【マネジメント】管理職の役割変化を文献から読み解く(坂爪、2022)

今回は趣向を変えて、「マネジメント」というテーマでの文献を紹介します。

坂爪洋美. (2020). 管理職の役割の変化とその課題: 文献レビューによる検討. 日本労働研究雑誌, 62(12), 4-18.

どんな論文?

この論文は、さまざまな文献をレビューし、職場マネジメントを担う管理職の役割の変遷を整理すると共に、管理職が役割を効果的に担う上での課題とその対応を記載したものです。

簡単に言えば、「管理職はつらいよ」ということ、およびその理由を、国内外のさまざまな文献を紐解き、わかりやすく教えてくれています。
これは必読ですね。


日本の管理職の現状

まず、平成30 年の『賃金構造基本調査』の内容が紹介されます。日本には,「部長級」「課長級」の人数を合算すると約131 万人の管理職がおり,部長比率は2.9%,課長比率は7.2% のようです。(労働者母数は約1300万人)

続いて、産業能率大学『上場企業の課長に関する実態調査』から、プレイヤー業務を行っていない管理職は、直近の調査(2019)でたったの1.5%しかいません。2010年以降の結果も1%以下です。いわゆる、プレイングマネジャーとして重い負担を担っていることがわかります。

P6

管理職がプレイヤー業務も行う理由は、部門目標を達成するために必要な仕事量に対して部下の数が不足しており,仮に部下の数が足りていたとしても部下の力量が不足している,といった部下の量的・質的不足に起因するようです。

この状態について、リクルートマネジメントソリューションズの調査「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査」(2020)によると、管理職の68.7%、人事担当者の69.3%が、ミドルマネジメントの負担が過重になっている、と答えており、過重労働の認識はある様子。しかし、有効な手を打てていないようです。


管理職の役割はどう変わったのか

Korica, Nicolini and Johnson(2017)は,管理業務が,どのように研究されてきたかを明らかにすることを目的として,1951 年から2015 年までに掲載された管理職の仕事に関する論文を対象としてレビューを行い,変化しないものと変化したものに分けて整理してくれています(以下図)。

P10

この図を見ると、変化のない仕事も多いですが、主に3つの変化が見て取れます。

  • 部下との関わり方が命令や統制という一方通行の形から対話志向へ
    と変化

  • 部下とのミーティングに費やす時間が増え,外部者との時間が減少
    するという,時間の使い方の変化

  • 監督者から,人的資源管理を含む部門の管理責任に大きな役割を持つマネジャーまたはコーチへと変化

この人的資源管理が、なかなかの代物です。論文では、以下のように説明がなされます。

人的資源管理において管理職が担う役割の中心は,人事施策の策定ではなく,採用・配置・育成・処遇・給与に代表される人事施策の運用である。人事施策の運用を担う管理職は,人事施策がもたらす個人レベル・組織レベルでの効果に大きく影響を与える重要な存在とみなされる(Purcelland Hutchinson 2007; Guest and Bos-Nehles 2013)。それは,組織レベルで捉えた場合,人事施策を実行するのは人事部ではなく,管理職だからであ
り,どんなに素晴らしい人事施策が策定されたとしても,管理職による運用が適切でなければ,その人事施策は,期待された効果をあげることは難しいからである。

P10

「人事施策は運用8割」なんて言葉も良く目にしますが、その運用を担うのが管理職へと変化している、という状況です。(現場を預かるイチ管理職として言いたいのですが、これ、めっちゃ大変です)

こうして、人事機能が管理職に任されます(分権化)。良い面としては、部下のニーズを理解する直属の管理職が育成・配置などを行う方が効果的ですし、意思決定も早いのは確かです。成果を上げるためには、人的資源管理を行うこともマネジメントとして必要です。

しかし、問題は、管理職は,職場のパフォーマンスに関する責任を負ったまま,新たに人的資源管理に関する役割を担い,かつ人事施策の効果を左右する重要な担う存在と位置づけられるようになっている点です。


また、組織構造も変化しています。

1980年代後半以降、それまで主流であった、規則による管理の重視といった特徴を持つ官僚制組織のデメリットが指摘され,より柔軟性が高く,階層がフラット化した組織構造へと変化し、より複雑になります。

その結果、管理職は、日常的な管理業務や階層的なコントロールに注力するのではなく,部下のパートナーもしくはファシリテーターやサポーターとして関わる,という新たな役割を担うことになります。

Tengblad(2006)の研究では、対話の重視とサポーティブなリーダーシップの発揮といった変化が認められることを明らかにしています。具体的には,部下とのコミュニケーションは,管理職が情報を集めて意思決定を行うというよりは,自律的な部下と問題の解決策について話し合うタイプへと変化。加えて、部下への配慮や心遣い(care and consideration:雑談や挨拶,関心の表明)に時間を費やす,サポーティブなリーダーシップを発揮していた模様。

他方、部下も,管理職に対し,人への接し方についてのスキルを持っていることを重視し,優れたリーダーとは毅然としつつも,人間というものを理解し,話しやすく,部下と話す時間を取り,部下を一人の人間として扱う存在であるべき、ということが示されたようです。

こうして、管理職には、人事施策の効果を左右する運用の担い手という役割が加わり,かつ管理職の時間の多くを占める部下とのコミュニケーションは,指揮・命令から配慮を含む双方向の対話(つまり時間がとられる)へという質的な変化を遂げ、部下からの期待も高まっていくわけです。

この役割変化は,管理職に役割遂行に必要な能力の不足,役割過負荷と役割葛藤をより深刻なものとしています。以下が論文からの抜粋です。

部門の業務を滞りなく進めつつ,人的資源管理上の役割を担い,同時に,多くの時間を費やす部下とのコミュニケーションにおいて配慮を示すという,役割の幅広さと複雑さは,必要とされる能力の幅広さ,ならびに必要とされる能力の不明瞭さにつながることから,能力を獲得することは難しくなり,能力不足が生じやすくなる
また,役割の拡大は役割過負荷にもつながる。McConville(2006)は,管理職が部門の業務を推進する役割と人的資源管理上の役割という2 つの役割を担うことで,常に様々な問題に対処することを要求されるという役割過負荷の状態になり,部下と話したり,相談に乗るための十分な時間を取ることに難しさを感じていることを明らかにした。また,人事機能の意思決定に関わる権限移譲が進むことは,管理職の仕事を複雑にすることを通じて,役割過負荷になると同時に,役割の曖昧さを高める(Gilbert, De Winne and Sels 2011)。さらに,前述したように部下に対する配慮を伴うコミュニケーションも,管理職の精神的負担を高める
(中略)
役割の変化は,役割葛藤をも高める。そもそも管理職の仕事は役割葛藤を内包するが,人的資源管理上の役割をも担うことで,さらに部門の目標達成という短期的な目標と,例えば人材育成といった長期的な目標との間でも葛藤する(Hutchinson and Purcell 2010)。同様に,部下とのコミュニケーションが双方向的,かつ配慮を含むものとなったことも役割葛藤につながる。

P14

役割が幅広く、複雑になれば能力不足にもなるでしょうし、役割過負荷にもなるでしょうし、複雑なので役割曖昧も高まるでしょうし、精神的負担は計り知れません。さらに、葛藤も・・・書いていて切なくなります。

さらに筆者は「現在,ダイバーシティ・マネジメントに代表されるように,人的資源管理が個別化・多様化を前提に,異なるニーズを持つ個人を協働させるという方向へと進むことは,管理職の負担感や葛藤をさらに高めると考えられる」と述べています。ひぃぃぃぃ。


課題への対処

管理職による人事施策の運用に関する研究では,以下が、管理職の役割に関する課題対処の「機会」として紹介されています。

  • 職務設計や管理職のエンパワメント(Lepak et al. 2006)

  • 役割遂行に必要な資源の量,職場に存在する脅威,組織の方針,組織構造,組織文化(Stajkovic and Luthans 1998)

  • コンサルタントの活用,新たな人事制度の導入(Trullen et al. 2016)


感じたこと

もう、管理職は大変すぎます。
これは「管理職になりたい」と思う若手も出なくなって当然ですね・・・。

自分も、管理職を長年務めているので、首がもげるほど頷きながらこの論文を読んでいました。役割過負荷、役割曖昧、役割葛藤・・・。パフォーマンス発揮から人的資源管理まで。そりゃ大変。

だからこそ、少しでも効果的な役割発揮ができるよう、管理職のみなさまに「武器」を提供したい、と思っています。有効なリーダーシップが発揮できれば、部下がすくすく成長して、パフォーマンス部分の負荷も減りますし、人的資源管理の負荷も減ります。

その1つとして、インクルーシブ・リーダーシップが役立つ、と考えています。しっかり研究し、部下が自分らしくイキイキと働けるような職場づくりに貢献したい、と思います!(自分も楽になるはず!)


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