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夏の終わりに、南の島で。

本州では真夏のピークが去って、台風と長い雨が秋を連れてくる9月の終わり。
去りゆく夏を惜しむように、平成最後の夏を追いかけて、石垣島・竹富島へと旅をした。

「沖縄行ったことないの?意外だねえ。いろんなところ旅してるのに。」

一緒にランチをする会社の同僚にも、大学時代からの気のおけない友人にも、行きつけの美容室のお兄さんにまで言われたこの台詞。

そう、今回はわたしにとって初めての沖縄。

ずっとずっと憧れていた沖縄に行くのは、一週間前からパッキングしてしまうくらい楽しみなのに、なぜだかすこし怖かった。

沖縄の、しかも離島になんて行ってしまったら。
わたしはもう日常に帰ってこれなくなるんじゃないか。
そのまま家を借りて住みだしてしまったらどうしよう。

そんな筈はないのだけれど、妄想が頭の中を駆け巡る。
わたしは絶対、絶対、絶対に沖縄に恋をしてしまう。
きっとわたしの肌にすっと馴染んで、心の奥深くにそっと入り込んでくる、そんな予感がしていたから。

石垣空港に降り立つと、そこにはまだ夏の空があった。

東京では、ひとつ入道雲を見つけるだけで「夏だなあ」なんて感動して写真を撮っていたけれど、ここではあちらにもこちらにも入道雲が空高く伸びている。

わたしは、東京では夏の間一度も着なかった、薄くて背中の大きく大きくあいた、南国色のワンピースを見にまとう。

生ぬるい南風がふわりワンピースの裾を揺らす。

小高い丘の上でカフェを営む気さくなお姉さん。
どこまでも青い海と、さらさら寄せては返す波。
日が落ちると、どこからともなく聞こえてくる三線の音色。
裸足の足に感じる、ひんやりとした砂の温度。

中でも、竹富島は特別だった。
島に入ったその瞬間から感じる、独特の空気。
赤い瓦屋根と平家の家屋が続き、サンゴの石垣がどこまでも続いて道は迷路のようだった。

水牛車のお兄さんが言った。
「今日は牛くんもたくさんお客さんを乗せて疲れちゃってるからねえ。所要時間は牛くんの気分次第です。のんびり行きましょう。」

知らず知らずのうちに強張っていた心が、
置いてきた仕事のことをあれこれと考えていた心が、
次第にゆるゆると溶けていくような気がした。

溶けていくような。

ほんとうに、この言葉がしっくりくる。

島のあたたかい空気に、太陽のパワーに、大好きな蒼色に、わたしがほどけて、ゆるんで、ぼんやりとした幸せな気持ちだけが残った。

この島を全身で味わうには、三日間は短すぎたのだ。
全然、まったく足りない。
その思いはどんどん強くなった。

最終日、早起きしてホテルから燃えるような朝焼けを見ながらわたしはすでに決めていた。
きっと、またここに帰ってくる。
できるだけ早く、そして長く。

これをやる、あそこに行く、なんて決めて観光するのは、この島ではほんとうに勿体無いのだ。

わたしの心の動いた方へ、
居たいだけ、見たいだけ、感じたいだけ。
次はそんな旅にしてみようと思う。

いつかこの島で暮らすような日も来るのだろうか。
そんなことをぼんやりと思いながら、石垣空港を後にした。

さようなら、またね。
今年も、わたしの夏が終わった。

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