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自転車日本一周の旅13日目

朝7時、2日間滞在したフェリーの待合所をあとにした。津軽海峡フェリーの待合所は本当に居心地がいい。住もうと思えば本当に住める。家がなくなったらここに来ようと思った。

函館市街に出て、自転車を進める。2日間の休息に加えて、北海道は道がやたら広く、開放感があったのでスイスイ走ることができた。若干体が右に傾いているので違和感があったが、そこまで支障もなさそうである。

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(名曲誕生の地らしい。私のお尻の前でお米炊かないでください、の歌である。)

1時間ほど走り、セイコーマートに立ち寄る。北海道といえばセイコーマートだ。

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やきそば弁当とソフトカツゲンを買い、朝食を済ます。1.5リットルのリボンナポリンを後部座席にくくりつけ、炭酸を抜きながら走った。炭酸の抜けたジュースは栄養補給にもってこいだ。

山道を走り、いくつかのアップエンダウンをクリアすると右手に大きな海が現れた。日本海で海を見飽きたはずだったが、改めて見ると、やっぱり海は素晴らしい!

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曇っているのが残念だけど。




しばらく走ると長万部の方に近づいてきた。ちょうまんべ、ではなく「おしゃまんべ」である。

広い道を相変わらず飛ばしていると、チャリに乗った人が対向車線を走ってくるのが見えた。

そのチャリダーは僕に気づくと、ニッと笑って親指を立ててくれた。

「おお!」と思いながら僕も親指を立て返す。僕はすれ違いながら「うおお……!本当にやるんだ……!」と感動した。

F先輩に聞いたことがあったのだ。北海道では、チャリダーやバイカーがすれ違う際、「旅を楽しもうぜ」的な意味合いで親指を立て合うということを。

どうやら、あれはマジらしい。

走っていると対向車線をバイカーが走ってきた。ちょっと恥ずかしかったが、勇気を出して僕も親指をグッと立てて見せた。

すると、ひげまみれの強面のおじさんも、笑顔こそ見せないもののグッと親指を立て返してくださった。

「うおお!」テンションが上がった。調子に乗った僕はその後ろをきたチャリダーに親指を立てて見せた。チャリダーも親指を立ててくれる。うおおおお!

するとその少し後ろにもチャリダーがいて、そのチャリダーも親指を立ててくれた。僕も親指を立て返す。そのチャダーのすぐ後ろには別のチャリダーがいて、そのチャリダーが僕の親指に気づいて親指を上げた。僕も親指を見せると、そのチャリダーの後ろにもチャリダーがいた。また親指を見せ合う。

「ちょっと多いな……」と思いながらカーブを曲がった。

するとまっすぐの一本道になったのだが、対向車線のちょっと先で、チャリダーのすごい行列がこちらに走ってくるのが見えた。数を数えてみると20人はいそうである。

ひえっと思ったときには遅かった。1人が僕に気づいて親指を見せる。と、その後ろの人が気づいて親指を見せる。またその後ろの人が気づいて親指を、そのまた後ろの人が気づいて親指を、また親指を、そして親指を、それから親指を……というのが際限なく繰り返された。

先頭の人と目があい、親指を見せ合った以上、途中の人をシカトをするわけにもいかない。僕は親指を数分間空に掲げ続けた。

大学のサークルの合宿っぽかったので、集団で走る彼らを責めることはできない。だがそれで僕は親指の見せ合いにかなり飽きてしまった。なので次からはチャリダーやバイカーとすれ違っても、気づかないフリをした。




しばらく走っていると、大型のバイクが僕を追い抜かしていった。マッチョのおじさんライダーが、後ろの僕に向かって大きく腕を伸ばして親指を見せてくる。

「またかよ!」

悩んだものの、同じ車線なら仲良くした方がいいだろう、という結論になり、親指だけはもう見せたくなかったが、一応気を遣っておじさんに向けて親指を掲げた。ライダーはかなりグッと力を込めて親指を見せてきたので、カッコつけているつもりなのだろう。

だがその瞬間信号が赤に変わり、おじさんのバイクが止まった。僕は親指を掲げたまま、オジサンの横に止まった。

いざ親指の見せ合いっこをしても、横に並んでみるとけっこう恥ずかしいものである。おじさんは僕の方を見ず、ひたすら前を見ていた。だがグラサンの向こうからこっちをチラチラ見ているのがわかる。意外とおじさんは小心者だ。

信号が青になった瞬間、バイクはものすごいスピードで走り去ってしまった。僕はそれを見て、金輪際親指を掲げるのはやめようと心に誓った。もう、お腹一杯だ。

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長万部についた。追い風ということもあり、午前中で100キロを走破していた。

昔、家族旅行の際に入った食堂の前を通ると閉店していた。姉が海鮮丼を頼んだら、マグロが凍っていたお店だ。僕は醤油ラーメンを食べたがかなり不味かった記憶がある。というかなんで北海道で醤油ラーメンを食べたんだ、昔の僕は?

セイコーマートで100円のパスタを2つ食べて出発した。海岸線をひたすら真っ直ぐに走る。

すると晴れてきた。やっといい景色になったので、立ち止まって写真をパシャリ。

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走ってきた道を見て、「うおおー!」と思った。なぜかテンションが上がって「ヤッホー!」と叫んだあと耳を澄ませた。聞こえるわけがなかった。

この写真をみると、北海道の道がいかにまっすぐに続いているのがおわかりいただけるだろう。

このあと、峠に入ったのだが、その辺りからだんだん向かい風が吹くようになった。次第に強風が体にぶつかるようになり、思い通りに進まなくなってきた。風を遮るものがないから、直に風がぶつかるのだ。

ヒーヒー言いながら、途中何度も休憩して60キロ近くをなんとか走破した。秋田県のときは心が折れたが、少しずつ体力がついてきたらしい。なんだかんだ楽しみながら走り切れた。

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そして夕方、今日の目的地である伊達温泉に到着した。温泉は地元の方でごった返している。3日ぶりの風呂は最高だった。

露天風呂は周囲をすだれに囲まれており、ジジイのフグリしか見えなかったが、最高だった。

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汚れと疲れを落とし、風呂上がりの牛乳もぶち決めて、今日の宿までゆっくり走る。

だが5キロほど走ったあたりで、G-SHOCKを脱衣所に忘れたことに気づく。「チキショー!!」と叫びながら汗だくで取りに帰った。

脱衣所にG-SHOCKはなかった。終わった、と思いながら念のため店員さんに訊くと、「ああこれですね」とカウンターからマイG-SHOCKが現れた。親切な方が届けてくださったらしい。ありがとうございます。

結局汗だくで温泉をあとにし、汗だくのまま今日のホテルに向かった。

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今宵の朕の宿で候。道の駅に泊まることになったのだが、城みたいになっていた。近くのスーパーでサッポロクラシックと刺身を大量に買い込んで晩酌をする。

びっくりドンキーがあったのでハンバーグの誘惑に負けそうになったが、なんとか我慢した。




1日ひたすら運動をしたあとに飲むサッポロクラシックの美味さは言葉ではうまく表せない。よくビールを「水みたいに飲める」とはいうが、疲労感とサッポロクラシックの組み合わせは、その次元すらも超えていた。

もはや空気みたいだった。僕は空気みたいにサッポロクラシックを空にした。

そして160キロを走破した達成感を胸に、旅を再開できたことに感謝しながら、深い眠りの世界へと入っていった。

生きます。