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給与も休みも待遇も大手には敵わない串カツ屋が、優秀人材を採用成功。そして、お店が劇的に生まれ変わった話。


こんにちは、採用コピーライターのたいすくです。
今回は、東京の人気エリアに店を開いている串カツ屋さんの採用をお手伝いしたときの話。求人広告のたった1フレーズが1人の人生を変え、たった1人の入社がお店を変えたという話です。

そこにあったのは、どこにでもある串カツ屋

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求人広告制作の依頼を受けたとき、僕は必ず「現場」に足を運ぶことにしている。求人広告は人の人生に大きく関わるもの。だからこそ、自分の五感をフル活用して情報を集めて求人広告をつくるのが、僕の信条なのだ。

この時も、串カツ屋さんT(田中さんではありません)の店舗のほうにうかがい、取材させていただくことになった。

店に入って、驚いた。

よく言えば、味がある。悪く言えば、ボロい。求人広告の通説なのだが、洗練されたオシャレなお店は応募を集めやすい。その真逆は応募が集まりにくい。この串カツ屋さんの店内の様子を見て、「こりゃ、難しいかもな…」と思った。
 

給与も、休日も、福利厚生も、大手に敵わない

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取材に応じてくださったのは、社長さん。最初に求人広告制作に必要な求人データをいただき、最初に目を通す。

給与は大手串カツチェーン店の8.5割。休日は月5~6日。一般的には少ない部類。福利厚生は、昇給年1回、賞与(業績による)、社会保険完備、交通費支給。最低限のものは押さえられているものの、他の飲食店に比べると見劣りしてしまう。

社長さんが語る。
「今回募集したいのは、店長候補です。今お店は、前任の店長さんが辞めて以来、アルバイトスタッフだけで回しているのですが。やっぱり店長がいないと売上は下がっていくばかりなので…」

「店長として活躍していただくことが前提で、最初はスタッフからスタートする、という認識でよろしいですか?」
「はい。その通りです」

飲食店の求人は「未経験者歓迎!」を掲げているものが多い。しかし実際のところ、選考に残るのは飲食業経験者であることがほとんどだったりする。お店が未経験者をはじいているのではない。面接前でほとんどの未経験者は離脱していくのだ。やはり、飲食の仕事はアルバイトなどで経験していないとできるイメージが湧きにくいらしく、人を選ぶ業種なのだ。

なので、今回の求人もターゲットは飲食業経験者になると予想された。他に正社員がいない状況から考えて、今回入社する人はアルバイトの管理もするため、やはり経験者でなければ業務遂行は難しいだろう。

経験者を呼び込む求人に欠かせないのは、「飲食業経験を高く評価する」という姿勢だ。それは給与や年収、そしてミッションに反映される。職種名が店舗スタッフ(店長候補)の場合、飲食業経験者には敬遠されやすい。経験を買ってくれるように見えないからだ。さて、どうしたものか。とりあえず、僕は社長にお話を聞いてみることにした。
 

東京の人間が作る、大阪の串カツ屋

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「私は生まれも育ちも東京でね。友人に連れられて大阪の新世界にある串カツ屋さんに初めて行って驚いたんだ。こんなに美味しいものがこんなに安く食べられるのかって。何よりお店の雰囲気が良かった。知らない人たち同士が、お酒を飲んで串カツを食べて、まるで家族のように心のカベを取り払って、この場にいる時間を楽しんでいる。アットホーム。こんなお店を作りたい。東京に出したいと思ったのが、キッカケなんだ」

そして、社長は大阪で串カツ屋さんを営んでいた人を採用し、今のお店を開いたのだとか。ところが、その前任の店長さんはご家族の看病のために大阪に戻らなければならなくなって退職することに。以来、お店はアルバイト中心で回して、たまに社長がお店に入ってお店を回しているという。

「正社員が1人入ってくれるだけで、かなり助かるんだよ」
社長は笑っていた。

その後、店員がやる仕事についてお話を聞き、厨房なども見せてもらい、仕事の流れを把握。求人広告を書けるだけの情報は集まった。書けるには書けるが、このままでは採用上の競合(求人サイト上でのライバル会社)に勝てる要素がない。僕が関わるほとんどの案件は、打ち合わせの時点で採用の方向性を決めてしまい、確認の意味で企画書を提出するという流れだ。しかし、この求人は勝てる戦い方が見えなかったので、「ちょっと考えさせてください」と保留にさせていただいた。

さて、どうしたものか。

求人広告コピーライター、西へ東へ

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取材した翌日の土曜日、僕は大阪に向かった。
社長が感動したという大阪・新世界の串カツ屋さんを実際に見てこようと思ったのだ。この往復の新幹線代は自腹である。ぶっちゃけ、お小遣い制の身にはつらい。会社からもこういう働き方は推奨されていない。ただの自己満足だ。しかし、どうしても見ておく・感じておく必要があると思ったのだ。こういうところ、自分でもスマートじゃないとつくづく思う。

日帰りで帰ってきた。ちょっと食べすぎた。もう少し食べていたら食いだおれになっていただろう。

別の日、再び先日取材した串カツ屋さんに訪れた。今度は客としての訪問。職場の仲間を誘って、結構飲んで食べた。

その甲斐もあって、見えてきたことがあった。そこで、社長にアポイントを取る。二度目の打ち合わせ。僕はこう切り出しました。

「社長が本当に採用したいのは、“店長”じゃないありませんよね?」
 

採用とは、会社を前進させるためのもの

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大阪にまで足をのばして分かったこと。それは「社長は大阪の串カツ屋さんという空間を、東京に持ってきたい」ということ。東京風にアレンジした店ではなく、大阪の人が「懐かしい」「これだよ、これ」と思えるような店にしたかったのだ。

しかし実際のお店は、社長が叶えたい理想の店にはなっていなかった。前任の店長が志半ばで退職したため、お店の大阪化は途中で止まっており、東京出身の社長、アルバイトたちでは、大阪空間のお店を創っていくことができない。しかし、人手が足りない状況をなんとかしたいと考え、社長は「とりあえずお店を任せられる人」を採用しようとしていたのだ。

「僕の意見を述べさせていただきますと、この店に今必要なのは、お店を回せるだけの【店長候補】ではなく、社長が実現したいと思ったお店をカタチにしていける【店長(飲食事業部長候補)】ではないでしょうか」

たしかにその通りだと、社長はうなづいた。

店長として即戦力で働くことができ、かつ、お店を大阪空間にしていくミッションを遂行できる人を狙うとなると、給与額が重要になってくる。僕は考えてきた広告設計とクリエイティブアイデアを社長にお話しして、求人広告に記載する給与額アップをお願いした。言うほどカンタンなことではない。しかし、社長は企画に賛成していただき、店長経験者にふさわしい金額まで上げてくださることを約束してくれた。

よし、なんとかなりそうだ。

オール大阪弁の求人広告、爆誕!!

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僕が作ったのは、ほぼすべての文章が大阪弁という求人広告だった。

ターゲットにしたのは、「もともと大阪のほうにいたけれど、現在は東京で働いている飲食業の店長経験者」

転職することでターゲットが得られるベネフィットは、「東京に“リトル大阪”といえるお店をつくりたいので、大阪を知っているあなたにすべてを任せたい」というミッションとポジション

広告では次のようなことを謳った。

夏休みや正月に向こうに帰って、親しい友人たちと会って、普段使っていない言葉も自然に出て、「ああ、この感じ。故郷に帰ってきたって感じだ」と思ったりしていませんか。それって普段は、外行きの仮面を被っているようなものではないでしょうか。想像してみてください。東京のど真ん中で、周囲の視線を気にせず、故郷にいたときの自分を出せるような“場所”があったとしたら…。私たちが作りたいのはそんなお店。東京に“リトル大阪”を作りたいのです。しかし今、社内には“大阪”を知る者がいません。「この店は大阪だ」と思ってもらえる大阪空間をつくるため、内装、メニュー、サービスもろもろ、あなたの知恵をお貸しください。この店は、あなたにとっても、いつも等身大の自分でいられる場所になるはずです。

求人広告では応募者の出身地限定をすることはできない。差別につながりかねないからだ。この求人広告では、広い地域で使われる大阪弁を使うことで、特定の出身地限定にはならないようにしつつ、伝わる人には伝わるように知恵を絞った。

また、ターゲットが大阪を懐かしいと思えるように、同時にお店が目指す世界観を伝えるために、大阪を象徴するキーワードやコテコテのギャグを求人広告の至るところに散りばめた。大阪弁とキーワードとギャグは、大阪出身者3人による厳しいチェックにより推敲を重ねた自信作だ。

結果、求人サイト上でも異彩を放つとともに、数ある採用上の競合である飲食店求人に対してUSPをつくることに成功した。そして、まあ当然の結果なのだが、一般的な飲食店スタッフ募集の平均値を大きく超える応募が殺到。その中から優秀な方の採用が決まった。
 

大阪出身 29歳女性 飲食店の店長経験者を採用!!

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彼女は、大阪生まれ、大阪育ち。大学卒業後、上京して都内で店舗展開している、ある飲食店に勤務。順調にキャリアを重ねて、数年後には店長に。彼女としては、現場経験を活かして店舗開発に移りたいと考えていた。しかし、店舗開発の狭き門。その会社では現場から移った人間はこれまで一人もいないそうで、人事にかけあってみたものの「その予定はない」とのこと。転職サイトで探してみるものの、店舗開発を募集しているところは少なく、あったとしても店舗開発経験が問われるものばかり。自分には強みがない…と思っていた時、この求人広告に出あったとか。

「求人広告を読んだ時、“これは私じゃないか!?”って驚きました。そして、大阪の人が東京でくつろげる場所を作るという話は、ニーズがあると思いましたし、自分が客の立場だったら通います。常連客を作りやすいコンセプトにも魅力を感じました。私は学生時代、串カツ屋さんでアルバイトをしていた経験があり、ここでなら強みになるとも思いましたね。全部大阪弁で書かれた求人広告なんて初めて見たので(笑)、吸い寄せられたというか、ついつい読み込んでしまいました」

この方は、面接に「私にはこういうアイデアがある」とパワーポイントを作ってきてプレゼンしたそう。そのアイデアも、これまでの店長経験もあってか現実的であり、アルバイトスタッフへの下ろし方も具体的な施策に落とし込まれていたそう。

「こんないい人が来てくれるとは思わなかったよ!」と、社長は大変喜んでくださいました。

さいごに

求人広告コピーライターの仕事は、本来知り合うはずのなかった仕事・会社と人を結びつけること。人にはそれぞれ、その人らしさを存分に発揮できる“適所”があり、会社が実現したい未来を叶えるために必要な“適材”があります。

青臭いことを言いますが、僕はこのような出あいを増やしていくことが、仕事をポジティブに捉える人が増え、企業が成長していき、日本を豊かにしていくことにつながると考えています。

この求人広告で採用された女性は、アルバイトスタッフたちにもすぐに打ち解け、店内での接客用語はすべて大阪弁にするため勉強会を開いたり、大阪風のお客様との接しかたマニュアルを作り、大活躍中とのこと。いい場所・いい仕事が見つかって、本当によかったなぁと思います。


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