自転車日本一周の旅46日目
朝起きると、Yは二日酔いで苦しんでいた。久しぶりに酒を飲んだからか、めちゃくちゃしんどいらしい。僕も飲みすぎて少し体調が悪かった。ウイスキーは3分の1しかなくなっていないのに。
こんなときに限って、Yのおばあちゃんは、トンカツにハンバーグにうどんにハムエッグに白米にサラダなど、すごく豪華な朝食を用意してくださっていた。食べきれないほど大量だ。Yは死にそうな顔をして味噌汁しか飲んでいなかったので笑えた。ご馳走様でした。おいしかった。
支度をしてYの家を出た。帰りも広島市を通る予定だというと、次は冷やしつけ麺を食べに行こうと言って別れた。ありがとうY!またなー。
市内を走る。2号線に入ったつもりだったが、気がついたら全然違う道に入っており、住宅街の中で迷ってしまった。近くをママチャリに乗ったおばさんが通ったので2号線への行き方を聞く。すぐそこを右に曲がって真っ直ぐ走れば合流するという。
しばらく走っているとママチャリを全力で漕ぎながら、先ほどのおばさんが僕に並走してきた。なにごとかと思っていると、道を間違えたという。本当は左だったというのだ。30キロ近く出ていたので驚いた。
広島市内を抜けて廿日市市へ。走っていると左手に海が現れて、宮島が見えた。行きたいなあ、と思いながらしばらく走る。
山口県に着いた。岩国市に入るとコンビニのポプラがあったので、昼ごはんを食べることにした。
僕は上京して最初にしたバイトがポプラの店員だったので、弁当の蓋が閉まらないほど入った白米が懐かしかった。
田んぼを眺めながらカレーを食べる。うまい!
綺麗な小川の近くを走る。やさしい雰囲気が町に漂っていた。のんびり自転車を漕ぐ。
道を走っているとハイキング中のおじいちゃんおばあちゃん軍団に「がんばってー」と声援を送られる。ピースフルすぎる。なんて平和な場所なんだ。
いくつかの街を抜け、山を超えていると日が暮れてきた。ゆるやかなアップダウンが多くジリジリと体力を削られる。6個入りのクリームパンを炭酸の抜けたコーラで流し込み、カロリー補給をしながら走った。
しんどいなーと思っていると、水面に夕陽が反射していた。些細なことだったが、なぜかすごく感動した。まだまだこれから。辛いけど、もう少しだけ頑張ろうと思う。ゆっくり行けばいい。
辺りが暗くなる。途中何回か道を間違えながら、アップダウンをクリアした。
今日は中学と高校の同級生であるHの家に泊めてもらう。ほとんど野宿をしなくなったが、各地に引っ越した友達に会うのもまた一興である。
Hはこっちの大学に通っている。地方の大学生は車を持つらしい。自転車を停めて荷物をアパートに運び込むと、ビッツで買い出しに向かった。
Hとスーパー銭湯に行き、メシと酒を買って家に帰った。そして高校卒業ぶりくらいにゆっくりと話をした。
Hとは中一のときに同じクラスで仲良くなったが、急にHと話さなくなったことがあった。その理由を訊くと、僕がクソガキすぎたからだという。僕は昔ついていけないほどクソなガキだったという。全然記憶にない。
高校に入ってからまた話すようになり、一緒の部活に入った。Hは背が高いうえにテニスをしていたので、センターのポジションで試合に出るようになった。僕は背が低かったのでリベロになった。
Hは攻撃でぼくは守備だったのだ。今思うと一番ハイタッチをしたのはHかもしれない。そんなことを思い出しながら、キツかった練習や試合のプレーについて話をしてゲラゲラ笑った。
あとHには言わなかったが、僕はヒザを怪我してレギュラーを奪われ、心が折れて部活を辞めようとしたことがあった。そのとき、必死に引き止めてくれたのがHだったのだ。
復帰初日、体育館に入るのがめちゃくちゃ気まずかったが、Hが僕の背中を叩いて「おう!おかえり」と受け入れてくれた。そのおかげで、僕はチームに戻ることができた。
本当に、本当に感謝しかない。
部活は泣きたくなるくらいキツかったし、最後の大会で勝てるはずの試合を落とし、近畿大会出場を逃してめちゃくちゃ悔しかったが、今となってはいい思い出だ。
思い出話に花を咲かせるうち、Hも僕もベロベロになったので寝た。楽しかった、サンキューH。
生きます。