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「ホシは『サトウ』を名乗り、現金二千万円を要求しています」

■感想文『64』/著者・横山秀夫さん


横山さんが小説を書くと、書いたあとに、書いた内容が事実として世の中に存在してしまうような、強い説得力を感じます。緻密で詳細に書き込まれた世界観や、張り巡らせた伏線を拾い集める仕掛けは見事です。本の前半部分では主人公の内省が少しだけ続きますが、一度、サイコロがふられたあとの物語の展開には息をのみます。小説のテクニックなどに気を取られることなく、何も考えず、「物語がどうなるのか」に没頭できる作品です。第三の時効のときも思いましたが、この本のエンディングの次の場面を読みたくなります。本書・本事件の最終場面で、主人公の三上と参事官の松岡が交わした会話の続きを読みたいです。

本を開くと、どのページにもある登場人物の生活や苦難がそれぞれに潜んでいて、でも文章として文字になっているのは、横山さんがクローズアップした人物だけ。確実に本書の中で生きている、そのほかの登場人物たちにとっては、読者が本を読み終えることで、横山さんが作った物語を事実へと昇華させるとなっているんじゃないか、そんな感覚を読後に覚えました。

こういう本に出会うたびに、また、本を読みたいと思う自分がいます。

もしかしたら、初めての読書が本作、という人には、本書や読書そのものの面白さを感じる前に、読み進めることがおっくうになって、読書を諦めてしまうのではないか

そんな取り越し苦労をしますが、文庫になっているので、気軽に読みはじめられるという意味から、万人にオススメです。余計なことを一切考えず、ぜひ読書にひたってください。警察小説がお好きな人にとっては、王道の醍醐味を「これでもか」というくらいに、満喫できる一冊になるのではないでしょうか。

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