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【観劇レポ】エリザベート2022は永遠に

観劇レポ。今回は配信観劇、ミュージカル「エリザベート」福岡公演・前楽&大千穐楽です。

2022年10月から始まったエリザベートの旅路は、福岡の地で幕を下ろしました。僕個人としては、10,11,12月とそれぞれ1回ずつ観る機会に恵まれましたが、福岡まではさすがにチケット取れず…のところ、配信が決まって即両日購入しました。

ちなみに公演日は1/30と1/31。なぜこんなにnote書くのが遅くなったかと言えば、アーカイブ配信をずっと見続けていて、配信終了後エリザロスに陥ったからです

レポ、というより感想文ですが、エリザベート2022の総まとめ記事として。

1回目(東京)
2回目(東京)
3回目(大阪)

参考:過去観劇レポ

トート

まず語るべきは、なんといっても福岡公演のみ登壇の井上芳雄トート。全国のエリザファンの声を代表して言わせていただこう。なんで福岡だけなん!!

育トートが情熱的な紫のトート、ゆんトートが陰りのある蒼いトートとするならば、芳トートは黄泉の玉座に君臨する金色のトート。液体の金じゃないかというくらいのねちっこさ(褒めてます)と俺様感のあるトート閣下。まさに「世界は動いているんだ 俺の望むまま」って感じ。

「闇が広がる(リプライズじゃない1幕の方)」でのエリザベートを弄ぶようなニヒルな笑み、ドクターに成りすますシーンのしわがれた声、華麗としか言えないマント捌き、俳優・井上芳雄の深みが僕を包みましたありがとうございます。

うって変わって、YouTubeにも上がっているカーテンコール挨拶は、まあ軽快なトークでよくしゃべること。さすが地上波でMCを務めていることはあります。挨拶終わって下がりながら、ずっと万里生氏としゃべってるのを私は見逃さなかった。仲良しかよ…!(実際二人は仲良しです)

一方で大千穐楽はゆんトートでしたが、本当、俳優・古川雄大の成長には目を見張るものがあると思いませんか。さすが唯一、東京から地方3都市を引っ張ってきただけはある。東京→大阪→福岡大千穐楽と、どんどんパワーアップしていたのを感じました。陰のある役が似合うのは今更言うまでもないですが、声量や歌い上げる熱量は圧巻。

東京のみだった育トートももう一度見たい。いつものプリンス然とした「山崎育三郎」のイメージと違う面を見せてくれました。他2名と比べて情熱的でセクシーなトート。遠目にしかみてないから細かい表情を観れていないですが、表情に表れる感情の起伏は、3人の中で一番なだらかな気がする。秋に発売されるDVDは、育トート版で予約したのですが、とりあえず早く届いて。

シシィ

ネットニュースにもなっていましたが、長年エリザベートを務め上げてきた花總まり様がエリザベートの「旅を終えた」ということで、本公演をもって卒業されました。
2022年公演の開始当初から「花總まりの集大成」と謳われていたので、もしや、と思っていましたが、本当に卒業となるとは。

お花さまは、エリザベートが宝塚で日本初演を迎えた際の”初代シシィ”。東宝版には2015年からの出演で、宝塚時代から絶え間なくずっと、ではないにしても、実に四半世紀にわたってシシィという人物を作り上げてきた方です。

エリザベート=花總まりというイメージすらあるくらい、はまり役だったと思います。皇族・プリンセスを演じさせたら右に出る者はいないと言われる高貴さ。配信ではありましたが、まさにエリザベートとともに歩んできたその姿、集大成を拝見できて、感無量でした。

そしてWキャストの愛希れいか演じるちゃぴザベート。花シシィに肩を並べられる、超立派なエリザベートを作り上げられました。10月に観た時よりも12月は進化していたし、前楽では12月から更に進化を遂げた姿がありました。大阪では、お花さまの代役を務め上げ、カンパニーを座長として力強く牽引してくれましたが、そうした「死線を潜り抜けてきた」力強さを感じます。

繊細さや儚さは花シシィの魅力ですが、意志の強さや感情エネルギーはちゃぴザベートの魅力だと感じています。エリザベートのテーマである「エゴ」という点でも、花シシィは束縛される中で気付いた自我という感じですが、ちゃぴザベートは戦い続けて手に入れた自我という感じがする。

花シシィは卒業してしまうけど、ちゃぴザベートがこれからもこの作品を引っ張ってくれる、と思わせてくれるような最高のエリザベート。ちゃぴちゃんにはぜひ、今後もエリザベートを演じ続けてほしい。

フランツ

シュガンツ(佐藤さん)マリンツ(マイフェアプリンス田代万里生)のWキャスト。どちらもシシィへの愛に溢れているところは共通ですが、シュガンツは包容力がありながらも皇帝としての責務が前面に出ていて、マリンツは「”シシィ”への恋心」が前面に出ている真っすぐな矢印のような感じがします。

「皇后の務め」のあとの様子でも、シュガンツは「なぜわかってくれないんだ」というもどかしく口惜しい表情ですが、マリンツは突き放された悲しみと「まだ初日やしな…いつか分かってくれるかな」という思いが入り混じった表情。マイプリンスそんな顔しないで…。

どうしても佇まい・風格から、若いフランツはマリンツ、老いたフランツはシュガンツが似合うように思っていたのですが、若いシュガンツはおぼっちゃま感があって、老いたマリンツは年をとっても手をつないで歩きたいと思っているおじいちゃんのような感じで、似ているようで違う味がある。「夜のボート」は、お二人それぞれのバージョンを全世界に聴いてほしい。

今回2Daysで見比べて気付いたのですが、1幕終盤以降で纏う皇帝の衣装って、二人で左右対称なんですね。

ゾフィー

今回の公演では涼風ゾフィーと剣ゾフィー。

涼風ゾフィーはどこか厳格さのウラに、可愛らしさも感じられました。結婚式でシシィパパと躍る時の「え、こいつと踊るんか…」みたいな顔とか、「皇后の務め」ラストでフランツの言葉を聞いて満足気に頷くところとか、節々に感じるチャーミングさ。
「皇后の務め」の冒頭、少しだけ乾いた笑いからの「皇后は…どこ?」は、こめかみに青筋がちらつきながら笑顔で言ってるイメージ。まさか…寝てるんじゃあないんでしょうねえ…?みたいな。

2幕の「女狐めえぇぇ!」は配信を観ていた時、あまりのパワーに思わず笑ってしまったくらい強かった。「きれーーぇな女なら!他にもいますっ!」の言い方もプリプリしてて大好き。

剣ゾフィーは、「オーストリー皇族の義務」「ハプスブルクとは何ぞや」という厳格さがあって、シシィへの振る舞いも「自分も通ってきた道であり、ハプスブルクとして通るべき道」としての意志、あるいは執念に近いものを感じました。
「皇后の務め」で比較すると、剣ゾフィーはいるべき場所にいない若い皇后を叱責する感じ。シシィに怒っているようにも聞こえるけど、エリザベートを起こさないリヒテンシュタインにも怒っている感じ。苦労しますね、リヒテンシュタイン…。

ゾフィーはトリプルキャストなのでもうおひとり、香寿ゾフィーもいらっしゃいました。DVDで何度も観ているからか、僕の中ではゾフィーと言えば香寿さんみたいになっている。
皇太后という立場がもたらす余裕と、計画外の嫁に対する姑としての対抗心が見え隠れするゾフィー。低音から高音まで安定しているのもすごく聴きやすい。

ルドルフ

大人ルドルフは2幕中盤のみの出番、かつ登場から退場まで一気に夜を駆ける役。立石ルドルフはシシィの繊細さを、甲斐ルドルフはフランツの責任感を色濃く受け継いだような印象です。

お二人とも端正なお顔立ちと長い脚をお持ちなので、劇場の舞台ですごく映えます。若手アクターとして注目されているお二人ですし、ルドルフ役は出世ルートとも言われる(談:僕)ので、これからのご活躍にも期待。

ルキーニ

黒羽ルキーニ(通称黒まり)は、東京で観たときもエッジが効いたイタリアンなルキーニでしたが、千穐楽でいよいよ完成させたなという感じ。狂言回しとしてイキイキしているのが伝わってくる。歌のエッジ、という意味では東京の時の方がはっちゃけてましたが、エッジに振り切りすぎず、いい塩梅の着地点だったなあ。

上山ルキーニは、僕が上山さんの声が大好きというのを差し置いてもやはり歌がすごい。「ミルク」のラストのロングトーンは鳥肌もの。黒羽ルキーニとはまた違う、ちょっと世間を小ばかにしたようにニヤニヤする感じがいい味出してます。シーンによって垣間見える真っすぐで虚ろな目線(伝われ)も最高に痺れる。

配信を観て改めて

配信のいいところは、何度も観れることと、細かいところまで観れること。今までも2016年版のDVDで何度も観たミュージカルではあるのですが、生、DVD、配信でそれぞれカメラの視点が異なるので、毎回新しい気づきがあります。

結婚式でのシシィパパ&ルドヴィカの表情、シシィの行動にいちいちヒヤヒヤしているリヒテンシュタインの様子、トートダンサーの美しい肉体、革命家たちの整った顔(見るとこそこ?)。

何度も観れるという点では、今まで「精神病院」のシーンはイマイチしっくりこなかったのですが、ようやくこのシーンの意味が理解できるようになりました。
ともするとストーリー全体を通じて、「シシィかわいそう」という感じになってしまうところに、精神病患者を真の自由と捉えてしまうエリザベートのある種の傲慢さを描くシーンだと解釈すると、公共の福祉と言いますか、自由を追い求めすぎると人を傷つけるという難しさを感じ取れるシーンなのかなと思いました。

DVDになっている2016年版とは多少演出も変わっていると思いますが、長年愛される作品だけあって、何度観ても素晴らしい作品です。

エリザベートという物語

死(トート)との愛を巡るロマンス要素を絡めながら、自由と自分らしさを追い求める皇后・エリザベート、というのが中心テーマであり、やはり主人公・エリザベートに心を寄せる人も多いと思うのですが、アーカイブで短期間に何度も見直して、それだけじゃないなと思いました。

カーテンコールでゾフィー役の剣さんも仰っていましたが、「何かを守るために戦っている人の物語」。自由を得るための戦いに身を投じるエリザベートをはじめ、みんな戦っている。

伝統と権威を守るもの。歴史を背負いながら愛を守るもの。今日飢えてしまうかもしれない赤ん坊を守るもの。時代のうねりに気付きながらなんとかして国を守ろうとするもの。愛娘の幸せを願いながら自由な生活を守るもの。結婚を使って衰退した家柄を守ろうとするもの。民族の誇りを守るもの。

ハプスブルクという中世・近世の象徴とも言える帝国の斜陽を背景に、うねる時代のなかで生きる人々。うねる時代を陰から見つめる、誰にも訪れる「死」という存在。人はみな最後は死ぬので、死に向かって生きるとも考えられるわけですが、その道中はみんな何かしらの戦いに身を投じているのかもしれない。

意外にも、エリザベートの物語は、わずか100年ちょっと前の話なのですよね。「自分らしさ」は現代でもよく話題になるテーマですが、エリザベートとその登場人物たちの生き様(あるいは死に様)から、現代に生きる僕らにも何か感じることがあるのかも。だからこそ、この作品は長く愛されているのかもしれません。


というわけで福岡配信公演のレポ…と言いながら、実質的にエリザベートについてだらだら書くだけのnoteになってしまいました。秋に届く新版DVDを楽しみにしつつ、またいずれ再演をしてくれることを大きな声に出して祈りながら待っています。

2020年は周年公演だったにもかかわらず、あえなく中止になった「エリザベート」。2022年公演も、全ての公演の幕が開いたわけではなかったですが、とにかく、2022年カンパニーの皆様、おつかれさまでした。そして花シシィ、「お空にさよなら~」じゃなく、僕らの心に永遠に。

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