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写真で辿る旅行記 vol.8 フランス 2018年

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#写真で辿る旅行記

パリの美術館を一人で好きなだけ時間をかけて巡る旅行の機会がようやくやってきた。

12月のパリは寒かった。けれど、美術館をメインにするなら完全なデメリットとも言えない。観光客が多い季節は、ルーブル美術館はあの透明なピラミッドの外側に行列ができるようだが、冬のおかげかほとんど行列はなくスムーズに入ることが出来た。

ルーブル・オルセー・オランジュリーの3つの美術館は、それぞれに個性があって、どれも好きになった。

オランジュリー美術館の『睡蓮』が壁一面に飾られた2つの部屋にいるときは、時が止まったような感覚になった。一枚一枚の絵の中や絵と絵の間には時の流れが存在することと対比的に、その部屋にいる人は歩きまわることもなく『睡蓮』と静かに向き合っている。

オランジュリーでの展示は素晴らしいが、モネが実在の睡蓮と向かい合いながら描いている風景を想像すると、陽のあたる屋外でこの絵を見てみたいと思った。きっとまた別の、もっと生き生きとした表情を見せてくれるだろう。

オルセー美術館は印象派の絵画の宝庫。あれほどたくさんの印象派の作品を一度に見れる場所は他にない。「印象派」と一括りにされる画家にも個性があり、それは一人一人の画家がお互いに影響を与えあいながら自分のスタイルを確立していった結果である、ということが展示に沿って見ていくことで自然に理解できた。

画家として好きなのはルノワールなのだが、オルセーで一番印象に残っているのはモネの『日傘の女性』。右向きと左向きの2作が並んで展示されている。柔らかな光の中に佇む女性とそれを見つめる画家の視線の優しさが、あふれんばかりにキャンバスに表現されている作品だ。

ルーブル美術館は一日では回りきれないとよく言われるが、それは全く誇張ではない。私の場合、絵画だけを見て回っても一日半かかった(絵画についてはまた改めてじっくり書きたいと思う)。

ルーブルの中で、良い意味で期待を裏切られたのが、この写真にある『サモトラケのニケ』だった。写真で紹介されるときは普通、彫刻の部分だけが切り取られているが、ルーブルでは階段のある吹き抜けの大きな空間で、石造りの船の甲板の上に立つように展示されている。

下から見上げたニケの姿は、まさに荒波の中で人々を導く女神の姿そのものだった。

横から見ると、布をはためかせ羽をあおる強い風を受けながらも、足を踏ん張って体を前に進めようとする姿勢がより強調される。

どの角度から見ても現実を超えたリアルな印象があり、頭部と腕がないことがこの彫刻の美しさを完全なものにしている。美術品を見て、心を奪われた、という気持ちになったのは初めてのことだった。

もう一つルーブルで有名な彫刻といえば、『ミロのヴィーナス』だ。残念ながら私はニケほど強い印象を受けなかった。美しいことは間違いないが写真で見て想像していた美しさの印象を超えていない、といえば良いのだろうか。

静の美しさのヴィーナスに対して、動の美しさを象徴するサモトラケのニケは、三次元の空間でこそ見られるべき宝であった。

写真で辿る旅行記 vol.8 フランス 2018年

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