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(10) 期日限定、自作自演劇場の短期公演


   隕石落下により滑走路が破壊され、航空機の離発着が出来ずに閉鎖されていた フィジーとサモアの両空港が、2日後には通常通り 稼働し始めた。 両島の沖合に中南米軍のフリゲート艦がそれぞれ配備され、隕石等の落下物への暫定対策が整った。「安全になりました」とお伝えしても、ニューカレドニアと同じようになってしまう。被害を懸念する配送業者が物資の搬送を断り、仕方なく、中南米軍が物資の配送を担うことになる。ここまで来ると配送先の1つや2つ、増えたところで大勢に影響は生じない。
ソロモン諸島からも、迎撃用の艦の配備と物資輸送の打診を頂き、数日後に物資配送を始める。南太平洋諸島国家4カ国に新たに提供してゆくと、ニューカレドニア同様に「大幅に改善した」と各国からお褒めの言葉を頂くと、不思議なもので、デモや反対運動は沈静化してゆく。「普通の生活を追求する」この目標を掲げて政治家に転じてから20年、南太平洋でも効果的だったかと、感無量になっている人物が、どこぞの国に居たらしい。
物価が以前よりも安く、その上、質が伴えば尚良・・最初の1歩は何とか、うまく行ったようだ。

ニューカレドニアの統治国であるフランスが、中南米軍の組織的な対応を垣間見て地団駄を踏んだように、フィジー・サモアで生じた変化をイギリスが目の当たりにしていた。ソロモン諸島では、安全保障を担うはずの中国軍が、立場自体を失ってゆく。当事者であり統治者でもある3カ国に、統治能力は無く、連邦の親玉の資格も無く、満足出来る安保体制などそもそも無かったのだと認知されてしまい、各国メディアが手厳しく報じる。「中南米軍に依存せざるを得ない現状を、そこかしこで散見できる」と。

ネーション紙の「核の傘を無力化する中南米軍」のスクープ後だからなのか、隕石の落下という非常に確率の低い自然現象に遭遇したからなのか、南太平洋の国々に人々の興味関心が集まっていた。世界では中南米軍の安全保障体制の枠内に入っている国々が大半を占めている。そんな時代に、「未だに前世紀の植民地支配の名残りが残ってる国があるのか!」と今更ながらに気づいたようだ。「南太平洋の国々が英国連邦から脱したり、フランスから独立したり、中国の安保協力を撤廃すればいい。ザッツオール!」と、既に解が見つかっているかのような論調を多く見かけた。

小さな諸島国家で構成されているエリアなので、世界もあまり注目していなかったのかもしれない。未だに自立した国家になれなかったのも、国際社会の従来の国家の枠組みとは異なり、海洋社会の文化を有している地域だから仕方がなかったのだと、統治している国は正論のように、肯定してみせた。「いやいや 違うだろう。そもそも、南太平洋で今まで何をしていたんだ? 前世紀の植民地支配と、一体何が?どこか違う箇所があるのか?」と返り血のようなツッコミを受けて大破していた。「普通の生活」をせっせとお届けしている中南米軍の姿が、目前で展開しているというのが、一番痛かった。

「つまり、能力が無く、英国連邦という制度そのものが形骸化しており、中国に至っては、他国をかまっている余裕など無いだろう」と結論づけられてしまい。英仏中の3ヶ国は、冷ややかな視線を浴びつつ、審判の日までボーッと待つしか、なくなっていた。

アメリカ領サモア、グアム信託統治領、ハワイ州等のアメリカの統治している島にも少なからず影響が及び初めてゆく。              2039年のグアムやハワイには、90年代の日本のバブル期を超える数の日本人観光客が大挙して訪れる、観光地となっていた。日本経済が空前の好景気に湧いている中で、バブル経済とならぬように対策が講じられている中で、投資が海外資産に向かっていた。グアム、ハワイ、東南アジアのリゾート等の不動産に投資が集中し、グアム、ハワイは日本人だらけになっていた。タヒチやボラボラ島等のフランス領ポリネシア、ニュージーランドに近いクック諸島等の島は南米に近いので、土地所有までは至らずとも、南米の富裕層の一大観光地となっていた。   

有名観光地の島々の人々はフィジー、サモア、ニューカレドニア等の動きに注目してしまう。中南米軍が関与し始めると、日本連合の投資先として注目されていった。「もう、ハワイやグアムは飽きた。これからは別の諸島国家だ」と。
日本の季節が11月だった、というのもプラスに作用してゆく。これから寒い時期を迎える。美しい南国の海と空は、懐の暖かい日本人の所有欲を掻き立ててゆく。
日本国内の金融機関、不動産会社は、簡単に地上げできなくなった日本を脱して、海外の不動産開発に乗り出していた。日本の銀行や投資ファンドが不動産会社に幾らでも資金を提供し、新リゾート地の不動産を買いまくっていた。物件の買い手は日本人に限らなかった。寒い冬は懲り懲りな 北朝鮮、旧満州の中産階級以上の人々も触手を伸ばしてゆく。何しろ日本の冬以上に厳しい寒さの土地だ。別宅の1つや2つ、南の島にあってもいいだろうと、富裕層が物件を次々と手に入れていた。

バヌアツ共和国の海底資源を調査していたベネズエラのプレアデス社が、水深1500mの海溝部に、広範囲に渡る水晶とボーキサイトの層を見つけたと、バヌアツ政府に報告する。マントル層に潜り込んでゆく断層部で強い圧力が加わり、水晶が作られたのではないかと。中南米・海軍の得た様々なデータを解析した地質学者達が、最もそうなレポートを参考資料として提示した。

バヌアツ政府は 掘削作業をプレアデス社に委託して、海底掘削作業の契約を締結する。水晶の実態は、実は掘り出した訳ではなく、人工的に工場で製造した「天然物の水晶」を、海底資源として市場へ供給してゆく。ボーキサイトは火星で取れたものをフィリピンへ運び入れ、アルミに加工してゆく。 しかし、資源はバヌアツ沖の海底で得たものだとして、資源購入費用として、バヌアツに定期的に入金がされてゆく。

水晶もボーキサイトも、バヌアツの資源売上の1割で掘削を請負うという破格の条件で中南米軍が請け負ったが、契約の詳細までは表沙汰にはならなかった。そもそも、深海まで調査出来るのは、深海探査船を持つ、限られた国だけだ。
「海洋資源が見つかった」と喜ぶ、バヌアツの人々の顔がその日のニュースとなった。

同じ頃、新金貨の発行された。ベネズエラが火星で採掘した金を、日本の造幣局が金貨として鋳造し、「BLOSSOM金貨」という名称で桜の花びらでデザインされ、販売を始めた。円とベネズエラ・ペソ、北朝鮮ウォンの3通貨分を鋳造して、各国政府が各銀行へ販売委託してゆく。
ハワイなどの観光地にある、パンパシフィックホテル内で営業しているベネズエラとユダヤ資本のRedStar Bank系列会社となるジュエリー店舗で、ブラッサム金貨の販売も始めていた。
インドとパキスタンの北部、カシミール地方で採掘される「カシミールサファイア」コンゴとベネズエラ、北朝鮮で採掘される「天然ダイヤモンド」は増産体制が引かれ、産地を抱える国の収益元となってゆく。
産地のインドとパキスタン、そしてジュエリー加工職人を抱えるロシアと、原石を仕入れて販売するユダヤ商人が日本連合の人々が購入してゆく貴金属や宝石で儲けてゆく。
何故か、最近核廃棄を宣言した国々ばかりなのだが、誰もその「組み合わせ」を追求するどころか、リゾート訪問の記念に、宝石や金貨を購入していった。

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モリ・ホタル官房長官・・中身は金森鮎元首相に、ここまで何も伝えられていなかった。よって、どんなトリックが施されたのかも知らずに、核廃棄の検討が数か国で始まっていた状況を、ただただ 歓迎していた。金森が知っていたのは、隕石迎撃が可能な防空システムを実現し、同時に、システムが核の傘を無力化してしまう・・という話だった。
「隕石落下を迎撃する事など出来ない」という前提条件が取り払われ、核保有イコール盤石な安保体制確立という神話が破綻した。防空システム・ヤマタノオロチが、新たな歴史を作るやもしれないと世間では言われているとか、いないとか・・。

今 現在は官房長官なのだが、その元首相の部屋に、前首相と現首相が訪れていた。日本では政権交代後で3代続けて女性首相となった。4代目首相も女性で、表向きは新任なのだが、中身は元首相の復職という線が極めて濃厚な状況となっている。
体制としても日本連合のポジションが国際社会で最上位なものになりつつある。平和憲法を堅持する日本の立場が更に際立つ時代となるかもしれない。もっとも、ベネズエラという強大な力と 人口増加中の北朝鮮・旧満州の2カ国と共にあるのが 大前提となるのだが。

「何度、驚かされたのかしら、なんか麻痺してきちゃった・・」世間ではモリ・ホタル官房長官である金森鮎が、官邸の自室の椅子に深く沈み込んでいる。柳井純子幹事長がソファに座って、ハンカチを目に当てて泣き続けている。その隣で阪本首相は腕を組み、目を閉じて、何やら思索を続けていた。

「何故、歴史認識問題をこのタイミングでやるんだろうって、実ははっきりと理解していた訳ではなかったんです。次第にネオ産業革命だ、新大東亜共栄圏だって周囲が騒ぎ出したから、ようやく理解出来ました・・。実は彼はもっと先、南太平洋を土俵にして、この世界を変革しようと企んでいた。 未だに植民地として残っている国や途上国の解放を目指していた・・」  柳井前首相がハンカチで目を押さえたまま、途切れ途切れに話す。 

インドネシアでは、12世紀の「ジョヨボヨ王の予言」が、2039年に入ると、90年代の日本バブルの盛り上がり時のように扱われていた。

「わが王国に混乱が生じるが、どこからか現れる “白い水牛” の人に 長期に支配されるであろう。彼らは魔法の杖を持ち、離れた距離から人を殺すことができる。北の方から “黄色い” 人が攻めてきて、白い人を追い出し代わって支配するが、それはトウモロコシ一回限りの短い期間である。 その後、男は女のように、女は男のようになり、世は麻のように乱れ(犯罪や不正が横行し、道徳は退廃し、ジャワ語の敬語法も乱れる)、加えて、飢饉や伝染病が蔓延し、転変地異も起こる。やがて白馬にまたがる正義の神(ラトゥ・ア
ディル)が登場し、永遠の平和と幸福が約束される・・」

「黄色い人」を植民地支配していたオランダから一時的に開放した日本人に準えて、ジョヨボヨ王の予言が1940年代に始めて脚光を浴びた。後年になり、インドネシアでは衛生面が仇となり、コロナに苦しめられた経緯がある。そして、白馬をホワイトベース・ノア型輸送船に喩えて、「彼」が正義の神(ラトゥ・アディル)なのではないかと、インドネシアでは囁かれていた。
    
「フランスの軍艦が隕石で破壊されたあとで、ベネズエラの仕業だと、蛍とあゆみで追求しようとしたんですって。資源投下作業で、人為的な形状が見つかったとか言ってたけど、何かの勘違いだったんでしょう。のらりくらりとカワされて、それでもしつこく食い下がったら、「あり得ない!」って、最後は怒り出したんですって」

「鮎先生、黙っていて申し訳ありませんでした。実は・・ベネズエラの仕業なんです・・」目を閉じていた阪本首相が呼応したかのように話しだした。

「ええっ?冗談でしょう・・」
「戦艦を沈めようが、滑走路を破壊しようが、誰にも解明できません・・ベネズエラはこの隕石落下を駆使して、世界を変えようとしてるんです」 
  
「ちょっと待って。あなた、変よ、ついこないだまで、奇跡が重なったって言ってたじゃないの。急に何なのよ、まるで陰謀論者みたいな言い方をして」 「黙っていてごめんなさい。前々から相談されていたの・・」   

「阪本さん、無理に話さなくてもいいのよ・・」鮎が真顔になる。阪本が微笑んで話し始める・・そうだった。鉱物学の権威じゃないか阪本は・・すっかり忘れていた。

「地球上の石ころや岩石は種類も、含有している物質も様々です。隕石も同じです。中に気体を含んでいて、大気圏に突入して摩擦熱で空気が膨張して粉々に壊れてしまうかもしれない。砂岩であれば尚更です。だから、隕石を的に当てるなんて芸当は、本来はありえないんです。10m相当の隕石を落とせば、恐竜絶滅じゃないけど、それこそ天変地異を引き起こし兼ねない。そこでベネズエラは、人工宝石を作りはじめました。天然ダイヤだろうが、カシミールサファイアだろうが模倣製造ができます。勿論、バヌアツ共和国向けの水晶もね・・。                        ユダヤ人もインド人もパキスタン人も纏めて騙して、工場で原石を作ってバラ撒き始めました。更にベネズエラはシャトルが降下する際に纏う、特殊樹脂も開発してしまいます。彼が何故、人口宝石を手掛けて、耐熱性の高い樹脂を開発したのか・・彼が色々手掛けきた最大の目的は、隕石を兵器として使う為だった・・」        

柳井純子が口を開き、金森鮎が大きく目を見開いた。

「まさか、タングステンの塊でも落としたの?」 鮎が聞く。

「大気圏落下の耐熱性だけで見れば、おっしゃるようにタングステンが適任です。大気圏突入ポッドも純度の高いタングステンで作られています。後で再利用するのが彼の思惑でもありますし・・、でも、突入ポッドのサイズと形状は、落下速度を下げる接地面を求めたのでポッド自体は破損しないのですが、弾頭サイズになるとどうなるか分かりません・・

特殊樹脂を纏いますので、耐熱性は問われなくなります。武器として利用するなら、最も重視されるのは、硬度になります、鉱物の硬さですね。マッハ30で落下してくる隕石に求められるのは戦艦を一撃で粉砕する破壊力を生み出す、堅い硬度が必要になります」

「中国艦の甲板で見つかったのは、隕石だったじゃない」柳井純子が言う。

「それはそれでいいの。程々に船を壊すのが目的だもの、数多く着弾すればいい・・。砲丸投げに使う位の大きさの隕石を集めて、樹脂で包んで放り投げた。樹脂が溶けてから燃焼するものもあれば、甲板にシャワーのように降り注ぐものもあっただけのこと」

「じゃあ、戦艦を沈没させて、滑走路を破壊したのは隕石ではないって事?何を落としたのよ」

「地球上で最も硬度があるのが、ハイパーダイヤモンド。通常のダイヤの2倍の硬度がある。モビルスーツの斧の刃の部分でも使っているわね。サッカーボール状の大きさの弾頭を作って、樹脂を纏って宇宙から投下する。衛星画像に写らない場所から投下しているのよ、だって 宇宙は無重力で、空気抵抗なんて無いんだから、真っ直ぐに落ちて、グングン加速してゆくの。
大気圏であっても、燃焼もせずに真っ直ぐに目標物に向かって落ちてゆく」阪本の目が心なしか、飛んでいる・・

「ミサイルが迎撃したのはね、サッカーボールサイズの普通の人工ダイヤ。それをバーンと破壊した。核熱エンジンは落下物をロックオンすると、自動的にブースターのように離脱して、今回は海面に落ちていった・・。そのままぶつかったら、空中で核爆発が起きちゃうからね。その核熱エンジンは、海洋モビルスーツが海中から回収済み・・ね、細かい仕様まで徹底するのよ、彼は・・」 阪本が涙を拭って、笑う。

金森と柳井が顔を見合わせる。2人共、青ざめたような顔色をしていた。

「阪本さん、じゃあG20での越山さんとの会話は、あれは一体・・」

「はい。櫻田が作った脚本を、2人で寸劇にして、みせたんです。隕石の存在を世間に気付かせるのが目的でした。隕石が武器として成立するのか、議論が始まりましたよね。議論の行き着く先を見極めて、プランを幾つか用意していたんです。
今回は「武器として成立しない」という判断が大勢を占めました。その結果を受けて実行されたのが、あの、自作自演劇場なんです」

阪本が、また泣き出した柳井純子を、隣からから抱きしめる。

「モビルスーツを開発した経緯を、彼に以前聞いたのよ。最初はね、兵器じゃなくて、スペースデブリとか、海中投棄されたゴミや沈船の回収をイメージしてたんだって。兵器としては、役に立たないんじゃないかって、最初は思ってたみたい」

「はぁ?・・」 柳井純子が泣き顔のまま、阪本を見上げた。

「ところがね、ロボットがまるでスーツを身に纏ったように俊敏に動けるのが分かって、兵器としても使えるって 思い直したんだって」

「まさにリアル赤い彗星・・いや、サイコ・ザクの世界に近いからね・・」

「そう、人の操縦なんかじゃ、サンボル版ガンダムをやっつけられない。ジュリアが操縦したら、みんなニュータイプになっちゃうかもよ・・」阪本が柳井を更に強く抱きしめる。

2人が何を言ってるのか、鮎にはサッパリ分からない。ただ、仲の良さを羨ましく思いながらも、初めての女には要らん事まで話しているのは何故?と、鮎は憤慨していた。

ーーー

海南島基地に帰ってきた艦船の惨状は燦々たるものだった。甲板は捲り上がり、機銃や砲台はひしゃげて何だか分からない。3艦に降り注いだ隕石の数は750を超えていた。しかし、船内まで到達した隕石はゼロだった。事故検証の調査員達は、首を傾げる。大きな隕石は宇宙空間で仕留めているのは映像でも見受けられたが、細かな隕石は小さすぎるのか、映っていなかったからだ。
それでも大気圏内に突入するまでは、それなりの大きさだった筈なのだが、それが全く映っていない。しかし、解明しようがないのも事実だし、今回のようなケース自体が初めてなので、捉えようが無かった。

穴の大きさから推定して、隕石だったもののサイズだったり、重量を考えるくらいが関の山だろうか。
中国人民解放軍・海軍の技師長は、個人の感覚的なものとして、「ベネズエラは隕石を自在に操れる」と半ば確信していた。戦艦を沈め、滑走路を粉砕し、こうして威嚇までしてみせる・・ただ落とすだけなのに、実に効果的な攻撃だと感心してしまう。
狙われたのはフランス、イギリス、中国の3カ国だ。次に狙われるのは何処だ?と考えて、背中に悪寒が走った。原発の周辺に落下させて、肝を冷やす思いをさせるか、それとも原子力空母の甲板を、今回のように蜂の巣状態にしてしまうか・・
いや、ロケット発射台ではないかと想像する。人工衛星を打ち上げられないようにするのだ・・それだけで宇宙ではやりたい放題となる・・

しかし、あくまでも軍人的な発想で、しかも、他国ならではの発想でしかなかった。そもそも技師長はモリという人物に会った事もなく、人物像を理解していない。技師長の考えのように今後も隕石が落ちるとして、その度にモノを破壊させていたら、「おかしい、何かヘンだ」と流石に警戒されるだろう。今は「隕石落下は稀に起きる現象」として、暫くの間 そっとしておく。
「今」は自然現象ではなく、「先端技術」の数々を見せつけて、圧倒する方がおそらく効果的なハズだ・・

ーーー

SouthAmerican Airline が宇宙圏を飛ぶシャトルを、羽田ーカラカス間で毎日5往復10便を就航させると、8人乗りのシャトルなので全便満席状態となる。直ぐに2機を追加して、30便とし、太平洋上を輸送機のThunderbird2共々、行き来するようになる。

ベネズエラと日本間を僅か1時間で移動する。宇宙旅行気分で地球を眺めながら機内食を食べていると、もう着陸態勢に入っている。それで価格が50万円しない。通常の航空機料金の3倍でいいというのだから。8人乗りだから、片道で400万円の収益でしかないのだが、儲かるのか?というご指摘が数多く寄せられると、同エアラインCEOでベネズエラ交通大臣のミランダ・コスグローヴが「今後、東京岐点のローマ便、マドリード便、ブエノスアイレス便、リオデジャネイロ便を就航しますので、そうなれば、少しは利益が出るので・・多分、大丈夫です」と書き込んで、喝采を得ていた。

搭乗した乗客が機内で撮影した画像がSNSなどでアップされてゆく。時折、サンダーバードや戦闘機ゼロが飛び、午後の便だとサブフライトシステムに乗ったモビルスーツの訓練風景に遭遇することもある。何故か、午後の便の予約ばかりが先々まで埋まっていくようになったので、午前中も訓練するように調整を考えるようになる。

プルシアンブルー社の樹里 副会長は、モリに相談する「ノア型輸送船を高度20万メートルまで降下させて、そこで訓練を行って欲しい」と。ツアー客の乗ったシャトルを暫く停船して、「モビルスーツが飛び回る光景を見学させたい」と言ってきた。
新たに戦艦として建造した2艦が加わり、8隻体制になったので、月面上空での訓練場所を変更することにする。無重力環境なので、どこで訓練しても同じだろうと。

ルソン島とミンダナオ島を繋ぐ、高速ホバークラフト船が各島を経由しながら、2航路10便が就航となった。マニラーダバオ、スービックーサンボアンガの両路線は片道で6000円程度と安く設定される。機内食と同じ食事も提供されると「安過ぎる!」とフェリー会社からクレームがやって来た。100人乗りの浮遊船なので、こちらも「利益は出ているのか?」と各方面の皆様からご指摘を受け、「マニラから、ハノイ、ホーチミン、香港、上海と繋ぐ便を来年就航します。ライバルは航空会社です。どうぞ、ご期待下さい」とプレアデス運輸の志木社長がHPに書き込んだ。

ホバークラフトは核熱エンジンを採用しているので、それぞれの船に水陸両用モビルスーツがサブフライトシステムに立ち乗りした状態で護衛についた。流石に武器は見えるところに持っていないが、それでもサブフライトシステムに備えられた厳つい砲門は兵器であることを知らせるものだった。子供達、ロボットマニア達には人気となっていた。295km-310kmで海水面上を飛んでいるので、硝子戸は新幹線の様に開閉しない。モビルスーツとフライトシステムを操縦している人型ロボット、ジュリアは、ホバークラフトの左右を均等に飛翔して、乗客から見えるように飛行するサービスを提供する。「アトラスー!」「かっけー!」と子供達の声が室内に広がり、あまり静かな船内とはならなかった。

杜あゆみがベネズエラで創業して、スペインかイタリア企業のように思われている自転車・ミニバイクメーカーのネブラスカ社が、新型のスクーターとミニバイクを発表した。 製造はフィリピン・スービック工場だけなのだが、アンモニアを燃料とするエンジンで駆動する、世界初の乗り物となった。排気量は45CCで馬力が足りない為に、ハイブリットモーターとのツイン動力で、原動機付自転車並の速度が得られる。            アンモニアを給油出来るスタンドは、フィリピンのルソン島の一部に限られるので、世界的な発表、発売ではなかったのだが「アンモニアエンジン」というだけで世界中で騒ぎとなる。リッターあたり30円と安く、ハイブリットモーターの補助もあって、実燃費は15km/Lとなる。10L満タンにすれば130キロは走行すると、バイク雑誌の記事になっていた。

欧州で人気を博しているベ・パっぽいヴェロニカ・デザインのまま、エンジンだけ組み替えての販売となったのも、大きく取り上げられたのかもしれない。

ネブラスカ社は、この原付ハイブリッドエンジンを、フィリピン漁民が使っているトリガー船のエンジンと無償で交換すると発表した。丸木舟の左右に、船体転倒防止のバランサーが付いている小舟に備えられたエンジンは、大抵古いバイクや農機のエンジンを強引に据え付けている。ガソリンや軽油よりも安い燃料で、しかも燃焼時にCO2を排出しない、どうだろうかと、各漁協に案内を出した。
各漁協のガソリンスタンドにアンモニア給油機も備えると言って、ミニバイクを1台各漁協へ進呈する太っ腹さだった。殆どがモーター部の性能なのだが、これがウケた。漁協の建屋と漁港の往復や、近所のこま使いに利用され、馬力と燃費に魅了されたようだ。

漁港から連絡を受けると、プレアデス社の社員とロボット2体が現場へ向かう。新エンジン設置が可能なトリガー船やボートなのか、実船を見て判断する。欲しい新エンジンの数量を発注して、届き次第、設置作業を現地で始める。
これで商売になるのか?という話なのだが、環境アンモニアが売れれば、それで良かった。

そもそもプレアデス社が製造するアンモニアは火星で得たサマリウムを触媒とする水分解方式と、海水から二酸化炭素を抜き取り、二酸化炭素をアンモニアへ加工する2つの製造方法を利用するのだが、原油や石炭、ガス同様に、設備投資してプラントが完成すれば、原価はほとんど掛からない。
アンモニアは劇薬だが、水素ほど危険ではない。水素販売がガスステーションで始まってから、車両への供給作業はロボットが行っている。アンモニアもこの流れでロボットが対応する形を取る。プレアデスエナジー社のアンモニア供給の最大顧客は、火力発電所だが、民生活用として、ガソリンや軽油に置き換わるエンジン用燃料としての道を追求してゆく。

スービック工業団地で製造された環境アンモニアが、差し当たりルソン島の火力発電所へ納品されていった。フィリピン政府が回収している炭素税のストック費用から、環境対策費として、アンモニア1Lあたり、5円を頂戴する。それだけで多分・・十分ではなかろうか・・

(つづく)

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