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人が育つ土壌を耕す|戸田市・学校経営アドバイザーの実践

埼玉県の戸田市教育委員会。公立小中学校の取り組みが“先進的”と言われ、話題になることも多い。この記事では、校長を退いた後、「学校経営アドバイザー」として校長や教職員の伴走支援に心を砕く小髙 美惠子(おだか みえこ)さんと市教委が「縁の下の力持ち」的存在として取り組んで内容について取り上げる。
今回の後編は、①1on1プロジェクト、②根拠ある省察的フィードバック、③研修観の転換に向けた伴走支援、の3つの柱のうち、②③について詳しく聞いた。

(前編はこちら)

対話して練り上げたルーブリック

―学校経営アドバイザーとしての小高さんの活動は、1on1の他にも「根拠をもとにした省察とフィードバック」というのもありますが、これはどんなものですか?
戸田市は独自に「アクティブ・ラーニング指導用ルーブリック」、「学級経営リフレクションシート」を作っています。アクティブ・ラーニングのルーブリックは、埼玉県学力学習状況調査を通じて「学力向上」傾向が確認できた教員の授業実践を調査し、そこで抽出された要素をベースに指導主事や現場の教員として協議したものです。これは授業の視点。

出典:戸田市教育委員会HPよりキャプチャ
(https://www.toda-c.ed.jp/uploaded/attachment/20403.pdf)

そしてやはり「学級経営」と「授業の良さ」や「学力向上」というのは相関関係があることが研究でも分かっていますので、「学級経営」の視点でも「学力向上」が見られた教員をピックアップして、聞き取り調査と要素抽出を行って可視化したのが、学級経営リフレクションシートです。

出典:戸田市教育委員会HPよりキャプチャ
(https://www.toda-c.ed.jp/uploaded/attachment/20403.pdf)

―なるほど、授業、学級経営、そして学校経営ですね。
はい、最後に学校経営ルーブリックですが、これはまだ市教委HPにも掲載されていないものです。

まず国全体として「令和の日本型学校教育」を担う教師や管理職の在り方については、中央教育審議会でも示されました。校長等の管理職は、従前求められている資質・能力に加えて、アセスメントやファシリテーションが求められるようになっていると指摘しています。アセスメントは、学校が置かれた内外環境に関して情報収集・整理・分析し共有すること。ファシリテーションは、学校内外の関係者の相互作用により学校の教育力を最大化していくことです。

これを踏まえ市教委では、そもそも学校経営におけるリーダーシップって何だろうという話が出ました。じゃあそのルーブリックを作ってみようということになり、令和4年度の1年間で、18校の校長先生たちにも聞き取り調査をしました。学校経営をする上でどのようなところを大事にしているのか、どのように伝えようとしているのか。何が肝要なのか。それをとりまとめたのが以下の文書『戸田市・令和の学校におけるリーダーシップ第1版』です。想定したのは校長だけでなく教頭・主幹教諭も含みます。

出典:小髙先生作成資料より

―特徴的なリーダーシップは5タイプあるということですか?
リーダーシップという言葉はすごく曖昧ですよね。それを要素分解して、そして特徴的なリーダーシップを言い当てた言葉を作ることで、関係者の共通言語になると思いました。その結果、5つの特徴が抽出されましたが、この全てのリーダーシップを校長一人で兼ね備えようなんて無理じゃないですか。だから、校長、教頭、主幹教諭が「チーム管理職」として、それぞれ自分の強みや弱みを自覚して、補完しあえることが大事だと思います。

―聞き取り調査から作られているというのも、対話的なプロセスですね。
他所からそのままとってきたというものではなく、自分たちで作っているから納得感も高いと感じます。これはあくまで戸田市版であり第1版ですから、他の地域ではそれぞれ校長会等で議論してアレンジしてもらえばいいと思いますし、そして時代によってリーダーシップのあり方も変われば見直して第2版に変えていくこともあると思っています。あくまで、現在の戸田市にとっての拠り所です。
そして、管理職が振り返りをするときの指針にもなっています。市教委や県教委の学校訪問指導などが行われるときも共通言語になっており、スムーズに話が進むと感じます。

ー次の活動「研修観の転換に向けた学校課題研究への伴走支援」というのはどのような活動ですか?
まず「研修観の転換」というのは、教員研修に対する捉え方を変えていこうというメッセージのある言葉で、独立行政法人教職員支援機構(略称NITS)も提案しているキーワードです。令和の日本型学校教育を実現するための教員研修のあり方として、教師の学びにも「個別最適な学び」「協働的な学び」の充実が必要であること、教師の学びの姿も子どもたちの学びの姿と相似形であること、などが提案されています。

従来の教員研修は、その時代ごとに要請される知識を講義型で吸収したりしますが、どうしても受身的になってしまったり、どこにでもありそうな研修になってしまったりして、教員たちにとって本当に実のあるものになっていたか反省が残るものでした。ここからの転換を図ろうとしています。

―なるほど、受けてきた研修とは全く異なるなら、簡単ではなさそうですね
各学校の研究主任を中心に、校内研修デザインが進められていますが、市教委としてその先生たち自身の課題感や想いをお聞きしながら、情報提供したり、一緒に考えたりしています。私自身も校長の時は、校内研修を学校経営の柱にして、常に新しいものを吟味するようなことをしてきましたので、その経験を活かして、現在の研究主任の皆さんと一緒に、「ここまではやっていいんじゃない」とか「これは少しコントロールが必要だね」といった塩梅も含めて膝を突き合わせて話している感じです。

参考資料:中央教育審議会、令和4年10月『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について~「新たな教師の学びの姿」の実現と、多様な専門性を有する質の高い教職員集団の構築~(中間まとめ)

人を育てるのではなく、人が育つ。そのために土壌を耕す

―最後に、全体をふりかえって今、感じていることを教えてください。
私のこれまでのミッションを振り返ると、学校は人を育てる場というより、人が育つ場、という意識でやってきました。そして「人が育つ」ということは、「自信を持つ」ことだと思うんです。でも、環境や立場によって、自信を失ってしまったり、失敗を恐れたり、試行錯誤ができなくなったりすると思います。そうした中で、自己選択と自己決定ができる、失敗を許容される、安心できる人間関係の中で、自分というものの存在価値を認めて、自分の価値を発揮すること。それが自信を持つことであり、人が育つということかなと思います。

―「人が育つ場」ですか。
人が育つための土壌を耕していれば、学校はどんな変化にも対応できるし、どんなことが起きても大丈夫だと思っています。そういった意味で、私が今できることが何かなと考えて、今日話したようなことをやってきました。戸田市は先進的な取り組みを取り上げられ、注目していただくことも多いのですが、その元では、指導主事たちも、教育委員会として、こうした地道な取り組みをした上で、注目いただく姿があるんだということを、知ってもらえたら嬉しいですね。ありがとうございました。


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