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6章 失せ物捜しの日々⑵

話はモクレン館に戻って…


日頃から忘れ物探しを自覚しているイチョウであるが、
今また、狭いモクレン館の部屋で物探しをすることになった。
認印をどこへ仕舞ったか、曖昧な記憶のまま、まず、鍵付きの小引き出しを調べた。
(見当たらない)
次に、イチョウは、クローゼットに保管しているキンコと旅行鞄を調べた。(鞄の中と外ポケットと探しても見当たらない。
何回探しても見つからない。
キンコも解錠して調べたが、入っていない)


翌日になって、改めて、イチョウは、旅行鞄を調べた。
印鑑の入った小袋はそこから出て来た。
それは、旅行用の鞄のポケットに収まっていた。
イチョウは、鞄のポケットを全部、何回も見たと思っていたが、見落としがあったのだ。
「え!」という所に、も1つ小さなポケットが隠れていた。
その、「え!」という所に、大事な物は小さくきちんと収まっていた。
旅行用鞄には、ちょっと見ではわからない位置に、スッと出し入れしやすい大きさのポケットが張り付いていたのだ。



胃腸薬はいずこに


イチョウのウロウロ物探しは、これで終わりではない。
印鑑探しからしばらくたったある日、
イチョウは、胃腸の薬を3回分、モクレン館で臨時に処方して貰った。
モクレン館のナースが、
「臨時薬です」と言って、昼過ぎにイチョウの部屋まで持って来た。受け取って、いつもの薬を置く書棚の1画に収めた。
夕食後、臨時薬をいざ服用しようとすると、その薬袋やくたいが見当たらない。
いつも飲んでいる薬はいつもの所にある。
それらを全部、引っ張り出して1つ1つ調べたがその中にはない。
イチョウは途方に暮れた。
(私は、いつも捜し物ばかりしている……)


そこでイチョウは、2階のナースステーションを訪ねた。
「臨時薬が見当たりません。私は本当に受け取ったのでしょうか?」
「お薬が見当たらないのですね。一緒に探しましょう」
ナースはそつなく対応し、部屋まで同行した。
「お薬はいつも、どこに置いています?」
イチョウが書棚を示すと、ナースは、3日前に処方された、いつも飲んでいる薬2週間分を取り出して調べた。
そしてその後、本の間を触った。
「ありました」
3回分の臨時薬が入った紙の薬袋は薄っぺらである。
本と本の間に挟まって収まっていた。
「人を違えて探すと、失せ物はすぐ見つかるようです」
ナースはやさしい。
(誰か、勝手に動かしたに違いない)
イチョウは人のせいにした。

捜し物続きで迷えるイチョウ。
次の章ではとザワザワする話が飛び出します

→(小説)笈の花かご #22
7章 ザワザワ病院⑴ へ続く




(小説)笈の花かご #21 6章 失せ物捜しの日々⑵
をお読みいただきましてありがとうございました
2023年10月21日#1 連載開始
著:田嶋 静  Tajima Shizuka
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