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「ADFEST 2023 |Fabulous Five」審査員賞がナゼ獲れたのか【福田眞心監督インタビュー】

1998年に創設されたアジア太平洋地域を代表する広告祭の一つである「ADFEST (アドフェスト)」では、若手ディレクターを対象とした脚本・映像のコンペティション「Fabulous Five」を実施しています。 「ADFEST 2023」にて、弊社のディレクターユニット<太陽演出>所属の福田眞心が、Fabulous Fiveにて審査員賞にあたる<COMMENDATION>を受賞しました。福田がどのようにこのコンペに挑み、本作品を制作したのか、また受賞後の反響などをインタビュー形式にてお伝えいたします。

▷ ADFEST | Fabulous Fiveとは


まず「Fabulous Five」がどのようなコンペなのか説明いたします。

「Fabulous Five」とは、アジア太平洋地域を代表する広告祭の一つである「ADFEST」の脚本・映像のコンペティションです。ディレクターとしての実務経験が2年以内の若手を対象にしたコンペで、最初にADFESTから指定されたテーマに沿った、5分以内の映像のスクリプト(脚本)を提出します。テーマは毎年違うものが設定されるのですが、福田が参加した年は「FIRED UP!」で、「燃え上がる、気持ちが高まる、張り切る、激怒する」という意味のものでした。

提出したスクリプトはADFESTの審査員によって審査され、上位5名が「Fabulous Five」に選出されます。そして、「Fabulous Five」に選ばれた5名は、提出したスクリプトに沿った映像を実際に制作し、タイ・パタヤで行われるADFESTの現地にて、作品の上映&審査を経て受賞作品が決定します。

賞は、現地で上映を見た観客の投票によって決まる<POPULAR VOTE (観客賞)>とADFESTの審査員が決める<COMMENDATION>の2つがあり、今回福田が受賞したのは<COMMENDATION>になります。

 ここで、福田が実際に制作した映像をご覧ください。

▷ 企画意図・経緯


―福田監督に聞きます。「FIRED UP!」というテーマをどのように解釈し、脚本を書きましたか?

僕は、「FIRED UP!」を<感情の発露>と解釈しました。ポジティブな物語よりも、人の裏側や負の見せない部分の方が個人的には興味があったので、人間の感情の昂りを怒りや暴力という形で描いてみたいと思いました。脚本を提出した時は、感情は制御できないものであり、それによる暴力の虚しさを表現したいと考えていました。

― 最終稿の脚本に仕上げるのに、何度も書き直しをしたそうですね?

このコンペへの挑戦で1番難しかったのが、自分が納得できる脚本に仕上げることでした。通常のCM制作とは異なり、表現の制約などもなく作品のための作品なので、脚本から撮影稿 (脚本から追加のアイデアや変更を加え完成した台本) まで延々と細かいところを書いては直し、書いては直しを繰り返していました。

― 本来であれば、「Fabulous Five」に選出された後、2ヶ月程度で映像を制作して提出するのですが、コロナによりADFESTの現地開催が延期され、映像制作を始めるまでに2年以上の時間が空きましたね。本作に対して、何かコロナによる影響はありましたか?

ADFEST開催の延期・撮影の延期により、脚本と向き合う時間が増えました。また、コロナ禍で慣れない環境やストレスフルな生活の中にいたこともあり、実際に映像にする際に、元々の構想に少し変更を加えました。脚本では、自制心などの感情の制御の話にする予定でしたが、制御できない存在と一緒に生きていく生活を描くことにしました。また、暴力もただ人やモノを殴ったり、叫んだりする一様な面だけではなく、そのような発散方法ができずに内向きに自分を傷つける人もいる、というところも追加しました。

▷ 映像制作過程


― 本作はシーンが多く、撮影も大変だったかと思いますが、撮影中で何か印象に残っていることはありますか?

撮影は時間の制限もあり、難しいシーンも多かったので大変でした。そんな中、1日撮影した後に、朝日を撮影するために、真っ暗中で日の出を待って撮影した九十九里は印象的でした。

九十九里浜での朝日の撮影


― 浜辺のシーンは、冒頭とラスト、シーンの切り替えなどにも使われていて、とても印象的でした。

2人の生活の中で、海・浜辺はあまり関係のないもののように感じましたが、このシーンはどのような意図があるのでしょうか?

主人公のエスケープゾーン、感情の現れの表現として海辺の描写を入れています。波や水の音を聴くと自然と落ち着くように、主人公が落ち着いている時のイメージ空間として表現しています。主人公が職場のトイレに逃げ込んだのも、その描写の一部です。タイトルの意味である『嵐』と同様に、波も制御できない自然のものであり、荒れることもあれば穏やかな時もある。その様を感情になぞらえて表現しています。

― また、映像内ではあまり音楽を使っていませんが、それはなぜですか?

音楽に頼りすぎないようにするため、ラスト以外はあまり音楽を使わないようにしました。その代わりに、環境音が音楽の役割になるように取り入れました。冒頭からあるドライヤーの音、踏切、電話の声、様々なストレスフルな音と、その反面で落ち着く波の音を入れたりして、それらがこの物語の音楽になるようにしました。

編集で悩んだ時に、シーンを書いた紙で色々と話しながら試行錯誤していました。

▷ ADFEST現地での上映


― 自身の作品が、観客がいる中の大きなスクリーンで上映されてどうでしたか?上映を見た観客の方から何か反響などありましたか?

観客がいる前で、自分が監督した作品が上映されることに、少し緊張していましたが、上映後に観客の拍手を聞けてホッとしました。普段の仕事では、自分が手掛けた作品が観客の前で流されることはないので、とても貴重な体験になりました。また、上映後に感想を伝えに僕のところに来てくれた人が何人かいました。自分の作品が、観客や審査員の方にどのように受け止められるのか、少し不安もありましたが、良い感想をもらえてとても嬉しかったです。

― 結果は審査員賞である<COMMENDATION>の受賞でした。このFabulous Fiveという企画・映像コンペへの参加、また受賞という結果を経て、何か得るものはありましたか?

第一は、自分の作品を撮れて、それが受賞できたことがとても大きいです。キャスト・スタッフに支えられて完成させられた作品でもあるので、関わってくれたスタッフに良い報告ができたことはとても嬉しかったです。また、本作の制作を通してはもちろんのこと、ADFEST・Fabulous Fiveへの参加を通し、いろんな方に出会えたことも、とても良かったことだと思っています。

トークセッション時の様子(左)   表彰式の様子(右)


― 今後、挑戦してみたいこと、展望などがあればお聞かせください。

こういった短編作品で評価されると、CM映像には使いづらいディレクターに見えてしまうのが、少し心配です。。。15秒・30秒のCMも演出していますので、興味を持っていただけた方は、ぜひ1度僕のプロフィールページを見てください!そしてお声がけください!

▷プロフィールページ:https://taiyo-dir.jp/masashifukuda/
 
通常の仕事の他では、個人的に作りたい作品があり、ショートフィルムなのか映画なのか、まだ形は定まってないのですが、脚本は書き始めています。どうにか形にできればいいなと思っています。

― 最後に、来年以降「Fabulous Five」に挑戦する若手ディレクターに向けて、何かアドバイス・コメントをお願いします。

『自分の描きたいことを素直に脚本にすること』です。
広告業界で仕事をしていると、どうしても広告的な視点から入ってしまいがちですが、そうである必要はないと思います。与えられるテーマは毎年広く受け止められ、色んな表現ができるものに設定されています。「世の中がどうだから、こう。」という要求は一切ありません。自分はどういう視点で物事を見ているのか。まずは自分を見つめ直して、悩んで、時間をかけて脚本を考えてみてください。誰かを楽しませたいのか、誰かに何かを考えて欲しいのか。その脚本の中にちゃんと自分はあるのか。ある種の打算的な自分との戦いなので考えている時はとても辛いですが、最後には楽しい時間になるはずです。自分に素直にやってみてください!


<福田眞心 プロフィール>
1991年生まれ 北海道出身。2017年、太陽企画(株) に入社。演出部<太陽演出> に所属し、数々の企業広告やMV のほか、地方創生のミニドラマなど、幅広い作品を手掛ける若手ディレクター。 「BOVA(Brain Online Video Award )2020」グランプリ、「2022 62th ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」ブロンズなど、国内外の広告賞で多数受賞。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
福田に興味を持っていただけましたら、別のインタビュー記事もありますので、ぜひ以下をご覧いただければと思います。


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