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自転車日本一周の旅9日目

朝はコーヒーを飲み、音楽を聴いてのんびりしてから出発した。キックザカンクルーのイツナロバが流れた。まだ旅は序盤だけど、少しずつ北へ向かっている。

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9時過ぎに出発した。昨日と同じ、アップダウンの厳しい道が続く。標識に男鹿の文字があり、少しテンションが上がる。そのまま秋田市内に入り、秋田駅に行った。

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秋田駅前を散策したが、特にめぼしいものもなかった。美術館の近くを歩き、スーパーに行った。

すると、

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刺身がめちゃくちゃ安い。炊きたてのあきたこまちを買い、海鮮丼をつくった。

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これで700円である。めちゃくちゃうまかった。やっぱりKさんのいうとおり、スーパーで買い物した方がいいな、と思った。駅の近くでこんなランチが食べられるとは。秋田駅、恐るべし。

途中、お腹いっぱいで眠くなったので可愛い駅の駐輪場で昼寝をした。

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誰もいなかったのだ。それにしても駅の駐輪場で寝る日が来るとは。自分で自分がわからなくなってきた。

1時間の昼寝を終えて、Googleマップの指示に従って走る。するとGoogleは国道ではなく、山の中に入って行けという。

大丈夫か?と違和感があったものの、ルートとしては成立している。信用して山の中に入っていった。坂がすごい。小さな集落があった。

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謎の焼肉屋もあった。

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「この道で合っているのか?」と不安になりながらすすむ。すると、あたり一面田んぼの場所に出た。車も人もいない。田んぼの向こうにある雑木林でセミが鳴いている。

Googleの指示通りに狭い道を走っていると、行き止まりになった。そこを左に行けという。

左を見ると未舗装の砂利道があった。先に小さな橋がかかっているが、鬱蒼と茂った木々のせいで薄暗い。不吉な雰囲気を放っている。

間違いだと思ったがスマホを見ると「そっちへいけ」という。この先に道路があるというのだ。

「嘘だろ?」と思いつつも、ここまで来た以上、引き返すわけにもいかない。僕は砂利道の上を、自転車がパンクしないように注意しながら押して歩いた。

橋がすぐそこに見えた。その先に道があるとは思えなかったが、とりあえず越えることにした。

橋に向かって歩いて行く。

そのときだった。

いきなり奥から白い車が現れたかと思うと、猛スピードでこっちに走ってきたのだ。あっ、と思ったときには遅かった。車はスピードをゆるめることなく、真っ直ぐに僕に向かってきたのだ。

一瞬のことだったので、僕は何もできなかった。頭が真っ白になった。走馬灯のようなものも特に思いつかなかった。

ひかれそうになる寸前で車が急ブレーキした。

運転席の窓があき、ヘルメットをかぶったおじいさんが顔を出した。

「何やってんだべ?」

助手席に小さなおばあさんが座っていた。僕は戸惑いつつも橋の方を指差した。

「橋を渡って青森県まで……」

「なにいってんだ!あっちに道なんかねえ!クマの餌になっべや!」

「く、クマ!?」

おじいさん曰く、橋の向こうにクマが2頭いたという。それでふとこっちに歩いてくる人が見えたので自動車を飛ばしてきたのだそうだ。

僕は、このままマップ通りに進んでいたらクマに襲われていたらしい。というか、すぐそこにクマがいるのだ。

避難した方がいいと思ったが、おじいさんはいきなり車のエンジンを切った。そして窓の外に腕を出して大きさを示しながら「けっこーデカかったぞぉ」と笑った。すぐそこにクマがいるんですよね!?

少し話をしたあと「とにかくあっちには道はねぇからなー!」といっておじいさんは去っていった。

Googleに騙された。僕はとりあえず来た道を戻ることにした。またふりだしかぁ、と思いながら田んぼ道を走らせていると、狭い道の真ん中にさっきの白い車が止められている。

さっきのおじいさんとおばあさんが僕を待っていた。




「おう、タバコは吸うか?」おじいさんはマイルドセブンを取り出した。ありがたく一本いただく。

それぞれのライターでタバコにを火をつけて、煙を吐きながら田んぼだらけの景色を眺めた。

おじいさんと旅や秋田県と滋賀県のことを話した。こういうときに僕は滋賀県のことをあまり知らないと思う。

地元の地域以外、何も話せない。歴史も別に好きじゃないから、昔のことも話せない。

おじいさんはずっとガハハと笑っていた。おばあさんも明るい人だった。少しの間立ち話をした。

「そろそろ行きます」というと、「ちょっと待て」とおじいさんが言った。そしておじいさんはおばあさんに何かを言うと、おじいさんは家の中に、おばあさんはすぐ目の前の田んぼに降りていった。

車を道路に置いたままだが、奥はさっきの熊がいた道だから誰も通らないだろう。そして、熊と家の距離、ちかっ、と思った。

おじいさんとおばあさんが戻ってきた。おじいさんは「元気が出る食べ物」として塩漬けにした大きなキュウリを、おばあさんは袋いっぱいにプチトマトを持ってきてくださった。

おじいさんにかじってみろ、と言われたのできゅうりを取り出してみる。きゅうりはめちゃくちゃ大きい。これじゃ胡瓜というより、瓜だ。吉本新喜劇の桑原和男の萎んだおっぱいみたいだった。

かじってみると、強烈な塩の味に襲われた。塩だ、僕は今、塩を食っていると思った。

「しょっペー」と思わずいうとおじいさんはガハハと笑った。プチトマトは赤と黄色がかったオレンジの2種類。食べるとめちゃくちゃ甘かった。

「道の駅まで送ってやろうか?」と言われたが流石にそれは断った。「ケガなくがんばれよ!」と言って見送ってもらった。ありがとうございました!!

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出発の前に、写真をパシャリ。おじいさんも首から下げたカメラで何度も僕の写真を撮った。一緒に写ればよかった!失敗した……。

「たかのす」という場所にある大太鼓を見て行け、と言われたので見ようと思う。

その後、来た道を戻り、国道に合流して峠を何回か超えた。走りながら食べるプチトマトが最高に美味しい。きゅうりはしょっぱい。元気が出た。

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道の駅についた。変わったデザインのトイレには「熊出没注意!」とデカデカと書いてあった。東北にクマがいることを今日、初めて知った。

今日も空は星がたくさん輝いていた。真っ暗な場所だと、月明かりと星の光で明るくなる。ぼーっと空を見ながら日本酒を飲み、きゅうりとトマトを食べたあと、眠くなったので寝た。

生きます。