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うたの日の短歌

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うたの日で注目した短歌について書いた評を載せていきます。(※ 歌の作者の許可を頂いています。)
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2022年3月の記事一覧

花びらは散らさぬように手を振ってブーゲンビリア空港を発つ/長井めも

2022年3月31日(木)の17時部屋の題「宮崎」の短歌。 宮崎ブーゲンビリア空港では、ブーゲン…

満月の陸蟹の群れは仔を抱へ九十九島の海へと入らむ/咲兵衛

※ 陸蟹=おかがに、九十九島=くじゅうくしま、入=い 2022年3月31日(木)の11時部屋の題「長…

飛び出した街をもたないわたしへと正しく刺さるきみの歌声/桐島あお

2022年3月31日(木)の7時部屋の題「福岡」の短歌。 椎名林檎の1999年発売のファーストアルバ…

雷鳴が轟く街でラムちゃんの「だっちゃ」に「んだね」と返しゆく春/果野ねむり

2022年3月30日(水)の21時部屋の題「故郷の方言で詠む」の短歌。 「雷鳴が轟く街」は宮城県…

はじめての部屋は外明かりをうけてつめたいベッドにすがって眠る/77%

2022年3月30日(水)の23時部屋の題「眠」の短歌。 「はじめての部屋」とは、入居したての部…

手に残る鉄の匂いが冷たくて逆上がりまた冬が近づく/青井力

2022年3月30日(水)の19時部屋の題「逆」の短歌。 逆上がりは小学生にとっては練習が何回も…

おまえよりわたしのほうがしあわせと鏡に言えば頷くおまえ/蜂谷希一

2022年3月30日(水)の17時部屋の題「マウント」の短歌。 マウントを取ることは快いことで、精神衛生上必要だ。それを他人にするから、面倒なことになる。 自分自身にマウントを取ってみるというストレス解消法は健全だ。もう一人の自分に対してマウントを取る。 もう一人の自分は、鏡の中の自分である。 たしかに鏡の中でしか存在できない「おまえ」よりも作中主体「わたし」のほうが「しあわせ」だ。漢字にすれば「仕合わせ」と書くから、誰かと関わり合うこと自体が「しあわせ」なのだと気づ

奥様もどうぞと医者に通されてあなたの妻で過ごす10分/RUKA

2022年3月29日(火)の17時部屋の題「奥」でバラを取った短歌。 作中主体は女性で、男友達、…

風待ちの蒲公英と立つバス停で春の経路を確かめている/あきやま

2022年3月30日(水)の7時部屋の題「公」でバラを取った短歌。 「風待ちの蒲公英」というのは…

「友だちでいいよ」と澄んだ目で笑うきみが眺める遠浅の海/大庭繭

2022年3月28日(月)の21時部屋の題「友」の短歌。 「ごめん、好きな人がいる」という作中主…

さっきまで愛されていた残響としてブランコはきいきいと鳴く/葉村直

2022年3月29日(火)の7時部屋の題「さっき」でバラ秀歌となった短歌。 子どもだろうか、大人…

まだ「友」の言葉を知らず二歳児のお城に砂を運ぶ子のいて/ミドリムシのミドリム

2022年3月28日(月)の23時部屋の題「友」の短歌。 就園前の二歳児だろうか。保育所やこども…

きみだけが呼ぶ名前がありきみだけが知ってるわたしにまた会いに行く/三冬つくし

2022年3月28日(月)の19時部屋の題「友」の短歌。 呼び方というのは相手との距離感を示し、…

こっくりとした飴色に変わってる二人で最後に仕込んだ梅酒/諏訪灯

2022年3月28日(月)の17時部屋の題「酒」の短歌。 「こっくり」という、色合や味などが濃かったり深みがあったりするさまを表わす語を持ってきたところがいい。すっかり飴色を濃くした梅酒が見えてくる。 梅を収穫するところから二人でしたのだろうか。「二人」はパートナーや友だち関係などが考えられる。 「最後に仕込んだ」とあるが、相手が亡くなったのだろうか、それとも相手と離れ離れになったのだろうか。その「最後」から時は移ろい、その経過とともに梅酒の飴色は濃くなるばかりである。