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わび寂びライカ

わがカメラ事始めは、30年ほどまえのイタリアの旅。
出発まぎわに「写真の撮り方入門」を手にした泥縄そのものであった。

そんな初心者が、プロ仕様のピントも露出も手動のニコンF3で撮って、ピンボケだらけのネガの山を築いた。
アッシジの路地裏。あ、同じカメラを持っている! とお互い思わず駆けよった相手がドイツの女子学生であった。

ベテラン風情の彼女は、プロ風にニコンを「ナイコン」と発音して、ライカより良い「キャメラ」、と。

その後、イタリアの失敗写真から抜けだそうとF3のシャッターをやたらと切った。風景、花、猫、鳥、路地、人物となんでもござれ。ただし婦人科、ヌードは撮らずじまい。

とどのつまり、肌があうのは白黒フィルムの街角スナップと覚った。友人の写真家はスナップならライカと一押し。

NY・グランドセントラル駅   ライカM6   1994

ライカM6、50mmレンズ、白黒フィルムを相棒に、ニューヨーク、ヨーロッパ、日本の裏町をひたすらさ迷い歩く。
小型、軽量なM6で裏通りを動きまわり、
白黒はゴミ箱を撮っても絵になると勝手に思いこみ、裏道には生活感があふれていると肌で感じた。

スペイン・グラナダ  ライカM6   1993


 2台目のライカはデジタルとなった。フィルムカメラは今や絶滅危惧種。白黒フィルムもどんどん消え、現像ラボも東京にあるだけ。現像にだして手もとに戻ってくるのは1ヶ月後。デジカメは瞬時に画像を見ることができる。それやこれや、わが輩もフィルムとおさばらしてライカモノクロームを持ち歩いている。

北海道・層雲峡   ライカモノクローム   2014

このライカモノクロームは、文字どおり白黒しか撮れない。
目に見える世界はカラーだから、目に見えない世界を撮っているわけだ。
ここにおもしろさがあり、創造的なアートの世界が広がる。
名作といわれる写真の大半は白黒だ。

20世紀写真の巨匠アンリ・カルティエ・ブレッソンはライカと50㎜レンズを愛用、白黒一本だった。「絵画は瞑想、写真は短剣の一刺し」。
スナップの「決定的瞬間の写真家」といわれたブレッソンの言葉だ。

手許に一台残ったM型ライカ      好きなブレッソンの写真集  2020

お茶に「わび寂び」という言葉がある。千利休は四畳半の茶室を一畳半にして余分なものをそぎ落とし、お茶の世界を高めた。

ライカモノクロームも色彩をそぎ落した白黒だけの「わび寂びライカ」。
禁欲的だ。
ダメ写真もアートになるかもとシャッターを切っている。


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