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週1休みだった居酒屋さんを、広告コピーで完全週休2日制の会社にした話。

こんにちは、採用コピーライターのオヤマダです。
採用って「未来を創る仕事」だとつくづく思います。人がいれば、できることが増えるし、選択肢が広がりますから。でも、ただ人を増やせばいいわけじゃありません。その会社に、その仕事に、合っている人を採用できなければ意味がないと思うのです。

今回は、週1休みだった居酒屋さんを、広告コピーで完全週休2日制の会社にした話です。本当は週1休みだけど求人広告で完全週休2日制と書いた、といった話ではないのでご安心を(笑)。

とある居酒屋さんからの採用相談

今から少し前の話になりますが、とある居酒屋さんからの採用相談がありました。居酒屋というよりも小料理屋さんといった感じの佇まいで、店主とアルバイト数名で切り盛りしているお店だったんですね。

お悩みの内容は、求人広告を出してもまったく応募が来ないこと。

僕はこれまでの媒体に掲載された求人広告を見て、「正直、厳しいな」と思いました。というのも、飲食店の求人の場合、チェーン店はまだしも個人経営のお店の場合、応募を集めるのが難しいのです。求職者は、経営の安定性や福利厚生の充実ぶり、お店がきれいかどうか、といったところを見て判断する傾向があります。

この居酒屋さん(B居酒屋とします)の場合、

・勤務地…………………東京のとあるところ
・給与……………………同業より数万円低い
・休日休暇……………週休1日
・福利厚生……………最低限
・お店の佇まい……古い小料理屋風

都内のそこそこいい場所にお店はあるのですが、飲食店の求人としてはどうしても条件面で採用上の競合(同時期掲載のライバル)に比べると見劣りしてしまいます。アルバイトの募集ならまだしも、正社員募集だとすると、そのまんま求人広告を出したら応募ゼロもあり得る話でした。

なんとか突破口になる情報はないものか。僕はこの話を持ってきた営業さんに話を聞きました。すると彼は少し考えて、何か思い出して、こう言いだしました。

「この店、ロックなんですよ!」

小料理屋風居酒屋の思わぬ正体

こちらのお店、ドラマ『深夜食堂』のような、ちょっと古い小料理屋然としているのですが、お店の端にはBOSEのスピーカーが設置されていて、洋楽がガンガン流れているのだそうです。

「?」

最初は何を言っているのか分かりませんでした。手元にある求人広告に乗っている写真は普通の小料理屋みたいな店内……いや、よく見ると、そこそこなサイズのスピーカーが写っているな(笑)

なんでも、このお店はもともとは店主のお母さんのお店だったとか。その時は本当に小料理屋さんだったそうです。それを息子である店主が受け継いで、店主が洋楽が好きということもあって、洋楽をガンガン流す謎の小料理屋風居酒屋になったとのこと。お店のあるエリアは、スタジオやライブハウスがあることから、プロを目指すバンドマンたちやそのファンたちでお店は賑わっているようでした。

ところが、求人広告のどこにもそんなことは書かれていません。「ここが突破口になるかもしれない」と、僕のカンが告げています。そこで、店主にくわしい話を聞きに行くことにしました。

ロックスターの夢破れた男

こちらの店主、昔、ロックスターを目指していたそうです。10代の頃、ギターだけをもって単身渡米。英語もろくにしゃべれないのに、レストランの皿洗いで食いつなぎながら、路上ライブをやったりして、いつか大観衆の中、ライブをすることを夢見ていたそうです。

アメリカで10年以上がんばって、音楽系の仕事に就くこともできたそうですが、同時に自分の限界が見えてしまったそう。やるだけのことはやった。でも、自分はロックスターになれなかった。悔しいという気持ちもあったそうですが、やり切った気持ちのほうが大きかったと言います。それで、30歳を目前にして日本に戻り、就職活動を始めたと言います。

ところが、30歳まで一度も就職経験がなく、ずっと音楽をやってきた男に、世間は厳しかったそうです。応募しても書類選考で落とされる。面接まで行っても音楽活動の話で面接官の表情が曇る。そして自宅に届く、不採用通知。店主の胸に言いようのない怒りが込み上げてきました。

「自分の夢に正直に生きて、一生懸命打ち込んできたことを、世間では遊びという。遊びの気持ちなんか1ミリもなかった真剣な日々を、誰も理解してくれない!」

そんな店主の思いを唯一理解してくれたのは、小料理屋さんを営んでいるお母さんでした。

「働くところがないなら、お母さんのお店を手伝いなさい。ちょっとした料理くらい作れるように教えてあげるから」

こうして店主は、お母さんの小料理屋さんを手伝うことになりました。お母さんの指導は大変厳しかったそうです。小さいとはいえ、お店を一つ任されるということは、お店に来てくれるお客さんたちの期待に応え続けること。そこに妥協はあってはならない。店主は知らなかった母の一面を知るとともに、料理のプロとしての仕事のやりがいに目覚めていきました。10年近くにわたって店主は真剣に料理を学びます。その仕事ぶりはお母さんも認めるまでになり、お母さんが体調を崩されたタイミングで、お店を譲っていただくことになったそうです。

ロックを流す小料理屋風居酒屋、爆誕

そんなわけで、母親から受け継いだお店を切り盛りしていた店主。そんな店主の目に止まったのは、近くのスタジオやライブハウス帰りのバンドマンたちの姿でした。夢を見ながらも、どこか将来への不安を持っている表情や佇まい。

「他人とは思えねえ!」

そんな思いが店主の全身を駆け巡りました。

自身の体験を振り返って、何が辛かったかというと、他人から理解されないことが一番辛かったこと。大人たちが自分たちの常識を押し付けてくるのが辛かった。大人の中にも、彼らの気持ちを理解してあげる大人がいてもいいんじゃないか。それができるのは自分なんじゃないか。そう思うようになったそうです。

店主は、「お店をロックが好きな若者たち向けのお店に変えたい」と引退したお母さんに許可を取りに行きました。お母さんは「もうあなたのお店なんだから好きにしなさい」と笑って許してくれました。

店主は割烹着を脱ぎ、バンドTシャツを着ました。お店にはスピーカーを設置し、開店から閉店まで洋楽をかけることにしました。小料理屋の店構えだけど、音楽やっている奴らが入りやすい空間を作ったのです。メニューもお金のないバンドマンたちに優しい料金設定に変更。彼らの生活の足しになるようにと、バンドマンのアルバイト募集も大歓迎にしました。

コンセプトを明確にしたのが良かったのでしょう。お店は180度方向転換したにも関わらず、スタジオでの練習帰りのバンドマン、ライブが終わった後のバンドマンやファンでお店は大賑わい。繁盛店になりました。

しかし、繁盛店になったものの、スタッフの多くはアルバイト。店主は毎日働かなければなりません。体力的にも週1回の店休日だけの休日では厳しくなってきました。さらに、2号店を作りたいという夢もあります。そう考えると、やはり正社員が必要です。

正社員を受け入れるための社内整備も進めましたが、お店は店主の道楽みたいな一面もあります。きちんとした人(料理の経験者)に応募してきてもらうには、ロックな部分を消したほうがいいのではないか。このような思惑で、あの無味無臭な求人広告が作られていたのでした。

店主は分かっていらっしゃらなかったようなので、僕は言いました。

「店主の思いや行動は正しいことだと思います。繁盛店になっている事実が、お客様から支持を得ているという何よりの証です。店主は料理経験者を求めていらっしゃるようですが、店主自身もまったくの未経験からのスタートですよね?御社の採用で大切なのは、店主の思いにコミットして、仕事と真剣に向き合う人を採用することだと思います。それが分かるような採用ブランディングをするべきですよ」

「音楽好きを応援するロック居酒屋」

僕は、このような(↑)採用ブランドを店主に提案しました。

お店のコンセプトでお客さんの集客は成功している。採用も同様のコンセプトを前面に出すことで、ヒットする人に訴えかけるようにすればいい。僕は、求人広告のターゲットを「店主と同じく、音楽の道で真剣にプロを目指していたけど夢破れ、就職活動に悩んでいる人」にすることを提案。店主の思いを求人広告に書きました。

その結果、狙った通りのターゲットから応募が殺到。一気に社員数が増えることとなりました(これはこれで大変だったそうですが)。人がそろったことでシフトが楽に回せるようになり、週休1日だったロック居酒屋は、完全週休二日制になったそうです。

入社した人の話を聞く機会があったのですが、その時にこんな話を聞かせてくれました。

「音楽に打ち込んできた経験を涙ながらに聞いてくれた店主を見て、自分も思わず泣いてしまいました。居酒屋でバイトして経験はあるけど、プロの仕事は全然違います。でも自分は、こんな年になっても職歴がない自分を受け入れてくれた店主に感謝しているし、一緒にお店を盛り上げていきたいと思っています」

さいごに

このB社様の場合、ある特定の人たちを引き付けるだけの魅力があったにも関わらず、自分たちではそれが分かっていませんでした。自分たちの魅力は自分たちでは見つけにくいのかもしれませんね。

僕がやったことは、会社の魅力とその魅力が分かるターゲットを見つけて、伝わりやすいように言葉を作ったことだけです。

会社の魅力というものは、経営者の真剣な思いと行動によって生まれるもの。その成果が表れる瞬間、多くの人たちから認められる瞬間に立ち会えるというのは、採用コピーライターという仕事の醍醐味かもしれません。

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