動する。
指定された部屋には誰一人入っていかないまま1時間以上が経過した。

まさかと思い、「先生が来ないんだけど」と受付に相談に行く。「7時からよ?」
嘘やろ・・・ほんまに9時間待ち??!
他の人にも一応聞いてみるとやはり夜7時からだという。
どうやらその先生は他の病院も掛け持ちしており、僕らのいたドリーム病院には夜来るということだった。

僕のリスニング力が思わぬところで暴発した。聞き間違いじゃなかった。
出来るだけ早く見てほしいと伝え、違う先生に変更してもらう。

しかし、その先生の部屋にも人が入っていく様子がない。そこからさらに1時間が経ち、先生がやってきた。
アフリカンタイムだ。
時間に縛られない理想の生き方ではあるが、心に余裕がなく待たされる立場になると、かなりキツい。ソワソワが止まらない。

スーダンという国はイスラム教徒が大半を占める国家だ。イスラム教を基盤として築かれたこの国では基本的には見知らぬ男女が一緒の空間にいることを好まない。病院でも連れ合いの旦那さんは外で待つか、妊婦さん1人で受診するのが常である。そんな中アジア人の男が縦横無尽にアセクセと行ったり来たりしているのを見て、きっといい気はしなかっただろう。本当に申し訳ない、必死だったのだ。穏やかな気性とおもてなしに形容される国スーダンなので、どの妊婦さんも優しい目で見守ってくれていた(と思うことにしたい)。

しかし、ここでもう一つ問題が発生する。

診察室に入れない病院初心者の日本人2人

先生が来てからは1組ずつ診察室に入っていくのだが、そのシステムが全くわからなかった。
看護師さんに呼ばれるわけでもなければ、列に並んでいるわけでもない。受診表を見ても待ち番号などが書かれているわけでもない。
しかし、現地の屈強スーダン妊婦たちは揉めることなく部屋に入っていく。

「ああ、なんだ。テレパシーか。」と思った。
残念ながら僕たちは脳内で会話ができないし、どんなに念じても他の妊婦たちに思いを伝えることは出来なかった。そういえばテレパシーは言語の壁を越えることは出来るだろうか。
そんなことを考えているうちに、刻一刻と時間は過ぎていく。もう病院に着いてから3時間以上経過している。妻の体力も限界だった。

知らぬ顔して次誰かが出てきたタイミングで部屋に突入しようと妻にアイコンタクトを送る。

そして入れた。何の問題もなく入れた。順番抜かしをしたのかされたのか分からないシステムに踊られたが、ようやく今日のラスボス、助産師さんの前まで来ることができた。
これがゲームならセーブをしてひと息つくところだが生憎これは現実だ。

スーダンのお医者さんは漏れなく英語が話せる。カタコトのアラビア語もテレパシーも使えずコミュニケーションが取れる世界観は最高だった。妻の様子、最終生理日などを伝え、エコー検査に移る。
後から知ったのだがここで使われている機材はめちゃくちゃ質のいいものが使われているらしい。

画面に映し出された「それ」はまさしく僕たちの赤ちゃんだった。正確には赤ちゃんを包んでいる袋なのだが、真ん中にある輪っか、通称エンジェルリングが見えた時は、まさに夢から叩き起こされた気がした。

僕はまだエコー写真を見てかわいいとは思えなかったけど命の芽生えを感じた。この瞬間に立ち会えた幸せを噛み締めながら、家路についた。



第4話は以上となります。今日も読んでくださりありがとうございます!
皆様の閲覧と「スキ」を励みに頑張ります。ご応援のほどよろしくお願いします♪
ご感想・質問などがございましたら是非コメントにお願いします!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?