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自転車日本一周の旅14日目

国道沿い、しかも飲食店に囲まれていることもあって、朝になると車が走る音やカラスの鳴き声がひどかった。まったく北海道らしくない目覚めだと思った。だけど外で吸い込む空気はやっぱりおいしい。

寝ぼけた体をゆっくり起こしてから、サドルにまたがった。

近くのセブンイレブンでパンを食べていると、おじさんに話しかけられた。北海道を走るレンタカーには気をつけろとのこと。おじさん調べでは、北海道で事故っているのは大抵がレンタカーだそうだ。レンタカーじゃなくても車には本当に気をつけた方がいいと思う。

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向かい風が強かったが、カラッと晴れていて気持ちよかった。風も、本州よりも乾いているような気がする。

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大学の後輩から連絡がきた。後輩は北海道の室蘭出身で、行ってほしい洋食屋があるという。彼はグルメなので、ぜひ行きたいと思った。

だが、体の調子がよすぎたおかげで10時前には室蘭に着いてしまった。お店の開店は11:30から。時間をつぶしてもよかったのだが、先に行きたくてウズウズしていたので先に進むことにした。洋食屋は彼女ができたら行こうと思う。S、教えてくれてありがとう!

向かい風は変わらず強いが、それでも負けじとペダルを踏み込む。

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自分との戦いが続く。辛くなったら海を見た。海も空もとても広く、青い。晴れやかな気分になる。身体中が乳酸でパンパンになるのを感じながら、少しずつ進んでいく。

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白老でヒーヒー言っている横で馬が美味しそうに草を食べていた。

途中、セイコーマートでサラダとカレーライスを食べ、ソフトカツゲンを飲んで体力を回復した。ソフトカツゲンはとてもおいしいぜ。ソフトカツゲン、最高!

午後2時すぎ、苫小牧市に入った。

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母校である駒大苫小牧を通る。自慢ではないが、僕はこのチームで背番号1を背負い、夏の甲子園に出場し、ハンカチ王子と決勝戦で投げ合ったことがある。



市街地に入り、国道と道道の間にある小道を走った。両サイドに濃い葉が生い茂った木々が立っていて、そこから漏れる太陽の光が柔らかかった。穏やかな街だと思った。このあたりから追い風に変わる。

市街地を抜けて林の中を走っていると、一軒だけお菓子屋さんがあった。駐車場がやけに広い。午後3時ということもあり、おやつ休憩をとることにする。ソフトクリームを買って食べた。濃厚で美味しかった。なぜかコーヒーが無料で飲み放題だったので、飲みながらチルする。

リフレッシュしてから出発した。左手に新千歳空港を見ながら、今日の宿である千歳駅近くの道の駅へ。駅前に大きなスーパーがあったので、道の駅で休憩してからそこに飯を買いに行こうと思った。

しかし、いざ道の駅がある場所に到着すると更地になっていた。調べてみると、どうやら改築するらしい。当たり前のことだが、何も聞かされていなかった。

10キロ先の恵庭市にも道の駅があるというので、今日はそこで寝ることにした。

千歳駅を超えて少し走ると、ポテトチップスのスメルが街に漂っている。みると、カルビーの工場があった。ポテチをそこで作っているようだ。ポテチのグッドスメルが味わえるなんて。ポテチ大好きな僕としては、これにはゴンフィンガーせざるを得ない。

途中、スーパーでお弁当を買った。スーパーの中には迷彩服を着た人がたくさんいた。どうやらここらへんには駐屯地があるようだ。迷彩服を着ているだけなのに、ひどく遠い世界で生きる人々のように思えた。

少し走り、今日の宿「花ロード えにわ」に到着。なぜ花ロードなのかは明日発表するが、この道の駅はキャンプ禁止らしい。「テントを張らないでください!テント厳禁!」と書いてあった。

ルールは守ったほうがいいだろう、ということで今日はベンチの上に寝袋を敷いて寝ることにした。

ベンチに座り、さっき買った弁当を食べる。カレーコロッケだと思って食べたものがカボチャコロッケだった。カレーコロッケと予想して白飯を余らせていたので、カボチャコロッケでお米を食べないといけなかった。これは結構しんどいことだ。できなくもないが、進んでやりたくはない食べ合わせである。

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晩飯を食べ終わり、タバコを吸いながらボーッとしていると、キャンピングカーからおじさんが降りてきた。北海道の道の駅には、必ずと言っていいほどキャンピングカーが停まっているのだ。

おじさんは水道で小さなタンクに水を入れると、それを持って車の中に入っていった。そして車から出てくると、僕のもとに歩いてきた。

「こんばんは。自転車で旅でもしてるの?」

チェックのシャツを着てメガネをかけた、優しそうな人だった。そうです、というとおじさんは隣のベンチに腰を下ろした。おじさんは現在65歳。毎年6月になると奥さんと北海道にきて、キャンピングカーで寝泊りしながら3ヶ月間を過ごすそうだ。

「優雅な人生ですね」と言うと、

「全然。過酷だよ」と言われた。

聞いてみると、おじさんは温泉マニアだという。避暑のために北海道に来ては、あちこちの温泉を巡る旅をしているのだそうだ。

今までに入った温泉の数は700以上だという。

ん?温泉に行くのが過酷……?何言ってんだ?

と思っていたが、700の温泉の中には“未開の秘湯”というものも多く含まれているらしい。クマが多く出没する場所にある温泉に入ったり、秘湯を求めて崖を登ったりしてきたのだという。想像以上に危険な温泉旅行だった。

「帰るときに汗かかないんですか?」と訊くと「めちゃくちゃ汗だくになるよ」と笑っていた。何のために風呂に入るんだ?

好きだから面白いんだよね、とおじさんは笑った。それ、そのくらいの年齢のときにいいてぇ〜、とまた思った。

65歳になっても好きなものがあるって、なんと素敵で幸せなことなんだろう。いいなぁ。

1時間近く話をしていると、車から奥さんが降りてきた。おじさんは腰を上げる。「じゃあ、気をつけてがんばってね」「お父さんも気をつけてください」と言って別れた。

明日は札幌に入る。札幌で1日を過ごす予定だが、どこで寝るかは決まっていない。札幌で野宿したら、さすがに怒られるだろうか?

テントがないと、やけに蚊に刺される。我慢して、無理やり寝ることにした。

生きます。