野党はほんとに反対ばかりなのか

0)政治に対するイメージ本当に正しいですか?

いよいよこの秋,衆議院議員選挙が行われます。

次の日本を導くのにふさわしい政党、人物は何か、皆さんの投票が決める機会が近づいているのです。菅総理が自民党総裁選に出ないことを表明したこともあり。、次の衆議院選挙の自民党の顔となるのは誰か、とにわかに盛り上がりを見せていることも相まって、今回の選挙が多くの人が強い関心を寄せることは間違いなさそうです。

ところで、皆さんは選挙で投票をする候補者を決めるのに、どのような基準を持っていますか?

個人の政治家の実績や訴えも考慮するかと思いますが、現政権や野党に対するこれまでのイメージを元に投票する政党を決める人も多いのではないかと思います。

ところでそのイメージ、本当に正しいのでしょうか。

私は今年の春まで10年近く厚労省で官僚をしていましたが、官僚になった理由の一つは政治や行政によくわからないことが多すぎる、中に入って実際に見てみたいということでした。

そのうちの一つが、

政策の議論をもっとすべきなのに、なぜ国会は足の引っ張り合いばかりなのだろう

ということです。

与党はヤジを飛ばしていて感じが悪いけど、野党も揚げ足取りばかりしている。賢い人の集まりのはずの国会議員がなぜこんなにしょうもないことをしているのだろうと、強く感じていました。

実際に省庁で働いてみて、質の低い国会質問は一部だし、多くの議員は政策をよくしようと一生けん命なのがよくわかりました。が、一方で、そのことが省庁で働かないとわからないのもどうなのだろう、と思っています。

割と行政に詳しい民間人になった、ということもあり、もっと実際の政策の現場を知ってもらって、政策づくりにいろんな人が関われるといいなと思っています。

そのための政策への働きかけ方なんかについては、マガジンで別に書いていますが、今回は、もっと総論的な話として、野党の実際の姿について書いてみたいと思います。

1)野党は反対ばかりでけしからん!はほんとなのか

野党は反対ばかり!という批判、よく耳にしますよね。

確かに国会のニュースを見ていると、総理や閣僚を厳しい口調で攻めている野党議員の姿をよくみます。また政策議論ではなく、クイズのような質問して、大臣の無知さを印象付けようとする議員もいます。

さらに、国会の会期末に近づくと「もっと議論をすべきだ!」と野党が法案の採決を遅らせようとするような構図はもはや国会会期末の風物詩です。その結果、採決が深夜にまでもつれ込むようなケースもあります直近204回の国会でも午前2時過ぎ(!)にようやく採決をした事例もありました。

このような姿を見せられる国民の側としたら、

もっと野党は建設的な議論をできないのだろうか?
国会を遅延させて、野党はなんて時代錯誤なんだろう。

と感じてしまうのも無理はないと思います。

一方で、時の政権の方針についてチェックをするのは野党の大事な役割です。野党議員が適切な指摘を国会の場でした時は、その質疑の後に、大臣が官僚に対応を指示し、結果として政策が変わることもあります。
(野党の質問で政策が変わったのかどうかが見えにくい、という問題はありますが。。。具体例はこちらのマガジンでお示ししました)

また、政府・与党が認識していない課題について、野党が国会の場で質問をすることで、政府がその対応に動かざるを得ないこともあります。

だから、鋭い指摘をしてくれる優秀な野党議員は、より良い政策を作るために重要な役割を果たしているのです。

また、日本の国会は会期末までに可決されなかった政策案は、基本的には廃案になる仕組みとなっています。

確かに深夜まで国会を開けているのは時代錯誤そのものではあるのですが、時間切れを狙うのは数で劣る野党に最後に残された手段です。

責めるべきは国会の仕組みそのものであり、野党を責めるのは少し酷な気がします。

野党の果たす役割は見えにくいですが、このように日本の政策になくてはならない存在ではあるのは確かです。だとしても、実際のところ、野党は政府の政策に反対ばかりしているかは気になるところですよね。



2)野党は法案に反対ばかりしていたのか

では「野党が本当に反対ばかりしているのか」ということを直近の204回国会の例をもとに調べてみたいと思います。

以下は204回国会で成立した閣法62本(※)のうち、主な野党系会派(参考)がそれぞれ衆議院で反対した割合を調べたものです。


日本共産党 56.5%
立憲民主党・無所属  25.8%
国民民主系・無所属クラブ  12.9%
日本維新の会・無所属の会  9.7%

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(※)審議された法案は64本ですが、うち2本については野党の強い反対により採決が見送られ閉会中審査となっているため、分母から除いています。
―――――(※の説明終わり)――――――― 

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参考:会派とは

会派とは議院内で一緒に活動する議員のグループです。会派は、同じ政党に所属する議員で構成されるのが普通ですが、政党に所属していない議員同士で会派を組んだり、複数の政党で一つの会派を構成したりすることもあります。(参議院HPから一部改変)
――――――(参考の説明終わり)――――― 

日本共産党が半分以上の法案に反対しているほかは、立憲民主党系が4本中1本国民民主党系と維新の会系が10本中1本の法案に反対している、というのがおおよその状況です。

反対ばかり、というほどでもないかな、、、、というのが私の印象ですが、皆さんはどう思いますか?

3)なんで反対ばかりしているように見えるのか。

法案について、全部が全部反対、という野党ばかりではないようです。では、なぜ野党は反対ばかりというイメージが強いのでしょうか。

これには3つの理由があるかと思います。

①与党が反対しないから
まず一つ目は与党議員が反対しないからです。

「与党が反対しないのはあたりまえだろう」という声が聞こえてきそうですが、それがそうでもないのです。

日本では法律や予算の案を作成するのは基本的に政府の役割で、その内容にお墨付きを与えるのが国会の役割です。官僚とその上司である与党から選ばれた各省大臣等が案を作って、国会議員が決定する、という構造です。

実は、日本では、政府は法律や予算の案を国会で議論してもらう前に与党にその内容を確認してもらって、了解をもらわなければいけない、という非公式のルールがあります。これを事前審査制といいます。

この事前審査の段階で、与党議員は法案や予算に関する意見をきき、その内容を修正することができるのです。政府で大臣、副大臣、政務官といった役職を得ていない与党議員は、事前審査制を使って、国会で議論する前に自分の意見を政策に反映させることができるのです。

その代わりに与党議員は国会で法律や予算に反対することができなくなります(党議拘束)。国会で厳しい質問をすることもありません。結果として、国会の場では、事前に政策づくりに関わる機会を持てなかった野党議員だけが、厳しい質疑をするようになります。

実は、与党議員が政府の出した案に自動的に賛成するのは歴史にも、海外の状況的にも当たり前ではないんです。

かつて、小泉総理(小泉進次郎環境大臣のお父さん)が郵政民営化法案を2005年国会に提出した時には、事前審査での議論が十分に行われなかった結果、自民党内の意見がまとまらず、自民党所属の議員が反対票を投じたことがありました。

また、海外をみると、アメリカでは党議拘束はほとんどないに等しく、フランスでは議決の時には党議拘束がかかるものの、国会での審議では与党であろうが野党であろうが自由に述べている、という報告(※)もあります。
※大山礼子「日本の国会」岩波新書、2011年 P116、174 

事前審査制の問題は、議論が公開されないことが基本のため、どのような経緯で政府の政策案に修正がはいったか不透明になることです。

まさに密室政治です。

国会での与野党の議論を事前審査制という、閉じられた場で議論を完結させてしまう仕組みについては検討の余地がありそうです。

②質疑時間はほとんど野党が持っているから
野党が反対ばかりしているように見える理由の二つ目、それは、国会では質疑時間のほとんどを野党議員に割り当てているからです。

国会で与党と野党がどれくらい質問する時間を持てるかは与野党の協議で決められています。麻生政権時代は「与党四割、野党六割」、第二次安倍政権では「与党二割、野党八割」の質問時間の配分がされていたようです(※)。
安倍総理の与野党の質疑時間の配分見直し指示に関する質問主意書

国会は多数決で物事が決まります。

先ほどお伝えしたように与党議員はほぼ自動的に政府の法案に賛成するのですから、野党が黙っていては政府・与党が作った法案がそのまま通っていきます。世の中には与党や政府とつながりのない人たちもいます。野党がきっちり内容を確認することで、その人たちに配慮した政策になっているかを確かにすることができます。

その政策に問題がないかを確認するためには、野党議員に質問時間を多く配分せざるを得ないように思えます。

質疑時間のほとんどを野党が握っているから、野党の反対姿勢が目立つ仕組みになっているのです。

②国会で行われるのは議論じゃなくて質疑

また、国会での「質疑」は文字通り質疑で、野党が一方的に質問し政府がそれに答える、という形です。議論をする場ではないので建設的な意見交換がされる土壌がない、ということも、野党が建設的な提案をしていない、という皆さんの不満の原因かもしれません。

4)まとめ

野党が別にすべてに反対しているわけではないこと、事前審査制の存在や国会が一方的な質疑の場で議論をすることを想定していないことが「野党は批判ばかり」というイメージにつながっていることをお分かりいただけましたでしょうか。

「こいつ、野党の肩を持っているんじゃないか」と思われるかもしれませんが、そうではありません。
官僚をしていて、強く感じたことは「与党でも野党でもいい議員はいるし、逆もある」ということで、理想としては個人の政治家がいいか悪いかで判断してほしい、というのが私の思いです。
今回の内容が皆さんの政治や行政の理解に少しでも役立てていただければ光栄だと思います。