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ここはどこか・渋谷系とJ-POPの狭間で(1993)

*2024.8.23. 加筆修正
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*1993年の出来事:ビル・クリントン、アメリカ合衆国大統領に就任 / 世界貿易センター爆破事件が発生 / 皇太子徳仁親王と小和田雅子の結婚の儀が行われる / 曙が外国人力士として初めて横綱に昇進 / 新幹線「のぞみ」が山陽新幹線で運行開始 / 福岡ドームが完成 / レインボーブリッジが開通 / ジュリアナ現象 / スケーター・ボーダーファッション人気 / 小学生男子を中心にハーフパンツが定着。長ズボンに駆逐されつつあった半ズボンがほぼ消滅 /

1993年の最初の大きな仕事は、さくらももこ原作のTBSドラマ「谷口六三商店」のサントラ録音だった。ソロワーク以外では初めての音楽制作の仕事だった。

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坂本龍一さんの「戦場のメリークリスマス」のサントラや、細野晴臣さんの「銀河鉄道の夜」のサントラが大好きだった自分にとって、サントラは憧れの仕事だった。「谷口六三商店」の主題歌は再生YMOの「ポケットが虹でいっぱい」だった。さくらさんの趣味も反映されたキャスティングだったんだと思う。

1〜2冊の脚本と登場人物のキャラクターの説明だけで、映像もほとんどない状態から40曲ほどの曲を録り下ろす膨大な作業量だったが(ドラマのサントラはおよそそんな感じで映像よりも早く仕上げることが多い)、まず登場人物それぞれにキャラに合ったテーマ曲を考え、そこからバリエーションを膨らませたり、たとえばドタバタしているところ・感動的な場面等、色々なシーンに合った曲を作る方法で広げて行った。

子供の頃観ていた数々の名作ドラマの音楽は脳内に焼き付いていて、同じメロディのモチーフをテンポやキーやアレンジを変えることで違う雰囲気に仕上げる手法などもイメージしやすかったので、コツを掴み始めたら曲書きそのものは割とスムースだったように思う。CM音楽として請け負った「虹の都へ」もそうだが、うまくハマったクライアントワークは先導するイメージがはっきりしている分、やりやすいのかもしれない。

原作のさくらももこさんと演出の故・久世光彦さん(子供の時、「ムー一族」や「時間ですよ」が大好きだった。悠木千帆さんこと樹木希林さんにも合掌)による、ユーモラスで時にホロリとさせる物語と、僕のシンプルな(80年代テクノのテイストも多々ある)音楽のマッチングは悪くなかったと思う。最終回にカメオ出演したとき、谷口六三役の泉谷しげるさんに「サントラ、上手いな」と褒めてもらったのは嬉しかった。キャスト総出演で、加藤和彦&北山修の「あの素晴らしい愛をもう一度」を合唱した。この曲を31年後の2024年に映画のサントラとして再びカヴァーする日が来ようとは、この時は想像できなかった。

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