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【インクルーシブ・リーダーシップ】最新のIL研究③ホスピタリティ業界の事例

今回もIL研究の最新事例を紹介します。

Jolly, P. M., & Lee, L. (2021). Silence is not golden: Motivating employee voice through inclusive leadership. Journal of Hospitality & Tourism Research, 45(6), 1092-1113.

どんな論文?

ホスピタリティ産業、いわゆる、飲食業やホテル・宿泊業、旅行・ツアー業などにおいて、インクルーシブ・リーダーシップがボイス行動に与える影響について定量的に実証した研究です。

ボイス行動・・・?どこかで聞いたような・・・?

はい、そうです。昨日投稿した内容と同じ「ボイス行動」を成果変数に置いた研究です。ボイス行動とは、業務改善の意思のもとに 職場をともにする他者に対して行われる建設的な働きかけ、と定義されていました(Van Dyne & LePine, 1998)。

今回の論文の著者はペンシルバニア大学とテンプル大学なので、米国の研究ですが、前回は中国が舞台でした。ほぼ同じタイミングで、IL×ボイス行動、という研究がなされていたというわけです。
前回投稿も貼り付けておきます。

なお、本論文では、媒介変数として、メンバーの「有能性欲求」「関連性欲求」という2つの欲求が分析されており、特に「関連性欲求」による効果が大きいことが示されています。

つまり、ILがメンバーの関連性欲求を満たし、その結果、職場を安全だと感じて、多少対人リスクはあるが職場にとってよい提案を行う「ボイス行動」が高まった、ということが明らかになりました。


欲求を支える理論

今回挙げられた2つの欲求ですが、理論基盤としては、デシ・ライアンの自己決定理論が用いられています。自己決定理論とは、誤解を恐れず簡単に言えば、自己決定の度合いが動機付けにつながる、と説明した理論です。

動機付けと言えば、外発的動機付け(報酬や地位など)や内発的動機付け(内から沸き上がる動機)などが思い浮かぶと思いますが、デシ・ライアンらは、外発的動機づけと内発的動機づけは対立概念でなく、自己決定の度合いに応じて、外→内に段階が進んでいくもの、と説明しています。

デシ・ライアンらは、内発的動機付けを促進する3つの欲求について言及します。それが「自律性欲求」「有能性欲求」「関連性欲求」です。特にその中でも自律性欲求が重要と説いています。

自律性欲求:自己の行動を自分で決めたいという欲求
有能性欲求:自分の能力とその証明に対する欲求
関連性欲求:周囲と尊重し合う精神的な関係を築きたいという欲求

詳細はこちらのリンク先がわかりやすく纏まっています。

今回の研究では、ボイス行動と紐づけて、有能性欲求(自分の提案したことで職場の改善につなげたい)、関連性欲求(尊重し合う職場メンバーのために、リスク覚悟で提案したい)の2つが取り上げられています。こうした欲求が、ボイス行動の原動力になり得る、という仮説です。

そして、ILが、有能性欲求や関連性欲求を高め得ることも想定されます。ILは、メンバーの発言を奨励し承認する行動なので、メンバーの有能性欲求は満たされやすい。また、オープンで意見を求めるような行動でもあるため、リーダーとの関係性において、関連性欲求も満たされると想像されます。

つまり、この研究では、
 
 IL → 有能性欲求・関連性欲求 → ボイス行動

というパスを想定しています。


研究結果

本研究は、サーベイ会社であるクアルトリクスを介して募集された、ホスピタリティ業界の従業員440名をサンプルとしています。最も多かったのは「飲食業」で47.5%、「ホテル・宿泊業」が35.2%、「旅行・ツアー業」が17.3%でした。

結果ですが、
IL→欲求→ボイス行動における、欲求の間接効果が有意に認められたものの、回帰係数の値(影響度を示す値)が、有能性欲求がβ=0.08なのに対し、関連性欲求がβ=0.52と大きな開きがありました。
これは、関連性欲求の満足度を通じた、ILのボイス行動に及ぼす効果が、有能性欲求のそれと比してかなり強いことを示します。

一方で、関連性欲求および有能性欲求とボイス行動の関係の値には、そこまで差がありませんでした。

このことから、ILと関連性欲求充足の関係が濃いことがうかがえます。(ILが、開放的で、近接的で、有効的といったリーダーの行動であることを踏まえると、当たり前っちゃ当たり前ですが。。。)


感じたこと

期せずして、インクルーシブ・リーダーシップがボイス行動に与える影響を2日連続で扱いましたが、これらの結果から、職場改善に向けた意見出しには、ILが有効である、ということは説得力を持って言えそうです。

しばらく、集中的にILの実証研究結果を調査し、ILが何に効くのか?どんな調整要因によって高められたり、低められたりするのかをガンガン挙げていこうと思います。


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