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自転車日本一周の旅6日目

野宿をすると、いやでも日が出たら目が覚めてしまう。朝6時前にしっかり目が覚め、出発した。

昨日に引き続き、険しい道はしばらく続いた。アップダウンの激しい道と左手に崖。朝から冷や汗をかきながら1時間ほど走る。

腹が減って死にそうになったとき、ようやくコンビニが現れた。コンビニではカップ麺とコーラとインスタントの白米を買う。カップ麺を食べたあとライスを打ち込み、それを炭酸を抜いたコーラで流しこむ。中学生の昼飯みたいな朝飯だ。

バキで炭酸を抜いたコーラを飲むシーンがあるけど、あれは確かに効果的だった。試してみて本当に元気が出たので、1.5リットルの炭酸ジュースを荷物に縛り、炭酸を抜きながら走ることにした。

その後も海岸沿いにある国道8号線を走っていたが、新潟県はあまりにもアップダウンが激しい。しかも道路が狭いので結構危険である。

どうしようかな、と思っていると右側にふと「自転車専用道路」があることに気づく。

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おおっ!と思い早速移動。自転車2台ほどが通れる平坦な道がただひたすらまっすぐに続いている。

両サイドを雑草や木々に囲まれていて、左側に海は見えるが右側は何も見えない。なんだかとても不思議な道だった。外灯もないので、夜は絶対走れない道だ。田舎なのでしばらくは貸し切り状態だった。自転車をぶっ飛ばす。

すると、自転車専用道路専用のトンネルが現れた。

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なかなかに不穏である……。「このトンネルには警報装置が設置されています」って……。手前のちょっと赤いやつでしょ!?中央に絶対ないでしょ!?

ほぼ真っ暗な道をびびりながら先を進むと、「ワアア!!!」と叫び声が聞こえて「ヒィ!!!」と声をあげてしまう。トンネルを出ると、子供とお父さんが前を走っていたらしく、驚いた様子でこっちを見ていた。

その後もトンネルをいくつか通過した。中には明かりすらないものがあって結構怖かった。そういうトンネルに限ってやたら地面が濡れていて、かなり肌寒い。全然夏っぽくないのだ。

自転車専用道路はアップダウンがなくて快適だったが、途中でかなり飽きた。すると、自転車道路の終点が見えた。もうすぐ新潟県上越市内に入るという。

国道8号線に合流する。さっきまでの険しい崖が嘘のように、穏やかな顔をした海が左手に現れた。

上越市街に入ると突然道路が広くなる。自転車が走るスペースもかなり余裕があり、さっきまでの険しい道と違ってスイスイ進むことができた。道だけでなく、空も広い。いい天気なので気分がよかった。

途中便意を催したが、開放感がすごかったのでなんとなくスピードを緩めたくなかった。腸からのSOSを無視してしばらく突っ走った。

トイレはたくさんある。もっとやばくなったときもすぐトイレに行けるだろうと思ったのだ。

これが間違いだった。

上越市をスイスイ進んでいると、急に店がなくなり、左手にまた海が現れた。空よりも濃い青色をした海は穏やかで素晴らしかったのだが、いかんせん結構お腹が痛い。コンビニはないかと探しているが、見渡すところ、コンビニはおろか民家すら見当たらない。

左に海、右に山、真ん中に便意である。

しかも、そういうときに限って僕の目の前に峠が現れた。

坂道自体は穏やかだったのだが、お腹は全然穏やかじゃない。夕立の前の暗雲のように、踏ん張っていると腹がゴロゴロ言い出す。野糞は選択肢になかったので耐えるしかない。いや、海に糞を放ち、海水で尻を洗うのも手だったのかもしれない。

だが僕は今、山の中だ。腹がゴロゴロギュルギュルいうのを「はぅ……はぅあ!……はぅ……はぅうう!」と必死に堪えて自転車をぶっ飛ばすしかないのだ。ドゥマイベストである。ビッグバナーナが顔を出しそうであるが、まだ諦める(お漏らし)には早い。

限界のときこそ人間の真価が発揮されるのか、僕は峠道を自分でも驚くほどのスピードで駆け抜けた。

というか1日130キロくらいを5日も続けたら誰でも筋肉がつく。僕の太ももは筋肉がつきすぎて中央部分が隆起していた。だからペダルがめちゃくちゃ軽く感じられるのだ。サイコンをみると時速46キロを記録している。

便意×筋肉でこのスピードが出せるのだ。

泣きそうになりながら上越市を超えて柏崎市に入った。するといきなり道の駅のような建物が現れた。人気スポットなのかかなり混雑していたが、自転車を止めると荷物のことなど忘れて人の群れの中に駆け込んだ。

店の中は人が多い。汗だくになりながら人混みをかき分け、トイレを探しながら走った。そしてトイレを見つけるや否や「トイレが空いていますように、トイレが……空いて……ますようにィ!」と思いながら扉を開ける。

よかった!トイレは誰もいない!新潟県!最高!

僕は新潟県のような形をしたバナナを放出する。達成感が半端じゃなかった。この旅に出て一番の達成感かもしれない。峠を全力で駆け抜けた自分の姿を思い出して少し笑った。

僕が立ち寄ったのは「日本海フィッシャーマンケープ」という場所だった。新鮮な魚や野菜が売られていて、食堂などもある。サバサンドが名物らしい。

僕はサバの臭みが苦手だったのだが、名物なら食べてみようと思って買ってみた。日本酒を飲めるようになって以来「嫌いなものも実は美味しいのかもしれない」という考えになりつつあったのだ。

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サバサンドというだけあって、パンにサバのフライと玉ねぎ、レタスが挟まれているだけである。

味はレモンと塩というシンプルなもので、美味しいといえば美味しいが「これが名物はちょっと弱いような……」という気がしなくもなかった。貝の串が売っていたのでそれも食べた(そっちの方が美味しかった)。




また走り出し、柏崎市街に入った。国道の両側に立ち並ぶチェーン店をみながら進んでいく。

ここ数日で気づいたのだが、市街地の国道沿いはどこも同じような景色だ。国道に入るとチェーン店がズラーっと並んでいて、少し抜けると「イオンモールまで●km」という看板が現れる。僕の地元もそうだが、これまでにみてきた街も同じような景色である。

しばらく走ると国道116号線に変わった。

今日は長岡市の道の駅で野宿すると決めていたので、そこまで走る。海側はアップダウンが激しかったが、内陸側はそんなことないといいな〜と思っていたが、ものの見事に裏切られる。アップ・エン・ダウンの連続だ。

疲れたので、コンビニでガリガリ君を買って休憩した。広い駐車場でガリガリ君を食べながら、ボーッとする。

広い青空、周囲は田んぼばかり。たまに目の前を、2両ほどの電車がのんびりと走っていく。疲れていたからか、ボーッとすると眠くなってきた。

そして日向ぼっこしていると、そのまま爆睡してしまった。目覚めたときには1時間が経過していた。日向で寝たからか、喉がカラカラだ。

水を飲もうと体を起こすと、僕はコンビニの駐車スペースで、車止めを枕にして寝ていたことに気がついた。僕の両隣には車が駐車してあった。僕も自分の体を駐車していたのだ。

かなり恥ずかしかったのと、店に申し訳ない気持ちになり、そのコンビニでスポーツドリンクを大量に買い込んで出発した。昼寝をすると、元気が出る。

陽が暮れつつあった。

その後もアップダウンが続いた。近くにスーパーがあったので地元で採れた桃を買う。めぼしい食材が他に見当たらなかったので、今日はそれを晩ご飯にすることにした。柔らかかったのできっと食べ頃だろう。

「道の駅 良寛の里 わしま」に着いた。WANIWAではない、わしまである。すでに日が落ちかけており、施設の中には誰もいなかった。

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(過去の自分よ……もっと「わしまっぽい写真」はなかったのか……?)

テントをはり、今日着た服を洗った。そしてシャワーがあったので、シャワーを浴びた。

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(シャワーである。ていうか、こんな写真どこでも撮れるだろうが!街の景色を残せよ!)

タバコを吸ってぼーっとしていると、自転車で旅をしていると思しき男性が入ってきた。彼は阪南大学の学生らしい。遠くでテントを張っていたが、僕に気づくと話しかけてくれた。

彼と桃を食べながら話をした。桃はあまり甘くなかった。しかし桃にかぶりつくのは贅沢である。話を聞いてみると、彼は大学を休学して、1年をかけて日本を旅する予定なのだという。僕は2ヶ月で一周するが、1年も旅するのはそれでこそ大変だと思う。

旅について話をすると、彼も「自分探しだろってバカにされるんすよね〜」と言った。だけどその後、彼は「僕は自分探しじゃなくて、人生で一度、旅に熱中したいだけなんです」と言った。僕もまったく同じ気分だった。

確かに旅というと誤解されがちだ。友達とのんびり旅行もいいけど、自分を試す旅があってもいいと思うのだ。例えば自分の便意の限界を超える旅とか。まぁその人の自由だけどな。

ジュースを飲みながら話をした。だが2人とも野宿のせいで体内時計が地球水準になっていることもあり、夜の9時にはそれぞれのテントに戻り、爆睡した。明日は新潟市内に向かう予定だ。

今日は141キロ走った。

生きます。