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【時空を操るデザイン思考】ちょっとだけタイムマシンな日常のススメ

子供の頃からSFが好きでした。技術が発達すれば今は不可能なことでも未来には可能になると、そう考えただけでワクワクした。SF作家アーサー・C・クラーク氏の言葉「十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない」はその詩的な言い換えでしょう。考えてみればデザイン思考は頭の中で科学と魔法がポジティブに交錯したプロセスです。だからHow might we~?の問いを繰り返しながら「今不可能なことを実現する」ための「十分に発達した技術」を探せる。アインシュタインは時空を相対的であるとした。これを都合良く捉えるなら時間は扱い方次第で長くも短くもなるし、“永遠”から見ればこの世に不可能は無いという解釈さえ成り立つ。斯様にデザイン思考は超楽観的なタイムマシンに乗ったような精神状態とも言えます。今日はそんな“日常のタイムマシン化”について考えてみます。

■日常をタイムマシン化する方法

光速で移動すると年を取らないという。好きなSF映画「インターステラー」で主人公クーパーがワームホールを抜けて生還した時、娘のマーフはすっかり老女になっていた。クーパーは89年間、年を取らずにいた。光の速さに達しなくとも、例えば地球を周回するGPS衛星に時計を積んでおくとその時計は次第に遅れてくるというから面白い。実は新幹線でさえ1200キロ移動すると10億分の1秒だけ時間が伸びるらしい。企業で海外ビジネスを担当していた際、一ヶ月の殆どを海外で過ごすほど飛行機移動を頻繁に繰り返していた時期、年取るのを忘れる感覚があったのはただ忙しかったからじゃ無いのかもしれない(笑)。

これは物理ではなく感覚ですが、何かに没頭していると時間はアッという間に過ぎる。久しぶりに会った友人との楽しい食事も3時間が30分くらいに感じられる。逆に会いたい人と会えない時間のなんと長いこと…。インターステラーでもマーフが父クーパーの帰りを待ち続けた89年は永遠にも感じられたはず。そういえば趣味のマラソンも走ってる間が暇すぎて長~く感じる時がある。距離や速度、集中度や感情など様々な条件で時間は物理的にも感覚的にも伸縮する。だとするとこれを巧く組合せられれば、ある程度意図して時間を速めたり遅めたりできるように思うのです。デザイン思考の基本姿勢は未来志向で前向きな拡大解釈ですから「やったー、今月は100万分の38秒未来に来たぞ!」と勝手に喜んだり(笑)。これを仮に「日常のちょっとだけタイムマシン化」と呼びます。

■タイムマシンの取り扱い上の注意

企業に勤務していた頃、東京―大阪の日帰り出張が週に2~3回あった。空港までJRやモノレールを乗り継ぐ間、暇つぶしに役立ったのがケータイで読めるコミック。元々漫画を読む習慣の無かった私にはモバイルで読めるコミックは移動時間を短く感じる「小さなワープ」だった。これもある意味で便利な「日常化したタイムマシン」の一つかもしれない。ところがこれに慣れた頃、ケータイを家に忘れたりするとそこには恐ろしい不幸が待っていた。電車やモノレールに乗っている時間が退屈過ぎて何倍にも長く感じられた…

このような現象を「スマホ暇」と呼んだりするようです。スマホが埋めてくれる隙間時間がスマホの不在によって「小さくて頻繁な暇」として感じられるようになる。マルチタスクに馴らされたが故の小さな不幸、或いは新時代の器用貧乏。似ているのがアマゾンやUber Eats。“宅配型のワープ”に馴れると、欲しい商品や料理が“今すぐ”手に入らないだけで強烈なストレスを感じるようになる。“普通になったワープ”への依存が齎す不幸。最近のSF映画でも簡単にワープし過ぎるし(笑)。「ワープは1日に一回!。依存症を避けましょう!」はこのタイムマシンを使う上での重要な取説の一つかもしれません。

■意識のデフォルトは太陽系のスケールで

時間に対して主導権を握るためのエクササイズ。私は朝起きるのに目覚ましを一切使わない。機械や他人に大切な一日をスタートさせられるのが嫌だから。社会生活では時間や空間に対してどうしてもある程度受け身にならざるを得ない。でも社会やシステムに一分一秒を駆り立てられて生きるより、時間さえ自分の主観で捉え直すことができたら自分の人生を他者やシステムに明け渡さずに済む。私はスピリチュアルではないけれど、占いや宗教にさえ天文学がベースにあるし、月や惑星の動きは人間の営みに少なからず影響を与えていることは古来よく知られている。

例えば太陽系の惑星に想いを馳せてみる。木星の1日(自転周期)は9.8時間しかない。でも木星の1年(公転周期)は11.86年!金星に至っては1日が地球時間の243日もあるのに、金星の1年は約0.6年(224地球日)。自転周期と公転周期だけで言えば、金星では一年よりも一日の方が長いことになる!もうイメージできないくらいダイナミック過ぎて地球上の一分一秒が馬鹿らしく思えてくる。金星時間を日常に採用するのは難しいw としても、少なくとも自分の意識の時空間は山手線内回りのスケールではなく、太陽系くらいのスケールで捉えていた方が幸せなのではないかと思います。

■瞑想はタイムマシンのキャリブレーション

時空間は状況や捉え方次第で伸縮する。それを私はタイムマシンと捉える。このタイムマシンは自分が主導権を握っている限りポジティブに乗りこなせるけれど、何かに主導権を握られたり、システムや他人に依存した瞬間から機能を狂わされる。では狂ってしまったマシンの修正は可能か?

シリコンバレーで昨今浸透しているマインドフルネス。サンフランシスコ禅センターや、スティーブ・ジョブズも足繁く通ったという慈光寺などでは多くの人が座禅を組んで瞑想している。やってみるとたった5分の瞑想でもマインドがリセットされる感覚がある。シリコンバレーで多くの人が瞑想する理由は苛烈に加速するビジネスとテクノロジーによって狂ってしまいがちな自分のタイムマシンをキャリブレーションするためかもしれない。

いずれにせよ、物理法則や感覚の力を借りたり、意識のスケールを変えてみることで自分だけのタイムマシンを日々アップデートできれば、日常はちょっとだけ時空を旅する如く楽しめるようになると思います。

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