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第10章 : 血縁の成せる業(1)祖母の叛逆


 早朝、朝モヤがかかる農園の中を、孫達が大粒の実を大事そうにお腹に抱えて運んでゆく。「恐竜の卵を運んでるように見えない?」やぶ蚊対策を万全にしたヴェロニカが、ネット越しに声を上げると、皆から笑いが起こった。柳井首相一行が台南市にある農場で一足早い休暇を取っていた。家族総出で完熟前のマンゴーを収穫していた。休暇と言いながらも、政治家になる以前は生業としていた仕事でもある。日頃、不在中の農場管理を委託している会社の担当達に加えて、長男、次男夫婦とプルシアンブルー社の山下智恵会長もロボットを引き連れて収穫作業に参加していた。この数日間で収穫を終えてしまおうという腹つもりでいた。
収穫を終えると農場管理と警備をAIロボットが担う格好となる。日本でテストを重ねて来た、仕上げのテストでもある。昨今ではロボットの生産拠点も増え、ロボット単体の製造コストは小型車並みに抑えられるようになった。とは言うものの、コストの大半はロボットではなく、コントローラ役となるAI自体にあるので、ロボット自体はただの箱 もしくはゴーレムのような存在でしかない。それでも雑草を取ったり、脇芽を紡いだり、田植えをする人間の指先に、9割近い動きが出来るようにまで進化した。更に量産化が進んで生産台数が倍になれば、軽自動車価格となる計算となる。
プルシアンブルー社の山下チームはロボットを市販せずに、レンタル的な形で提供する方向で事業計画を立てていた。

 昨日、台南市に設置される海水浄水施設建設地に柳井首相と山下会長が視察に向かった。既に台湾のゼネコンによって整地工事が始まっていた。土地本来の傾斜や構造を活かした設計がなされていて、好感が持てた。アジアでの施設はカク有るべきだと、2人で自画自賛し合っていた。海水を浄水化して パイプラインで川の上流域まで運び、浄水を川へ流す。川の僅かな傾斜角を利用して取水された水が川から離れた水路を伝って網の目のように広がり、田畑に供給されてゆく。下流域では工業用水としても使われてゆく。まるで自然の川がここに存在したかのように、水が使われる環境に変わる。アラブ諸国の砂漠の地の海水浄化システムでは、このように使えないだろう。南国でありながら、渇水しやすい台湾南部の改善に繋がれば、農業生産も改善され、工業も更に発展するだろう。台北、台中との環境の差も徐々に縮まればと願っていた。この用水改善策が当時は無かったので、コーヒー栽培、果物栽培という発想に行き着いたが、今後は田畑を持つのいいかもしれないと、柳井純子は近い将来を見据えていた。
日本と同じ高齢者向け都市の建設と農地の再開発により、この辺りの光景が田園都市のように転ずる。介護ロボットと共に暮らし、時折ロボットと田畑に出て、耕す。政治家を引退したら、この台南の地に戻ってこようと目前に拡がる光景を眺めながら、この地で起きた出来事の数々を回想して涙ぐんでいた。

沖合には養殖の生簀が拡がっている。この事業を太陽光発電が可能な生け簀に変更する計画がある。生け簀の向こうを大型船が航行し、太平洋へ出ようとしている。中国船か、ASEANなのかは目視するには距離が有る。台湾海峡南部は中国が防空網を度々侵入するエリアでもある。海上も含めて台湾南部で安心して事業に取り組むためにも、台湾を中国とは異なるものだと認めさせる必要がある。「中国に帰属する位なら、日本と組んだほうが何倍も効果的だ」台湾の人々が自発的に口にし、実際に日本との結びつきを強化していく過程で、その効果を理解して貰う。台湾の全てが自国のものだと頑ななまでに言い続けてきた国は、今や己の国の無力さを味わっている。その焦りが武力威嚇でもあったのだろうが、自衛隊との連携を示し、自衛隊機が中国国境と沿岸を飛び始めてから、意気消沈してしまった。いずれチベット領内でも飛ぶようになると、更なる圧力を感じるだろう。
中国を懲らしめるかのような、ありとあらゆる手段を日本が繰り出していた。今も尚、その追撃の手を緩めるつもりは微塵もなかった。
台湾との関連で言えば、台湾の建設会社がプルシアンブルー社の資本を受け入れて、香港・深センの再開発事業を始めようとしている。安価になった製鉄と、ロボット労働力の投入により中国建設会社のJVに入札で打ち勝った。
上海や厦門でも、老朽化したビル群をプルシアンブルー社の特許技術で耐震性のあるものに変えてゆく。この独自の技術が評価されて、建築素材のコストは上昇したが、台湾の製鉄会社の販売価格が下がったのと、建設ロボット投入によりエンドレスで作業を続けて、完成・引き渡しまでの時間も半分以下に縮めて、圧倒的なアドバンテージを提示できるまでなっていた。
総じて建設コストが下がるようになれば、中国の建設業には打撃となるだろう。
製鉄、造船、自動車産業、建設とあらゆる産業分野で中国企業のコスト高が、中国の輸出競争力低下へと導き始めている。この価格差が解消されない限り「世界の工場」という肩書をいずれ失うだろう。
中国と日本の関係が改善されたとしても、日本側から鉱物資源や素材の提供は当面行われる事はない。そもそも日本が中国に地下資源を提供する関係に至った事はないからだ。計画経済が基本となる中国は、即時の変更が出来ない。仮に日本が中国企業に資源を供給すれば、中国の生産体制が数だけは大規模なので、日本を始めとするアジア企業が割を食う格好となる。そんな愚は犯さない。このままの状態を維持し続ける政策を施すのは当然だ。
この特需とも言える状況下で、技術の優位性を更に進化させて強固になれば、アジア製造業に於ける脱中国化が 一層進んでいくだろう。
高級・高額品だけでなく、汎用品市場でもシェアを確保しながら、中国企業の台頭を抑え込んで、中国の内需を手に入れれば万々歳だ。

スーパーの進出で食料品での一定のシェアを奪い、ベトナム・ラオス工場の日本製品を浸透させてきた所へ、鉄鋼と建設、造船といった分野でも中国の輸出を削いでいる状況になってきた。
その上でシーレーンでも中国を封じ込める。太平洋戦争前のアメリカの対日戦略に似ていなくもない。プレッシャーを掛けても文句も手出しも出来ない状況に、中国政府を落とし込む事に成功したが、弱い政権の常として、こういうときだからこそ軍部が暴走しやすい。その誘発を抑え込むか、誤爆させてしまうのが、日本と欧米諸国との大きな違いだ。中国海軍の新型潜水艦と言えども、全ての動きを自衛隊は把握している。こちらの手の内にある以上、我が国は中国の自爆行為を見過ごしはしない・・

柳井首相は台湾海峡を見ながら、ほくそ笑んだ。

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次男の柳井治郎官房長官の思惑通りに、事は進んだ。日台の取材陣を農場に半日受け入れて、収穫時の映像や休憩時にゴザを敷いて外で食べる食事の模様を中国にも放映する。台湾に首相が来た本来の目的を伝えるのが狙いだった。孫達と一緒になって収穫している首相の姿、長男の嫁の作ったイタリアンと次男の嫁のおにぎり・稲荷寿司と日本的な惣菜の数々が、ゴザの上に並べられ、家族で囲んで食事をする光景がTVに流れる。収穫したてのマンゴーで姉嫁が作ったプリンを子供達が頬張っている・・だからこそ台湾に来ざるを得なかったのだと、中国政府を過度に刺激しない内容に纏めた。

日本との窓口は、北韓総督府と兼任とは言え、中国政府顧問の阪本が請負うルールになっている。モリは前任の国家顧問でもあり、今はチベット顧問の交渉相手でもある。故に、日本首相の柳井との間ではホットラインのような接点を設けていない。フロント役の阪本とモリとの関係もあるので、首相に関して悪口を言えないという背景もあるだろう。
その上で、日本と台湾が密に連絡を取りあっている今の状況は、日台間の防衛体制やシーレーン網を見れば容易に想像がつく筈だ。頻繁にネット会談をしなければ、これだけの体制を維持管理できないだろうと。首相が台湾に里帰り中と報じるのも、中国に対して配慮してますよ、と思わせるためだ。アジア人にとって、里帰りや収穫作業は習慣だ。中国も春節や国慶節での里帰りはお約束なので、行為自体に異を唱える者はいない。
この牧歌的とも言える光景を撮って中国に向けて報じる事で、中国人が上げた拳を下げてくれるかもしれない。日台の接近を中国の人々鑑見ると、台湾がいずれタイやビルマのように日本の同盟国となり、北朝鮮のように統治下に移行する日が来るかもしれないと思っているかもしれない。しかし、中国は許容しないだろうし、断固反対の姿勢を取り続けるだろう。但し、今の中国の政治経済が脆弱な状況が続くようなら、いずれは許容せざるを得なくなる。何よりも今は、ウイグル問題とチベット開放問題が重くのしかかっている。この問題を解決をしない事には、中国の経済的な重圧と軍部の増長は増すばかりとなるだろう・・

「お前がこの映像を公開しようと考えるとは思わなかったよ・・」太朗が治郎の肩を揉んだ。
「人様に見せてもいい絵だと思ったんだ。タヒチでそう思ったんだけど、リゾートの映像はさすがに好ましくないだろうと思ってね・・」

「あの謎の印や砂城事件以降は、穏やかになったみたいだから安心してるけどさ・・」

「そうなんだ。だから子供達の音声は念の為に消している。声さえなければごく普通の小学生にしか見えないよ・・」

その時、太朗と治郎は見落としていた。ハサウェイが語るのを、2人が聞いている。3人の子供の仕草には、ある特徴が潜んでいた。

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「オランダ・フェイエノールト、モリ兄弟の獲得に向けて画策か?兄弟のスポンサーでもある石油企業が、フェイエノールトへ資金融資に乗り出したとの情報も流れる。他にも英国やイタリアのクラブも獲得に名乗りを上げる」

そんなニュースを日本でも耳にするようになる。当事者である兄弟には知る術もないのだが、実際は、石油メジャーのユダヤ人閥の裏にいるモサドと、イギリスMI6等との駆け引きだった。
モリの子供達をオランダ、イギリスのチームへ移籍させて、日本とのパイプを太くしたい。サッカー選手ならばカタールリーグなんかに居るよりもにヨーロッパだと考えるだろう と、引き抜く側の「勝手な思い込み」も多分にあった。しかし兄弟は中東へ移籍したばかりで、副業なのか本業なのか分からないが住宅販売事業が堅調なので、離れるつもりはなかった。
何とか日本との接点を作りたいモサドは、他の兄弟にも手を出してゆく。
日本の火垂とアルゼンチン、コロンビア選手の元にも、オランダのチームからオファーが届いていた。近ごろスタンドに外人スカウト達が居るとクラブ側から聞いていた。圭吾を買う為には莫大な移籍金が必要になるが、火垂を始めとする選手には、さしてかからない。また、オランダやベルギーリーグは外国人選手枠が無いので、何人でも試合に出場できる。リーグで1−4位であればチャンピオンズリーグへ参加でき、欧州の強豪クラブと対戦できる。フェイエノールトであれば、出場は確実だろう。カタールリーグへ移籍した歩と海斗の切り開いた道とは言え、相性のいい南米選手と移籍できるのは、好ましいと受け止めていた。7月に圭吾がフランスへ戻るのに合わせて、オランダ入りするのもいいかもしれないと火垂は考えていた。


子供達の移籍に関する話題に、母親たちも一喜一憂する。裏の目的には政治家の子息だから、日本とパイプを太くしたいから、といった思惑があるとはこれっぽっちも思わなかった。ただ、息子達にはサッカーの才能があるのだろう、と前向きに勘違いしていた。
単なるサッカー小僧ではなく、選手でありながらも、将来に対する考えもしっかりと持っている。選手としての賞味期限がいつまでも続かないと理解しているのだろう。怪我をすればそれで終わると、歩のケースを目の当たりに見て、理解しているのだろう・・そんな風に全てを良い方向に捉えていた。
まさかサッカー熱が高じて、終の事業として考えているとは夢にも思わなかっただろうが。
歩は普通の選手とは経歴からして、異色の存在だった。通常ならば、海外からのオファーが来れば即座に動くのが普通なのかもしれないが、拙速に動かないのも、歩の意見を兄弟が注視し、考えを参考にする傾向があった。僅か5年とは言え、外交官だった兄弟の経験は貴重だった。そもそも、サッカー選手が住宅販売を手掛けるという発想自体からしてズレている。日本でもチャンスはある、とワザワザ分析までして兄弟をけしかけるように誘う。金額規模こそ、中東とは桁が異なるにしろ、静岡県内の工務店が毎週のように住宅建設の注文を取ってくるようになると、歩の見立ては間違いなかったと兄弟内の評価が更に高まる。
その上、歩のプランを他の兄弟がアレンジしながら、ビジネスが進んでいくので、兄弟を見ている周囲は驚いてしまう。「答えは常に現場にある!」誰が言い出したのか分からないが、兄弟の中で刑事モノのドラマのような標語が浸透していた。オフの日に工務店回りを手分けしてしているというのだから、笑ってしまう。実は、その標語はモリの実母の口癖でもあった・・


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古い国道沿いのビルに車が到着した。この建物の1階の商店跡を事務所らしく整えた。電話番を請け負ってくれた祖母を事務所に案内する。ドアを開けながら、圭吾が申し訳なさそうに言う。

「こんな場所しか空いてなくてゴメンね。いい賃貸物件が出てきたら直ぐに出るから」

「何言ってるの。これで十分よ、電話だけなんだから・・」祖母が座って、机上のファイルを手にとって眺めだした。

「国道沿いだから、タクシーも直ぐに掴まるよ。これを渡しておくね」圭吾が財布から、カード取り出して、机に置いた。
「圭吾、そこにおかけなさい」視線はファイルに注がれていた。圭吾はパイプ椅子を開いて祖母と向き合うように座る。

「このリストの工務店はどこで知ったの?」
「あー、横の繋がりで紹介して貰っていったんだ」
「それにしては数が多いわね。週に1日だけなんでしょう、外回り出来るのって」
「どうやら、僕ら静岡じゃ有名人みたいでさ。話が早いんだ・・」
「そうなのね・・」祖母はまたリストを眺めた。

「そのカードも要らない。迎えに来なくてもいいよ。アパートまで歩いて帰るから・・」
「いいよ、持ってて。天気の良い日ばかりじゃないんだから・・」

そんなやり取りをして、圭吾は事務所を後にして、クラブハウスへ向かった。練習を終えて事務所に寄ってみると、灯りがついたままだった。火垂と圭吾で苦笑いしながら、初日から無理し過ぎだと ドアを開けると、祖母が何やら話している。もう、20時近いのだが・・
2人で電話中の祖母に近づいていく。随分慣れた話し方だなと思ったら、兄がノートを慌てて手に取った。祖母はくるっと背中を向けて、会話に集中し始めた。兄からノートを押し付けられて圭吾は目を見張った。
見たことがある名前の会社がそこに並んでいた。大手ゼネコンの静岡支社だ。電話を終えた、祖母は机の引き出しから、名刺の束を取り出して、机の上にドンと置いて勝ち誇ったような顔をしている。

「何をしてくれちゃったんですか・・」

圭吾が言うと、火垂が名刺の束を手にとって笑いだした。名刺の肩書の大半は「静岡支店長」だった。

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部屋へ帰る前に、国道沿いの店で食事をしながら2人は祖母の説明に聞き入っていた。あまりに様式外れの展開に呆気にとられていた。プランを立てたら、官房長官に連絡を取って、了解を貰ったと平然と言う。淡々とプランを説明するその姿は、日頃の祖母とは全く異なるものだった。話の規模が大き過ぎて、2人は付いていけなかった。「官房長官の了解は貰ったわよ」って、なんなんだ・・

翌日も、祖母は活発に動き始めた。ゼネコンから紹介を受けた静岡県内の1次請けサブコン各社に、連絡を取る。既にゼネコンから計画は伝わっていた。そのサブコン各社の社長と専務と次々と面談していった。面談したサブコンの中から、静岡県東部と西部の2社を選ぶと、買収を持ちかけて、理詰めで迫められた・・らしい。祖母はサブコン2社の企業情報を調査会社から取り寄せていた。そこでプランを修正すると2次請けとなる各工務店、水回り業者、溶接工、内装工事業者、電気工事業等々と面談を重ねていった。

やがて、静岡市と三島市にある従業員50名ほどの建設会社を祖母が自費で買収した。この2つの建設会社は住宅建設部門を持っていて、PB Homeの販売取引店でもある。経営者が高齢で後継者が居ないと、お茶を飲みながら愚痴を聞いたのも決めてとなったと胸を張った。
社名をRS建設に変えると、火垂の妻の母で、北前・社会党で12年間モリ・カナモリ家の秘書として携わってきた婦人を社長に据え、娘で火垂の妻を専務に就任させた。その相談も段取りも全て完了していた。一体幾ら掛かったのか問い合わせても、ニコニコ笑っているだけで教えてくれない・・

祖母が打ち出したプランは、日本政府・経産省の穴埋め策で「差異化」を掲げたものだった。セブ・ンイレブンやファストフード店の蕎麦屋のように、深夜やピーク時にロボットを投入して、ビルやマンション建設の夜間の作業を担ってもらう。住宅建設であっても夜間に作業をして、完成までの時間を短縮して 建設主への引き渡しを早めようというものだった。通常の住宅費に「お急ぎプラン」という500万円のオプション費用を追加して、17時−9時まではロボットが作業をする。ロボットには赤外線カメラが備わっているので、暗闇でも作業内容を録画しながら作業を続ける。このオプションを付加しても、元の住宅価格が2000万以下なので、まだ割安感を訴求出来た。オプションとするのも面倒なので標準メニューになってゆく。

早速、静岡県内の建設需要、住宅需要で24時間建設の提案を始めていった。ビルのデザイン設計はAIが行うが、監修役として平壌か東京のどちらかに居る義姉のヴェロニカが、建設地周辺の映像を見てデザインの最終的な調整を行う。外壁はセラミックソーラーで、屋上には蓄電器システムと最新のソーラーパネルが備えられる。電力費用の掛からない、売電収益が可能なビルやマンションが静岡県内に建ってゆくことだろう。

AIロボットの精度を高める為に、プルシアンブルー社のロボット研究者が実際の建築現場に入って、下請け業者の作業の模様を映像に取し始めた。その映像と作業工程手順を、AIにインプットしてゆく。タイやビルマのゼネコンとの建設や作業の手順の違いが微妙に有るので「国内・静岡モデル」としてAIを作リ上げていった。
静岡県内のビル建設需要を引き込んでしまったのは明らかだった。ゼネコン大手の物件の大半が流れてくるのだから、必然とも言える。すると祖母は案件を捌くために1次請けのサブコンとの提携を申し入れて、協業体制を構築していった。着工に取り掛かる案件が増えてゆく。下請け会社は様々なゼネコンの配下に連なっているものだ。特定の会社の傘下になると、仕事の口が不安定なものになる。複数の現場を掛け持つことで、仕事と収入を確保するのが通例だった。そんな下請け会社が、RS建設や提携したサブコンの元へ次々と集まってきた。

それぞれの建設現場毎に人間の現場監督者と副監督役のロボットが配置される。人間の現場監督者は複数の現場を掛け持ち状態で転々と移動する。緊急時には副監督ロボットが24時間体制で対応する。夜間は副監督者とロボット達だけで粛々と作業が行われる。RS建設の建設スタイルが確立された。現場と工程によっては全てロボットで賄う事も可能で、臨機応変に対応出来るのがウリとなる。作業停滞時間が無く、効率よく作業が進行するのもAIによる工程管理がしっかり整っているからだ。

経産省では、暫定措置として猶予期間を置いて業種転換を計るつもりでいたのだが、モリの子供達が静岡で始めた事業に、省内でも評判になった。この「コンビニ深夜労働方式」ならば、確かに下請け業者も延命出来ると納得していた。大都市圏のゼネコンには影響は出ないだろうが、地方はRS建設と提携すれば国内中小クラスの建設需要は満たせるのではないかと、地方の建設業従事者達も期待を寄せ始めていた。

建設規模が違うと言えども、重機やロボットが用意できれば RS建設単独でも受注出来る日がやってくる・・
大手ゼネコン各社も、建設業以外に生き残り策を講じ始めているとは言え、RS建設とJVが組めば建築革命が起きると、特許内容を見ながら考えていた。RS建設に食らいついていこうと各社は判断した。

分かりやすかったのは、エスパルスのスポンサー企業に、ゼネコン各社が手を上げ始めた。

「これってさ、賄賂みたいなもんだよね・・」

「プルシアンブルー社のタイとビルマの子会社があるから、勝手なことは出来ないけど・・ゼネコンの下請け企業を生かす事を考えると、今のフォーメーションの方が時間稼ぎができる分、良いのは間違いがない。ただ、いつまでも人に頼ってはいられなくなるだろう。今の就業時間だって、ロボットの方が断然長いんだからね・・」

「労働市場としてはロボットに集約していくだろうから、斜陽産業だよね。それでも、従来の人ありきの建築費用と比べれば、コストは下がる。だから需要がある・・。ヴェロニカ姉さんのセンスでもって、共通した統一感も出せる・・」

「しかし、ばあちゃんの発想には驚いた。まさかビル建設するなんて、思ってもみなかったよ。でも、これからビジネスチャンスはまだまだあるはずだ。大手のゼネコンとJVを組んで大型案件をこなす度に、様々な建造物の建設ノウハウが溜まっていくだろう。それこそ、文化財を手掛けているようなゼネコンと提携して、AIにデータ登録於けば将来の為にもいいだろう。遺跡や古い建造物好きな父さんも喜ぶだろうさ・・優先すべきは現代の建築ではなくて、歴史的建造物かもしれない・・」

火垂はそう言いながら「過去の建造物」とノートに書いて、丸を付けた。

(つづく)


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