見出し画像

(7) 代替エネルギーによる、パワーバランス再編劇 開幕。

世界的な石油需要の減少を受けて、OPECは北半球が冬本番を迎えるこの時期に減産を表明し、原油価格の維持どころか高値への誘導を図り始めた。北米と中国経済の低迷に加えて、北アフリカ、ASEAN、日本、北朝鮮、ベネズエラ、コロンビア、エクアドル、南太平洋等の国や地域で、エコ・アンモニア製造・出荷が本格的に始まると報じられており、新エネルギーへの牽制の意味合いもあるのではないかと、評論家が述べている。また、原油だけでなく、火力発電ではアンモニアと混合されるので、LNGの消費量も下がると予想されている。   
OPECの減産の報道を受けて、日本政府・北朝鮮総督府、そしてチベット政府は原油の輸出を停止すると発表した。同時に補填策は用意してあり、北朝鮮、チベット、イランの日本油田に依存していたアジア各国、南太平洋諸国向けにOPECに加盟していない南米産の石油を提供するとベネズエラ、コロンビア、エクアドル等の南米の政府が次々と報じ、日本が所有する油田の穴を埋めてゆくと言う。                 
昨年2039年で自衛隊の全ての海外派兵が終了し、2021年から海上自衛隊に配備されていた、タンカー型輸送空母7隻が中南米軍に移管された。今後はプレアデス運輸が資産として購入し管理運用。この7隻で太平洋航路の南米産石油運搬を担うらしい。         
前々から中南米諸国連合と日本側で対策が決まっていたのだろう。早速、ビルマ、タイの中南米軍軍港でインディカ米を積んだタンカー型空母が、石油積み込みの為に南米へ向かっていった。甲板には中南米軍のインド洋方面部隊のモビルスーツとフライングユニットが護衛として搭載されていた。艦の操舵もメンテナンスもロボットが行う人件費が不要路線となる。スクリューとタービンを廻す液体水素の費用だけが運搬コストとなり、OPECの指定値を遵守する必要のない南米の原油と、今まで購入していた北朝鮮の原油とでは、価格は殆ど変わらない。            北朝鮮産石油の輸出を停止して影響を受けるのは隣国、韓国だけだ。今までは同じ民族配慮から市場価格よりも割安で原油を調達できたが、そのアドバンテージが無くなる。しかし韓国の石油調達量自体も減少し、石油価格が市場価格に準じても十分にカバーできるだけの経済力に戻りつつあるので問題にはならないだろう。原油価格の値上がりで困るのは、欧州の一部、特に米国、中国だ。国内産業に於ける石油・ガス依存率は依然として高く、調達量自体は逆に年々増加している。経済評論家達は、中国国内の原油生産はシェールオイルもほぼ掘り尽くし、国内産原油の先行きが見え始めているので、今後はOPEC価格の中東産に依存するしかないだろうと苦言を呈している。ビルマは2021年にモリ個人によって占領され、ビルマ産原油の中国輸出は絶たれた。南沙諸島の油田・ガス田は2033年ベトナムの所有物と確定され、現在は中南米軍が防衛の任に当たっている。北朝鮮とチベットの油田は、日本連合による中国向け個別制裁が継続されている。人権問題とCO2削減目標の未達を指摘されている中国には供給不可としている。それ故に周辺国から石油調達できない中国は、ペルシャ湾,紅海まで調達に向かう必要がある。                 
原油の供給量が世界的に縮小する裏で、アメリカと中国は公表できない問題を抱えていた。軍の石油備蓄タンクに新種のバクテリアが巣食っていた。原油の有機成分を栄養源とするバクテリアが摂取する分には石油への影響は無いのだが、バクテリアの排泄物が酸化成分となって石油内に残留する。この石油を精製して、航空燃料、ガソリン、灯油などに特定の国内石油会社に委託していたのだが、精製後も死滅しないバクテリアが、軍の全ての施設に運ばれた為に、航空燃料で稼働する陸海空軍の航空機、戦闘機、軽油・ガソリンで稼働する艦船、船舶、戦車、軍用車両の殆どで、エンジンが錆付き、動かなくなっていた。原子力で稼働する空母や潜水艦の半数は、何者かにチェーンをスクリュー部に巻かれており、スクリューとスクリュー周りの部位が破壊され、航行不可能となった。                 中国は更に深刻で、民間機にも同じ航空燃料を提供されていたので、国内外の中国航空会社の主要路線は欠便となっていった。中国民間機が故障の為に飛ばない、という事態がまず知れ渡ると、当初は中国製の航空機の欠陥が指摘された。しかし、ボーイング社、エアバス社製の航空機も故障していると分かると、共通するのはシェアしている燃料が怪しまれ、航空安全管理調査が始まり、原因の究明に乗り出してゆく。        中国の航空会社の輸送に頼っていた企業は、他国や香港、台湾などの航空輸送に切り替えた。その混乱に輪をかけるかの様に、今度は中国とアメリカの一般車両でガソリン、ディーゼル車が故障する騒ぎとなる。対象はバス、トラック、農機と多岐に渡った。兵器が稼働しないので、軍の燃料を民間会社に流した。両軍ともに嵩む一方の修理費用に頭を抱え、少しでも利益を稼ぎたかったのかもしれない。逆に民間から訴訟を起こされ、多額の賠償金を請求される事となる。       アメリカの化学会社が、燃料内に寄生していたバクテリアの存在を見出した時には、故障発生から1週間近くが経過しており、両国の石油備蓄基地や輸送のタンカーまで広く蔓延している事が分かった。タンク内にもバクテリアが付着し、錆が発生していた。被害は広範囲に及ぶ。バクテリアが燃料に含まれた状態でも塩化ビニル樹脂やポリエチレンを製造する分には影響は無かったのだが、工場の製造ラインにそのまま載せると、製造工程が錆で腐食を始めていた。石油に依存する米中に甚大な被害を齎した。            世界各国はカナダ・アメリカ・中国の石油の出入りの監視を強化して、流入を防ぐ手立てを講じた。両国はイギリスとオランダの石油メジャーにSOSを要請して、高い石油を微量づつ購入してゆく。バクテリアが存在しないと判定されたオイルタンクでなければ貯蔵できないからだ。石油購入価格だけでなく、検査費用まで掛かる。購入時まで購入する石油の検査を行うようになり、価格は高くなった。2040年でも石油依存率の高い米中には打撃となった。やがて、軍が機能していない事実を認め、2月前の時点で、修理費用だけで年間の軍事予算が無くなる見込みだと両国の財務省、財務局が発表した。カナダ政府も米中同様に報告した。                   バクテリア被害の全貌が明らかになってゆくと、メキシコの科学長官がアメリカとカナダのバクテリアが増殖した石油をメキシコが引き受けると表明する。既にタンク内が錆び始めたタンカー2隻を預入れてピストン輸送し、アメリカ・カナダ両国2年分の油量を請け負うと手を上げると、中南米の産油国グァテマラ、コロンビア、エクアドル政府も手を上げた。             中国のバクテリア汚染石油は、中国年間使用量の4年分に上るとも言われ、日本、北朝鮮、韓国、台湾が手を上げた。4カ国の年間使用量を合わせても7年分にも及ぶ量だという。各国が引き受ける汚染原油は二束三文の価値しかないが、中国とアメリカが新たに通常の原油を必要とするのは確実なので、中東の産油国は、暫くの間は数年は利益が約束された格好となる。       
中国もアメリカ、カナダも、国防長官、国防大臣、軍の補給担当将校等が管理責任を問われて辞任し、3カ国の石油管理会社の社長や担当役員が更迭される。一時は産油国のプラント施設も点検に入る騒ぎとなったが、バクテリアは3カ国の石油施設以外には広がらずに済み、世界は安堵してホッとしてしまう。各国はそれぞれが課題を抱えており、余計なものに関わっている必要はないからだ。それに、アメリカ、カナダ、中国ならそれなりの大国なのだから救済の必要は無いだろうと「思い込み」「刷り込み」が作用する。   
実際は、3カ国のは依然として騒動が続いていた。何しろ、軍、警察、消防、ゴミ回収・焼却等の燃料が必要な公共サービスが機能しておらず、ガソリンは不足し、価格は高騰していたからだ。金持ちはEV車や水素ロータリーエンジン車を買い求めたが、おいそれと車を買い換える余裕の無い家は、耐え忍ぶしかなかった。民衆の支持を失い、3カ国の政権の立場が一層混迷を深めつつある状況に直面してゆく。           「軍が放出した安い軽油を使ったら、船のエンジンが動かなくなってしまった」中国沿岸の漁協は、漁が操業できなくなり、収入が無くなったと、国と軍に保証を求めてゆく。好き好んで買った訳でもない軽油を、軍が困っていると聞いて助けたのに、中身は粗悪な油だった。船が動かせなければ国から課せられた漁獲の納品ノルマも達成できない。それでも漁民に責任が有ると役所は、軍や政府は主張するのか?  兎角、中国の人は折れない。取り敢えず、食い下がる。この件で非は漁師側には無かった。国防大臣が管理責任を認めているのだから。中国政府と食糧庁は更に苦境に置かれていた。この壊滅的な状況では予定していた漁獲高に達成しないどころか、日々の国民の糧食に影響が出る。エンジンの損傷を免れた漁船も、海上保安庁、海軍の護衛が得られ無いので、国家間で主張しあっている国際海域まで、遠出をする事が出来ない。汚れた近海の海では、スズキやボラ等の汚染に強い魚しか捕れない。当然ながら、不人気なカテゴリーの魚だ。中国政府は外務省・各国の大使館に命じて、フィリピン、ベトナム、北朝鮮、韓国に頭を下げて調達し、国民への魚の提供を検討していく。今までの確執は残ったままなので当然のように足元を見られ、魚の買取価格は総じて高めとなる。中国の予算は計画経済により決まっている。食糧庁は背に腹は代えられないと、1月末の時点で調達予算の3ヶ月分を切り崩して、魚の支払いに充てる決定を下す。4月になれば、漁船も修理を終えて今まで通りに操業、収穫が出来るだろうと、淡い期待を抱きながら。中国漁船による違法操業が鳴りを潜め、漁船数も大幅に減少している状況をフィリピン、ベトナム、台湾の漁師たちは歓迎する。一時的なものかもしれないが、中国漁船から開放され、近年では無い漁労に没頭していった。        

ハワイ、グアムに駐留する米軍兵士は燃料が無いので何もできず、制服組以外は自宅待機を命じられるようになる。軍だけでなく警察、消防にも影響が及び始める様になり、間が悪い事に物資輸送の船舶も被害を受け、太平洋諸島部への物資供給の回数も削減され、一大観光地と、そこに居住する人々の生活に次第に支障が出始めてゆく。アメリカ本土自体が麻痺状態に陥っていたこともあって、支援の要請をしても埒が明かない。アメリカ本土も諸島部もでも、生活が圧迫されていた下流階級は、警官達が自転車か徒歩で業務に当たっている姿を見て、強奪、暴動を計画してゆくようになる。北米は秩序なき無政府状態の道へ突き進んでいた。        
ーーー                      タヒチやボラボラ島等のフランス領ポリネシアへ、連合内のツバルやキリバス共和国と合わせてエネルギーや食糧を配送しているエクアドル政府は、ハワイ諸島への支援を国連の要請を受けて、始める。         
グアム、サイパンのある北マリアナには、やはり国連の要請を受けてフィリピンと台湾が物資の供給を始めてゆく。アメリカに物資の輸送が出来ない以上、国連も拒む事は出来なかった。相変わらず、メキシコに流入する人々を「移住希望者」と呼んでいたが。       
国連は南太平洋の国々への「ついで」とばかりに、カナダとアメリカ本土への物資の援助を、国境を接するメキシコと隣国グアテマラ政府に要求してきた。     
メキシコ大統領が困惑の表情を浮かべる。「国連が移住希望者だとする、事実上の難民を受け入れ、北米の汚染された石油まで受け入れている我々に対して、今度は生活物資の輸送を南太平洋の国々とは異なり、無償支援を要請されました。流石に呆れています。これ以上の負担は不可能です。我々の支援の限界を既に超えています。国連は国境で何が起きているのか、状況を理解された上で要請されたのでしょうか?これ以上の負担を強いるのならば、我々中南米諸国は国連という組織に更に不信を抱くだけとなるでしょう。姑息に、メキシコとグァテマラだけに相談を持ちかけないで頂きたい。中南米の同盟国と協議の上、改めて発言しますが、これは些か常軌を逸していると思わずには要られません。何かの間違いであると祈りたいですが・・」と、困惑した表情をして見せた。   

カナダとアメリカの南側には中南米諸国連合しか存在しない。大西洋を渡って欧州に助けを求めるか、嘗ての属国日本に頼るかしかない。報道を見ている者であれば世界の誰もが、どの国でもメキシコ・グアテマラの立場を尊重するだろう。「国連は一体どうしてしまったのか?」と。   
国連内が揉めているのは、嘗ての同僚達から状況を聞いていた。アメリカが難民を排出している事実を認めたくないので、国連に詭弁を強いているのだという。国連の現執行部は常任理事国アメリカのいいなりだ。共和党政権としては、アメリカの格付け機関の評価が下り、国際間での信用度が発展途上国レベルに初めて落ちる様を受け入れたくはないのだろう。 アメリカの評価がそのレベルまで既に落ち込んだ、その転落時の政権であり、大統領だったという 未来永劫語り継がれる歴史から逃れたい一心なのだろう。前世紀の戦勝国アメリカが盟主だった頃に生まれた国連も、アメリカ無き国連を想像したくないのかもしれない。だからこそ、国連も国際社会も変革が必要なのだ。アメリカなき国連はおそらく自立出来ない。日本やアジアが主導権を握る国連に対する人種的、感情的なものが噴出する可能性が高いし、新たな国連、国際社会の新しい秩序作りは困難を極めるだろう。国連職員は組織の未来を憂いて、国連を去ろうとしている。決して、ベネズエラや中南米諸国が率先してスカウトしている訳ではないのに、ベネズエラが「引き抜いている」と安易に表現してしまうのも、国連に否があるはずが無いという、国連性善説に則ったような印象操作に走る。国際連合は神聖且つ、崇高な組織なのだ。ウソを付くはずがない。ベネズエラのような新興成金国家とはレベルが違うと言わんばかりの姿勢を貫こうとする。現在の国連を誤認している人々が数多く居るので、誤認・誤解が正論として罷り通ってしまう。   
しかし、いつまでも理不尽は通用しない。カナダ・アメリカからの流入者を難民認定し、国連の難民高等弁務官をアメリカーメキシコ国境に配備を決めなければ、世界の秩序は乱れてしまう。決定するまで紆余曲折はあろうが、待つしかないと考えていると、未来を憂いた国が手を上げ始める。欧州の各国、オセアニアの国々がアメリカ・カナダの「難民」受け入れを表明し始める。様々な各国の思惑が絡んでくる。純粋に、混沌とした国際社会をこれ以上容認できないという想いと、「もし、中国がアメリカの後に続くようだと、おいそれと受け入れる訳にはいかない。ここでアメリカ向けの対応で追われている状況を擬似的に作り上げておくと、打算的に考える国も少なくなかった。               
各国から難民受け入れの表明をされて、困るのはアメリカ政府だ。過失を認めて国民に説明する必要がある。IMFの支援を受けるとなれば、支出を抑えて、増税する緊縮財政が採用される。アメリカも絡んだ財政支援策を遵守するやもしれない。皮肉な話だ。        
中国政府は、アメリカ救済に手を上げた国々の状況を見て、分析する。香港や旧満州、北朝鮮へ拠点を移す、企業や人々が目立つようになっていた。アメリカ化を懸念して、軍と警察、そして国内航空便が十分に機能していない状況下で、春節の大移動を迎えるのは相応しくないと判断して、都市間の人的な移動に制限を課した。この春節で東北部の旧満州へ向かう人々が大幅に増えるという推測値を受けて決断された。コロナ時の都市封鎖に近い状態になるのでは、と囁かれていた。 ーーー                      北米の人々は愚かな政権の被害者で、無視するわけにはいかないと阪本首相が重い腰を上げる。日本が中南米軍に委託する形で、北米への支援物資提供を請け負うと国連に伝える。敗戦後のユネスコや米国の援助のお返しのつもりだった。「敗戦後の統治時代に受けた恩は返すつもりですが、限度は、当然ございます」と阪本首相がコメントする。                  
日本はベネズエラに米国の支援費用を払う必要は無かった。米国人流入で株価や国債価格の下がったベネズエラの国債を日銀が購入しただけだ。

エクアドルもフィリピンも台湾も、そして日本から支援の委託を受けたベネズエラも、メキシコとグアテマラ等の国が無償で手に入れたバクテリアが繁殖する原油に、新たにバクテリアを投じて、数日寝かせた。              
タンクやエンジンを酸化させるバクテリアに、「捕食するバクテリア」を投じた。これだけで元の原油に戻る。精油所で精製して航空燃料、軽油、ガソリン、灯油を作り、北米2カ国とハワイ、グアム、サイパンに、食糧品と共に届けにゆく。この支援物資の費用は国連が負担してくれる。石油は北米と中国から無償譲渡されたモノなのでボロ儲けとなる。日本連合、中南米諸国連合は胸の閊えが収まり、溜飲が下がった気分だった。やがて、物資の支援を受けたハワイ、グアム、サイパンを含むマリアナ諸島は、独立に向けて、動き出してゆく。            ーーー                      中南米軍、太平洋方面艦隊 旗艦・大和と原子力空母・赤城を主力とする第十一艦隊空母打撃群がフィリピン海からミンダナオ島沖合に入ると、大和と赤城と潜水空母マリウスを残して、サンボアンガ基地に向かった。3艦はベトナム北部のダナン沖へ進行してゆく。     
ルソン島のスービック海軍基地の埠頭から出発したベネズエラ製のホバークラフトは次第に高度を上げて8000m上空を滑走する。初めて乗った蛍と里子、そして玲子は「どうしてこんなに高く飛べるの?」とモリに食って掛かっていた。直に高度を落として、首都ハノイの町並みが視野に入ってくる。速度を落としてホバリング状態で、ベトナム首相官邸のヘリポートへゆっくり降りてゆく。出発して40分しか掛かっていない。大統領府や首相官邸のヘリポートを使えば、空港での式典や護衛の必要が無い。首長が認可してくれれば出入国の手続きも不要だ。ASEAN内の首脳の移動は「これでいいのでは?」という、間接的な提案だった。      
着地して、エアー噴射を停止すると、ベトナム首相と外相、金融相が駆け寄ってくる。「いいですね、これ!」昨年秋にバンコク訪問時に会談したばかりなので、社交辞令は抜きだ。「ASEANの首脳の専用機として、進呈しましょうか?」と握手しながら言うと喜ばれる。  
日本の里子外相は外相同士で握手しあっている。アユミ・コナーズ、プレアデス社社長である蛍と、レイコ・イグレシアス、パシフィックバンク社長の玲子は、官邸の方々と握手を交わしてゆく。「昨日のライブ見ましたよ」と言うのが、お約束になっているが、「ギターを弾いていたのは娘で、私じゃないんです」と言いたくても言えない蛍の表情を見て、笑い。「マイクを握って歌っていたのは姉で、私はキーボードを弾いてました」と玲子が必死な顔をして否定している。「sisterですって?」と日本側のメンバーが笑う。         
ハノイから北にある国際空港でもあるダナン基地に、沖合に停泊している空母赤城から飛び立った100機のミグ31D戦闘機が、順に着陸してゆく。機体はベトナム空軍機の塗装が施され、複座敷のコクピットにはロボットのジュリアが座っていた。次々と到着する戦闘機の映像を報じながら、中南米軍の10年経過した中古機100機をベトナムが約300億円で購入したとアナウンサーが記事を読み上げる。実際はベトナムは支払わない。この日、ベトナム首相官邸で金の延べ棒400億円相当が渡された。これを現金化して振り込んで貰う形を取る。ベネズエラは、こうして金を現金化してゆく手段を取ってゆく。           
戦闘機はAIを搭載したまま、中南米軍パイロットのジュリアが操縦する。国境を接する中国に応対する、事実上の中南米機だ。主にスクランブル発進と牽制の為のデモンストレーション用途で使われ、「ベトナム人パイロット」の操縦術の凄さを中国側に知らしめてゆく。 因みに、2週間後はお隣の国で中国とも国境を接する、ラオスのビエンチャンにも、全く同じ機体と仕様で、ラオス空軍に塗装されたAI機、100機を進呈する。   
旧満州に300機、北朝鮮に350機、チベットに140機、タイとビルマ、そしてフィリピンの中南米軍基地に200機づつ配備され、中国国境隣接国が包囲網を形成している。因みに、全機に水素エンジンを搭載しているので、燃料としての石油に依存する必要はない。      
また、ヴェトナムのメディアは次の様に伝えた。2021年にやってきた日本企業107社のうちの62社の部品メーカーとベトナム70社の製造部品で、アンモニア駆動の乗用車の生産を始めると、ベネズエラ、プレアデス社のアユミ・コナーズ社長が発言した。ベトナム製自動車として、リパブリック・ドット・ブイ社と命名され、ベトナムとベネズエラ半出資の国営企業となる。旧満州の企業、ドット・シー社は東アジア圏を対象とし、ドット・ブイ社は中国南部、香港、ASEANを商圏とする。ドット・エム社をマレーシアの自動車企業との間で合弁企業を作るが、マレーシアはオーストラリア、ニュージーランド、南太平洋諸国などの旧英国連邦向けに右ハンドル車両を製造する。ドット・ブイ社は左ハンドル車を組み立てる。また、各国企業の進出を促すために、ベトナム主要都市のプルシアンブルー・バンク、レッドスターバンクは、ベトナムの銀行と交渉の上、店舗をパシフィックV・バンクに統合したいと、パシフィック・バンクのレイコ・イグレシアス社長がベトナム政府に提案した。AIバンクのノウハウをベトナムの金融界に浸透させたい思惑があるようだ。既に金融商品で取引のある銀行が、交渉に望んでいるようだ、と。           
ーーー                      モリ一行がベトナムを訪れている頃、フィリピンに居る家族たちはフィリピンの隣国であり独立国のパラオ共和国のリゾートホテルに滞在していた。ベトナムで会談を終えると、このホテルへやって来る。先んじて、昨年までベネズエラ政府の厚生大臣と国土交通大臣を努めていた、幸乃・クレイ、志乃・クレイの姉妹が、パラオ政府と会談を進めていた。              
その後、ベトナム帰りの日本の外相とベネズエラ大統領がパラオにお忍びでやって来て、密約を交わす。日を改めて台湾政府と日本政府がコンタクトを求めてきて、協定の調印を行う計画だ。「統治するメリットが無くなった」とアメリカが2025年に撤退して行った後、親密な外交関係にある日本と台湾がパラオの支援を続けてきた。近隣のグアムやサイパン程の開発は行われていない自然環境の佇まいが玄人旅行者には好まれ、日本と台湾で一定のリピーター層を持っている。金森鮎を始め、モリ家一行がフィリピンに拠点を構えた理由の一つが、パラオが近位ということもある。フィリピンの島々と、セットとして計画が出来ると考えていた。          
(つづく)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?