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大学院で必要な研究力と学習スタイルの関係(探索型vs暗記型):ケンブリッジ留学 開始前02

前回の記事では、留学先で履修予定のコース概要と、そのコースが今年(2020年10月)から新しく提供されることになった背景について紹介しました。具体的には、背景の1つとして留学生特有のギャップである大学院レベルの英語力について触れています

シリーズ内容の紹介
2020年10月からケンブリッジ大学へ留学することになりました。将来留学したい人や今まさに留学を考えている人に向けて、情報共有のために留学関連のエピソードを記録しておこうと思います。こちらのマガジン上で集約予定です。もし、何か知りたいことなどがあれば気軽にリクエストして下さい(例:エッセイなどの出願書類の準備や面接対応、研究計画の立て方や英語の勉強法等)。

今日の記事では、研究力に関連する2つ目のギャップ:学習スタイルの違いについて取り上げていきます。スタイルの違いによって、大学院で求められる研究力の向上をスムーズにできる学生とそうでない学生が出てきます。

学習スタイルの違い -探究型vs暗記型-

英語圏の学生とそうでない学生の間にあるギャップのもう1つは、研究力です。研究力が異なる背景として、留学生に馴染みのある学習スタイルが、英語圏での学習スタイルと違うことに起因します。

一般的に、英語圏の学校では、自分の考えや意見を主張することが重視されます。例えば、小学校の頃から意見と事実の違いを学び、中学校ではクラスで自分の意見を論理的に伝えるディベートやプレゼンテーションを行い、高校生では自分の考えを土台にして一定の成果を出すプロジェクト学習を行う…という具合です。

このような学習スタイルは、「正解が何か、誰もまだ知らない」「議論したり調査したりしながら、真理に近づいていく」という発想から生まれています。よって、毎回の授業で求められるのは、教授や学生たちとのインタラクティブなやりとりです。お互いの考え方や視点をクラスに持ち寄りながら、多様性を活かして学び合います。ここでは、このような学び方を探究型の学習スタイルと表現しておきます。

暗記型の学習スタイルでは、大学で必要な研究力の向上に制限がある

一方、日本のように、自分の意見を主張するよりも、先生が言っていることや教科書の内容を正確に覚えることが重視される学習スタイルもあります。前回の記事で紹介したケンブリッジ担当者によれば、この傾向は特にアジア圏の学生に強く出るとのことでした。

この学習スタイルは、明確な「正解」が既に明らかになっており、答えの中身をどれだけ詳しく知っているかが重要な場面で力を発揮します。ここでは暗記型の学習スタイルとしておきます。

大学院でうまく学べるのは、暗記型ではなく探究型の学習スタイルに慣れている学生です。なぜなら、大学院で求められるのは、今までとは異なる視点で考えることや、みんながなんとなく正しいと思っていたことを「誤りだった」と明らかにする研究力です。このようなスキルは、暗記型だけでは身につけることができず、探索型と相性がいいのです。

論理的に筋の通った、1つストーリーを紡ぎ出せるか?

もちろん、暗記型の学習スタイルに慣れている学生が全くダメというわけではありません。彼らは、探究型の学生よりも多くの知識を知っているケースが多く、クラスの最初ではスタートダッシュを切りやすい傾向があります。

ただ、クラスが終わりに近づいて3,000単語(日本語で約6,000字)のレポート提出が履修要件として必要なタイミングになると、暗記型はかなり不利になってきます。

レポートの種類によって必要なことはもちろん違いますが、一般的には「レポート課題に対する自分なりの考えや主張」「その主張を支えるデータAと、その主張に反するデータB」「データBよりもデータAが信頼できる理由」などなど、すべての要素を論理的に自分の言葉でつないで、1つのストーリーを提示する必要があります。

暗記型学習が得意な学生は、過去の研究結果や既存のデータを羅列・整理は簡単にできるかもしれませんが、様々なデータと自分の主張を織り交ぜながら説得力のある論理構造を提示することに慣れていません。よって、レポートの要件を満たすことや、大学院で求められる研究活動を進めることに高いハードルがある、ということになります。

学習スタイルについてのまとめ:暗記型の学習スタイルは一部の勉強には効果的ですし、一定の知識を覚えておくことは有用です。しかし、暗記型のスタイルしか習得していない場合、大学院での研究力を高める上で相性のいい探索的な学習スタイルに馴染みがないため、入学した後に苦労することになります。

大学院レベルで求められる英語力と研究力の両方を高めるための新規プログラム

以上のように、前回の記事で紹介した英語力と今回紹介した学習スタイルと関連する研究力の2つが、英語ネイティブと非ネイティブの間にある大きなギャップです。このギャップを埋めようとしているのが、今回留学して履修するInternational Pre-Master's Programmeです(以下はパンフレット)。

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このコースを提供している部門(Institute of Continuing Education:ICE)の責任者Dr Jim Gazzardは、ケンブリッジ大学としての今回の新規プログラムを提供することにした背景を次のようにコメントしています(意訳&太字は著者による:原文)。

 「英語を母国語としない人が、世界のトップ大学に合格できないこともありますが、それは能力がないからではなく、英語力が不足しているか、インタラクティブなトップレベルの授業に参加する準備ができていないからです」

「例えば、ケンブリッジでは小論文の内容で学生をよく評価します。そこでは、どのような考え方や視点があるかを提示し、その上で自分の考え方や意見を明確に主張することが重要です。しかし、これまで "たった一つの正しい答え" だけを教えられてきた学生にとって、自分とは反対の考え方や視点に対してうまく向き合い議論することはかなり難しいでしょう」

「世の中には、才能豊かで多様性に富んだグローバルなコミュニティが存在しています。そこには明るい未来があります。だから、私たちは世界中の学生と共に、彼らの成長を邪魔している障害を壊していく必要があるのです」

- Dr Jim Gazzard, Director of Continuing Education, ケンブリッジ大学

まとめ:ケンブリッジ大学が新しくプログラムを提供する意義

僕は23歳の頃からずっと教育事業に関わっているので、「根本的な能力が問題ではなく、単に英語力や学習スタイルといったスキルが理由で、世界レベルの大学で学ぶ機会を逃す学生がいる」というケンブリッジ大学の問題意識にとても共感しています。

ケンブリッジ大学は、いわゆる世界のトップ大学として扱われていますが、こういった大学が世の中の教育・研究の機会を少しでも広げるために新しいチャレンジをすることは、社会的な意義がとても高いと感じています。

もちろん、新しいプログラムを用意するだけで留学生ギャップがすべて解決するわけではありませんが、日本から参加するプログラム第一期生の代表として成果を残し、今回のような取り組みに意味があることを提示できればと思っています。

柏野尊徳
Twitter(@takanorikashino

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