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【インクルーシブ・リーダーシップ】ダイバーシティ・マインドのためのILとは?(van Knippenverg et al., 2021)

インクルーシブ・リーダーシップ(IL)に、「ダイバーシティ・マインドセット」の要素を加えて統合し、ILを発展させようと試みた文献です。

Van Knippenberg, D., _ van Ginkel, W. P. (2022). A diversity mindset perspective on inclusive leadership. Group _ Organization Management, 47(4), 779-797.


どんな論文?

この論文は、ダイバーシティ・マインドセットのためのリーダーシップが、ILを補完し得るという考えを、先行研究を丁寧に紐解きながら論考し、新たな概念として提唱したものです。

筆者らは、このリーダーシップを「ダイバーシティ・マインドセットのためのインクルーシブ・リーダーシップ」と名付け(長いですね)、これまでのIL研究を拡張させています。

ILとは、部下の帰属意識や独自性を尊重される状態、いわゆるインクルージョンを感じている状態をつくりあげるリーダーシップと定義されます。

一方、ダイバーシティ・マインドセットのためのリーダーシップは、チームにおける、多様性の理解と関わり方に関する、チームメンバーの認知を高めるリーダーシップ、と定義されています。

これら2つのリーダーシップを統合させたのが、「ダイバーシティ・マインドセットのためのIL」とのことです。

こうした2つのリーダーシップが、どういうもので、なぜ相互に補完することが可能なのかを、先行研究に基づき、丁寧にレビューしています。


ダイバーシティ・マインドセットのためのリーダーシップ

この文献では、ダイバーシティ・マインドセット(DM)に有効なリーダーシップについて紹介があります。

まず、DMの定義ですが、van Knippenberg et al.(2013)による研究を参照し

「あるチームにおいて、自分たちの多様性に関する理解や、その上でのかかわり方に関するチーム認知」

と説明されています。
論文にも注釈があるのですが、多様性に対する理解を持つ、といった一般論的な理解というより、そのチーム特有の多様性や関わり方に関するもののようです。

そしてDMは、チーム認知、つまり、チームにおいて共通認識となった理解を指すようです。このように、チーム認知に類似性があると、メンバー間に共通の努力が生じ、よりチームワークが高まるとのこと(チームワークで有名な、Salas & Fiore(2004)を引用しています)。

DM=チーム認知があることで、チーム内のダイバーシティによる、さまざまな視点や情報が活かされます。ダイバーシティがイノベーションにつながる、という理論的背景は、多様な情報や視点が組み合わさることで生まれる、と言われますが、DMがそれを後押しするもの、と指摘しています。

このDMを高めるのが、DMのためのリーダーシップであり、以下3点の要素から構成されるようです。

1.リーダー自身がDMを高め、メンバーに伝える

リーダーがチームメンバーのDMを高めるためには、まずリーダー自身がDMを持ち、それをメンバーに促すことが大切。

2.チームの情報精緻化を刺激する

チームメンバーにおける多様な視点や意見を集め、議論や統合を促す行動を通j知恵、チームの持つ情報を精緻化することが重要。

3.チームのトランザクティブ・メモリーを高める

トランザクティブ・メモリーとは、簡単に言えば、「Who knows what」、つまり、「組織において誰が何を知っているか」を知る(記憶する)ことです。

チームが多様な情報を活用するためには、まず、チーム内において、誰がどんな情報を持っているか」を知り、それを各自が内省したり、共有する場を設けることが重要。

これら3つの要素により、DMを高めるのが、「DMのためのリーダーシップ」というものだと筆者らは説明します。


DMのためのリーダーシップがILを補完するとは

上に見てきた、DMのためのリーダーシップは、既存の研究で定義されてきたILを補完する、というのが、本文献の最大の主張です。

言い換えると、ILに関する研究においては、こうしたDMとの関連性を示すものや、DMを高めるといった実証的なものがなかったようです。

ILが初めに概念化されたのは、Nembhard & Edmondoson(2006)と言われますが、この論文では、心理的安全性に効くリーダーシップとして、ILが紹介されます。

その後、ダイバーシティやインクルージョンの領域において、インクルージョンを高めるリーダーシップとしての整理が深まっていきます。この辺りのILに関する詳細は、過去の投稿にまとめております。

つまり、DMとILは、似たような「ダイバーシティ&インクルージョン」関連の研究でありながら、直接的な関連性を明らかにされてこなかった、というのが、著者らの指摘したリサーチ・ギャップ(研究上の穴)なのです。


DMのためのIL

著者らは、ILに欠けている要素を補完するものとして、DMのためのリーダーシップを掲げ、統合することで、「ダイバーシティ・マインドセットのためのインクルーシブ・リーダーシップ(DMのためのIL)」を提唱しています。

このリーダーシップのメリットとして、以下2点が解説されています。

1.インクルージョン→(チームの)情報の精緻化を導く

ILは、メンバーのインクルージョン、すなわち帰属意識と独自性の発揮を高めるとされますが、メンバーがこうした意識をもった上で、チームにおけるDMを実現できると、多様なメンバーの視点や情報が統合され、情報の精緻化が導かれ、成果を生み出す、と著者は説明します。

簡単に言えば、DMのためのILをリーダーが発揮することで、ダイバーシティがパフォーマンスに繋がる、と言えそうです。


2.DMというチーム認知により、チームワークが向上する

上でも説明した通り、チームで共通認識化された認知を持つと、チームワークが向上すると考えられます。

多様なメンバーは、ややもすると、違いに意識を向けることで、「あなたはあなた、私は私」と一線を引いてしまい、一体感を持ちにくくなりがちです。

一方で、チーム内にDMが高まることで、互いの多様性に関する「Who knows what」がわかり、かつ、帰属意識や独自性の発揮の意識もILによって高まるので、多様なメンバー間のチームワークが向上する、と指摘されています。


感じたこと

過去の研究を丁寧に紐解き、ダイバーシティやインクルージョン研究においてILに欠けている点を示したうえで、ダイバーシティ・マインドセットのためのリーダーシップで補うことができるという論考は、大変面白いです。

どのリーダーシップも完璧ではなく、特定の文脈やメンバーの状況などで、有効なものが変わると言われます。

ただ、インクルージョンを高めるリーダーシップとして発展してきたILの穴を的確につき、DMという補助線を加えるという考え方は、提示された概念や要素もさることながら、その発想そのものが学びになりました

研究というのは、本当に多様で、深いものだと考えさせられるばかりです。いつになったら、こうした示唆に富んだペーパーを書けるのか、、、地道でコツコツと進める日々は続きます。




言い換えると、

マジョリティ・メンバーがマイノリティ・メンバーの専門知識を認識することにその逆よりも関心を持つこと、また、マイノリティ・メンバーの貢献がチームの情報精緻化において十分に考慮されることにもっと関心を持つことなどです。このことはまた、理想的には、異なる背景を持つチームメンバーにとってインクルージョンの課題は異なるということが、チームメンバーのダイバーシティ・マインドの一部であることを示唆している。このような非対称性の研究、そしてこのような非対称性をターゲットとするインクルーシブ・リーダーシップの研究は、今後の研究の重要な方向性となるだろう



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