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地球儀を回すように

 きっと沢山の人がもう既に沢山の考察や解説、感想、批評、批判、賛辞を送っている『君たちはどう生きるか』という作品について、自分でも映画館に足を運んで見てきたので、感想を述べたいと思う。
 が、自分は映画の知識もアニメーションの知識も造詣に乏しく、ジブリ作品や宮﨑駿監督作品もすべてを見ているわけではないため、自分なりの感想、自分なりの考察を交えながら、事実と異なることがあるかもしれないが、こんな風に思ったよ、こんな風に受け取ったよということを記してみたい。全くまだ自分の中でも整理できていないことが多いが、それでも何か残さないとという気持ちになった。

※がっつりネタバレありになりますので、映画をまだ見てないという方は見ないでください。ネタバレなし、先入観なしのまっさらな気持ちでまずは映画を見ることを強くお勧めします。

1,冒頭および火について
 主人公眞人の母親の病院が火事になるシーン。私はこのシーンがはじめ、関東大震災か空襲のシーンかと思った。それは監督も敬愛する堀田善衛氏の『方丈記私記』を想起させた。『方丈記私記』は作者の堀田善衛が戦中の焼けた東京から、鴨長明が記した方丈記を思い起こすエッセイで、もし宮﨑駿が好きなら読んで後悔はないと思う。
 火というものについて、宮﨑監督がどうとらえているのかは、これまでのジブリ作品でも描かれている。『ナウシカ』や『ラピュタ』で描かれた世界を滅ぼした火、『ハウルの動く城』で描かれた綺麗な火。
戦争の道具と、生活に結び付いた火の在り方。これは現実の世界となんら変わりのない構造で、監督が戦争をどれほど嫌っているかが分かるモチーフである。
 作中で、母の幼いころの姿であるヒミが扱うのも火であり、キリコの扱う火をつけることのできる鞭みたいなものもまたモチーフであると推測できる。
ヒミが扱うのは生活に沿った火で、キリコが扱うあの火が付いた鞭のようなものもまた彼女の暮らしの中で扱われるものだ。
 ラストでは眞人を産むため、別の扉から元の世界へ戻ったヒミ。そして最後は病院の火災で命を落とす。火より生まれ、火へと帰っていく。人を育む火、暖かい安心を提供してくれる 象徴だろうか。
戦争の道具ではない、生活に由来した、温かく優しい火というものがあるのなら、彼女のような存在になるのかななんて思ったりする。

2、キリコのワンピース
向こうの世界のキリコの部屋の壁に掛けられた鮮やかな色のワンピースが目を引いた。
あの世界で着ることがあるのか、それとも誰かが置いていったものか、分からない。けれど、女性の部屋には可愛い洋服が掛けられていて欲しいという、監督の願いのようなものじゃないだろうか。きっと大切な人と会うときに、彼女はあのワンピースを着るんだろうと思う。

3、眼差し
印象的だったのは、眞人が冒頭で、ナツコの家に来たばかりの時は目に力がなく、アオサギが現れ、頭に傷をつけたあたりから、少しずつ眼差しに力が戻り、水差しから水を自分で飲むシーンなんかはもう精悍な青年のような顔つきになった。少しずつ大人になっていっているという現れだろうか。
向こうの世界に行った後でも彼は出会う人に助けられながら少しずつ核心に迫り、そして成長していく。子供とは思えないほどの冷静さ、迷いのなさで自分の進むべき道を切り開いていく。見ようによっては少し不気味な子供ではあるが、自分の力で、周りの人を頼ったり、支える道具を使ったりして生きて欲しいという願いにも思える。

4、地球儀
映画を見ている時はエンドロールでも泣いてしまっていてあんまりちゃんと米津玄師の地球儀を聞けていなかったが、家に帰って聞いてみるとこの映画にはこの歌しか無いような気がした。
というよりも、多くの人がそうであるように思い起こすのは宮﨑監督本人だ。

"行っておいでと 背中を撫でる"

生み出した映画ひとつひとつにそう声をかける監督の姿をそこに見た気がした。

とりあえず、長くなりそうなので一旦この辺で。
難解とか、意味がわからないとかの感想があるのも頷けるし、中々評価の分かれる作品だと思うが、私としてはシンプルに楽しんで良いエンターテイメント作品だと思う。
王道の児童文学を下地にしたファンタジー作品、つまりいつものジブリ作品がそこにあったと思う。
父・母との問題、神話的側面や、数々の文学作品から脈々と受け継がれた要素で構成され、最後はとても爽やかで気持ちの良い風が吹き抜けるような映画だったと思う。どこをどう切り取っても美しかった。

余談だが、冒頭でアオサギが眞人の真似をしておかあさーんと言うくだりで、ロバート・ウェストールの『禁じられた約束』を思い出した。
ああいう話になるのかななんて思っていたら、王道ファンタジーの物語が展開されて、個人的にはやはり宮﨑駿はファンタジーが似合う気がした。

また時間を見つけて映画館に観に行きたい。

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