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【インクルーシブ・リーダーシップ】ILが部下の課題遂行能力を高める!?(Siyal et al.,2023)

今回は、今年出されたばかりの最新のIL研究を見ていきます。

Siyal, S., Liu, J., Ma, L., Kumari, K., Saeed, M., Xin, C., & Hussain, S. N. (2023). Does inclusive leadership influence task performance of hospitality industry employees? Role of psychological empowerment and trust in leader. Heliyon, 9(5).

どんな論文?

インクルーシブ・リーダーシップ(IL)が、メンバーのタスク・パフォーマンス(課題遂行能力)を高めるメカニズムとして、心理的エンパワーメントの媒介効果と、調整要因としてのリーダーに対する信頼を定量的に調査した文献です。モデル図はこんな感じです。

調査は中国のホスピタリティ業界(ホテルやレストラン等)で行われ、410の回答を得て定量的な分析を実施しました。ちなみに、ホスピタリティ業界におけるIL研究の他の事例は、先日投稿した通りです。ホスピタリティ業界、多いですね。。

調査・分析の結果、インクルーシブリーダーは、心理的エンパワーメントを通じて、直接的・間接的に部下のタスクパフォーマンスを向上させることが明らかになりました。

さらに、リーダーに対する信頼が、ILが心理的エンパワーメントやタスク・パフォーマンスに与える影響を調整する効果も示されました。


なぜ、ILがメンバーの課題遂行能力を高めるのか

ILは、Carmeli et al. (2010)の尺度が用いられており、「開放性」「近接性」「有効性」の3つの下位次元で構成されるものです。こうしたILが発揮されると、なぜ課題遂行能力が高まるのでしょうか?

著者らは、以下のように述べています。

①インクルーシブ・リーダーは、部下にチャレンジする意欲を与え、チャレンジした後は部下を評価する。また、課題に直面する際に、発生する可能性のある問題について、インクルーシブ・リーダーは部下と容易に議論できる。加えて、ILに見られるようなリーダーの謙虚さは、部下の業務遂行にプラスとなり、部下も恐れや抵抗を感じることなく自分の誤りを認め、修正できるようになる。

②社会的交換理論の考え方によると、リーダーが部下に共感的に接するとき、部下はリーダーにパフォーマンスで返そうとする、といった交換関係が暗黙裡に成立する。
従って、部下が肯定的かつ尊敬的に扱われれば、彼らはそれぞれのグループで割り当てられた仕事のパフォーマンスを向上させ、好意的な反応を返そうとする。

③インクルーシブ・リーダーは、従業員間の平等性を発展させるような職場環境を作り、責任感を育み、どの部下も無視されたり重要視されていないという認識を無視する。それゆえ、部下のやる気を引き出し、仕事の成果を向上させることができる。


心理的エンパワーメント

  • 心理的エンパワーメントは,仕事の知覚に関する 概念で(Spreitzer, 2008; Thomas and Velhouse, 1990)。意味,能力,自己決定,インパクトという4 つの認知的要素から構成されています(Spreitzer, 1995)。4つそれぞれの意味合いは、以下の通りです。

  • 意味:自分の理想や基準という観点から感じる仕事の目標・目的の価値

  • 能力: 業務遂行能力を有するという信念。

  • 自己決定:仕事において自分の行為を創始・制御できるという感覚

  • インパクト:自分が仕事上の成果に影響を及ぼすことができるという認識

先行研究では、心理的エンパワーメントを構成する2つの要素(自己決定と意味)が、職務遂行能力と統計的に有意な関係を持ち、残り2つの要素(能力とインパクト)が、タスクパフォーマンスに正の影響を与えることが示されています。

仕事の目的は、従業員が職場で遂行するタスクに対する意識を向上させ、良好なパフォーマンスを発揮するよう促し、自己決定によって学習活動への関心、柔軟性を持つことにつながる、と説明されます。

また、持続性(コンピテンシー)と拡大課題努力(効果)が適用されれば、パフォーマンスが向上するという研究結果もあるようで、従業員が自分の仕事に意味を感じ、能力に自信を持ち、高い自律性を持つ、といった心理的エンパワーメントによって、メンバーが明確なモチベーションと熱意を喚起され、役割外行動を行ったり成果を出したりする可能性がある、とのこと。

実際に、研究でも、以下の図が示す通り、効果量を示すβの値は、心理的エンパワーメントがタスクパフォーマンスに及ぼす影響が最も大きく、次いで、ILが心理的エンパワーメントに及ぼす影響も0.27程度を示しています。

P11


信頼がILの効果性を高める

信頼が、上司ー部下間において重要であることは論を待ちませんが、ILの効果を高める要因としての信頼の効果も明らかになりました。文献では、以下のように説明されています。

この超競争的な世界では、従業員が何か助言を必要とする場合、自分を裁いたり、自分の考えを評価したりしない個人的な関係や人間関係に行き、最終的に職場での自分の価値を高めることになる。したがって、リーダーがフォ
ロワーに公平に接すれば(すなわち、インクルーシブ・リーダーシップの経験)、フォロワーはこの関係を質が高いと認識
し、自分のパフォーマンスを向上させたり、役割外行動を実行したりするために、より大きな努力を費やすことによって、それに応えようとする 。しかし、このような関係の質は主に信頼のレベルによって決まる。従業員がリーダーを信頼すれば、自分たちの権利が侵害されることはないと確信し、十分な情報を得ているため、リーダーに従うようになる。

P11 訳:Deepl

リーダーにおける信頼といえば、「交換理論」のLMX(Leader-Member Exchange)が有名です。LMXが、インクルーシブな風土に与える影響は以前の投稿で紹介しているので、そちらも関心あれば。


感じたこと

ILの研究をここまでたくさん見てきましたが、ILが高まることによる成果要因は、タスクパフォーマンスに限らず、心理的安全性、ボイス行動、仕事への意欲、創造性と、多岐にわたります。

また、今回のような媒介要因として、心理的エンパワーメントにとどまらず、心理的安全性、心理的資本、情緒的コミットメント、リーダー・アイデンティティフィケーションと、これまた多岐にわたります。

一方で、義務感を高めたり、挑戦関連ストレス(良いもの)と負の相関があったりと、マイナスの効果も見えてきています。

IL研究はまだまだこれからの領域ではありますが、この数年でものすごい量の研究が蓄積されつつあり、遅れを取らないようにしたいところです・・・!

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