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自転車日本一周の旅11日目

二日酔いもなく、目覚めた。今日はいよいよ北海道上陸だ。

朝、Kずやさんのご実家で朝食をご馳走になり、青森港に向けて出発した。ありがとうございました!

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途中、少し走った先にある黒石市にて「おもしろ看板」を見た。僕は生まれて初めて、生で「おもしろ看板」を見たような気がする。

予定より少し早く港についた。せっかくなら北海道までも自転車を漕いで行きたい。しかしそれはできないので、フェリーに乗ることにした。

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フェリーは高い方と安い方があり、もちろん高くない方にした。高級じゃない方だ。

よくわからない値段によくわからない値段が加算されて3000円。内訳がまっまくわからないが、3000円で北海道に行けるのは安い。

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相棒のビアンキ Lupo 2012。今更ながら初登場だ。20歳の成人祝いとして両親に買ってもらった。ネイビーのビアンキに一目惚れしたのだ。かっこいいなぁ。

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写真撮影をしているとフェリーがやってきた。

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フェリーに乗ると、ヘルメットを被った職員の方2人が現れて自転車を壁際に固定してくれた。フェリーの駐車場は、まるでメタルギア2の世界のようだ。HQ、こちらHQ。

フェリーが出港する。自転車で北海道まで行く日がくるなんてなぁ、と感慨深い気持ちで遠くなる本州を眺める。

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テンションは高かったが、函館に着くまで4時間もあるという。4時間も海を眺めるのは少し厳しそうだったので、二等室に寝転がってNujabesを聴きながら昼寝した。

起きると冷房の効きすぎで喉が痛かった。タバコを吸いに外に出ると、分厚い雲が空を覆っている。

なんだか、嫌なことが起こりそうな気がした。




喫煙所でタバコを吸っていると、革のライダースジャケットを羽織ったおじさんとおばさんがやってきた。

僕の服装を見てか、「あ、君チャリ停めてたでしょ?」と話しかけられる。今思うとめちゃくちゃ話しかけられてるな、僕は。

2人は夫婦で、原宿から来たのだという。原宿?原宿ってあの原宿?それとも違う原宿ですか?と訊いたら笑われた。あの原宿だった。原宿に住んでる人っているんだ……。

喋りながらタバコを数本灰にすると、到着のアナウンスが聞こえた。おじさんご夫婦と別れて自転車のもとに行く。

縦開きの扉が開き、港と固定されて通路になる。車が次々と吐き出されていった。

車が出たあと、出発しようとしたら、おじさんご夫婦が「じゃあな!頑張れよ!」と言って走り去っていった。立派なハーレイダヴィッドソンだこと……。僕も手を振りかえし、出発した。




北海道は風が涼しかった。湿気があまりない。函館駅を見てテンションがぶち上がる。

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ただ、雨こそ降ってはいないものの天気はよくない。

不安な気持ちを払拭するために必要なのは寿司だと思った。とりあえず、近くにある回転寿司屋に入る。

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(この写真しか残ってなかった‥…)

北海道には何回か来たことがあり、「北海道は100円の回転寿司でもびっくりするほど美味しい」ということは知っていた。

北海道の100円寿司を食べた地元のギャルいわく「北海道の寿司は100円で全然ええねんけど、とりあえず滋賀の寿司ぜんぶ50円にしてほしいわ」ということだった。どういうこと?

とにかく、北海道の寿司は美味しさと金額が釣り合っていないのだ。






今日は20キロ先で野宿する予定だったので酒は我慢した。めちゃくちゃ飲みたかったが、寿司を食いまくることで我慢しようと思った。

その店は100円寿司だったが、地元でとれた魚やその日だけの限定メニューなんかもあって、かなり満足できる内容だった。

聞いたことのない魚や、普段食べないネタも頼んだが、どれもおいしかった。

結局、20皿ほど食べて店を出た。外は小雨が降り始めていたが、お腹いっぱい寿司を食べたことで気持ち的に勝てそうだった。

早いところキャンプ場に行こうと自転車を漕ぎ出す。店の外は狭い道路だった。車も少ないので全力で飛ばせた。サイコンは30キロを計測している。

この調子だったら1時間以内に到着しそうだな、と少し気を抜いた。

その瞬間だった。

僕の目の前に車が現れて、停車したのだが、僕は俯いていてその車に気づかず、突撃してしまった。

ふと顔を見上げ「あ!やばい!」と思ったときには、手遅れだった。

そして思い切りブレーキを掴んだことで後輪が浮き、そのまま半回転しながら自転車ごと道路に投げ出されてしまった。

車が通らなかったのが救いだが、景色が一瞬のうちにグルグル変わりコンクリートに寝転がっていて、何が起きたのか理解できなかった。

イテテ……と思いながら体を起こすと、運転席から気の弱そうなお兄さんが出てきた。顔を真っ青にして僕を見ている。

「だ、大丈夫ですか?」

身体は大丈夫だった。だがロードバイクのフロントフォークが、車に当たった衝撃で思い切り右側に曲がっている。

お兄さんに謝り、僕は道路に散らばった荷物を拾った。お兄さんが警察を呼ぶ。数分後に警察が現れて、簡単な状況説明をしたあと、僕は警察署に連行された。

警察といっても大きな警察署ではなく、奥に休憩室が一つあるだけの小さな交番だった。そこで僕は身分証を提示したり簡単な質問に答えたりした。

警察官のお兄さんは穏やかな人で「旅してるのに災難だねぇ」と慰めてくださった。

すべては僕の不注意が原因だったから「災難です」とは思わなかったが、話すことで気持ちはラクになった。それにしても、修理代、いくらになるんだろう、、、?

田舎の警察署というのは事件らしい事件もなく、あまり忙しくないらしい。取り調べが終わり、車の持ち主のお兄さんと連絡先を交換したあとも「ゆっくりしていって」とお茶をご馳走になった。

僕がお茶を飲み、煎餅を食べる間、警察官のお兄さんは地元の独居老人と電話をしていた。寂しくて電話をかけてくる高齢者が多いのだという。

その後、お兄さんが函館のいい宿といい飯屋を教えてくれた。

いい宿とはフェリーの待合所のことで、いい飯屋はラッキーピエロというハンバーガー屋のことだった。

「函館にいるなら、函館を満喫してってよ。そんな気分じゃないかもしれないけどさ」

そうなのだ。事故後の修理に立ち合う必要があり、僕は数日間函館に滞在することになってしまったのだ。修理費にビクビクしていたが、親父が払ってくれるという。めちゃくちゃ怒られたが、ああ、ドラ息子……すいません……。

ということでその日はラッキーピエロでハンバーガーを食べて、フェリーの待合所で寝た。ラッキーピエロのチャイニーズチキンバーガーはめちゃくちゃ美味しかった。

また、フェリーの待合所は24時間空いていた。三階建てで、去年オープンしたばかりらしく、とても綺麗だった。

2階と3階が待合所になっているのだが、3階には誰もいなかった。誰か来るかな、と思っているが本当に人が1人も現れなかったので、僕はそこで眠ることにした。

気がかりなのは自転車だ。交番から乗ってきたが、フロントフォークが曲がったことでまっすぐ走れなくなってしまった。

自己嫌悪でかなり落ち込んでいたが、サッポロクラシックや両親との電話で元気を少しだけ取り戻せた。ああ……自転車、どうしよう……。

生きます。