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【観劇レポ】絶望と希望のコントラスト ミュージカル「ゴースト&レディ」

観劇レポ遠征編、劇団四季の新作ミュージカル「ゴースト&レディ」です。

日本で劇団四季のミュージカルというと、ディズニーのイメージが強いかもしれませんが、近年「バケモノの子」「ゴースト&レディ」、そして鋭意制作中の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」と、映画や漫画を原作とした作品が増えております。四季に限りませんが、日本のミュージカル界のトレンドと言ってもいいと思います。

今作も漫画が原作。僕は原作未読、かつこの公演情報も、ナイチンゲールがメインキャラクターということ以外はほぼ予習せず、遥々東京遠征を心待ちにして臨みました。

結論、とんでもなくよかった

以下盛大なネタバレ含みます。

キャスト 6/22マチネ

人生は舞台

主人公・グレイ(ゴースト)は、舞台が好き。舞台に住み着く幽霊です。「舞台」に執着する理由には悲しい生前の出来事も関係するのですが…舞台を愛する気持ちは本心。僕自身がミュージカルという舞台の虜になっている人ですから、グレイのキャラクターにはシンパシーを感じる部分もあります。

そしてフィナーレで明かされますが、この「ゴースト&レディ」こそ、グレイがフローと辿った人生を舞台に仕上げた彼の処女作である、という設定。

…おしゃれやなっ!!好きっ!

ゴーストは文字が物理的に書けないので、脚本を書くことはグレイにとって憧れであり夢。そのことを観客に約3時間の観劇の中で落とし込んだうえで、幕を下ろさんとするその時に語られるこの設定、涙なしに語れましょうか。いや、語れない。

「人生は舞台だ」など、ミュージカルファンとして首がもげるほど共感し頷けるところもあり、ミュージカルこそ人生である僕にとってグレイのキャラクターがあまりにもストライクゾーンド直球。時々、シェイクスピアの言葉を引用するのも文芸人って感じ。

絶望こそ、全て

もう一人の主役、フロー(ナイチンゲール)は、使命たるやりたいこと(戦地での看護)ができず、家族に縛られる人生に絶望し、グレイを訪ねて自らを死に至らしめてほしいと請います。

この「絶望の約束」が、2人の契約となり、繋がりとなり、絆になる。家族との軋轢、戦地での苦労、孤独、様々な困難はフローの絶望として立ちはだかりますが、その絶望が奇しくも生きる力となって、人々の希望にすらなる。この絶望と希望のコントラストがとても美しい。

フローがグレイに「はい、絶望しますから」と明るく言うところがまた、この作品の、グレイとフローにとっての絶望がいわゆる辞書的な絶望以外の意味を持つことを示していて、より深くストーリーに引き込んでいく。
ジメジメした闇の沼のような絶望じゃなくて、フローのこのカラッとした絶望が僕にあまりにもクリーンヒット。そう、絶望ってこれなんですよ!(?)

グレイもまた、彼女をより深い絶望に落とそうと、中々「約束」を履行しようとしませんが、それが却ってフローの魂を輝かせ、いつしかそんなフローに愛が芽生えます。

身の上話をすると、絶望という言葉は、僕にとって人生のテーマであるので、この題材が刺さらないわけがないのです。ついこの間まで、希望がテーマになる作品(某カムフロムアウェイ)に取り憑かれていたのにね。いや、絶望が大事だからこそ希望にも心惹かれるのか。

天下の劇団四季

ミュージカルとしても非常によくできていて、さすが劇団四季というほかありません。

音楽は耳馴染みよく、ミュージカルらしいソロナンバーから、ドラマチックな曲、感情を揺さぶる曲、楽しく踊るお祭り曲、色っぽいデオンの情熱的なダンス曲など、大満足。リプライズの使い方も絶妙で、冒頭でフローがアレックスから求婚されるところのサムシング・フォーを、最後にグレイが歌うのとか、ズルい。泣くに決まってんでしょう。

日本オリジナルということもあり、音符と歌詞のマッチングもいい塩梅。四季の発声を抜きにしても聞き取りやすく、分かりやすい。輸入作品での訳詞の素晴らしさは言うに及ばず、その情緒というのは作品に深みを与えるもので、特に今年はカムフロムアウェイで噛み締めたのてすが、一方でやっぱり日本語で日本人が日本人客に向けて作る音楽はナチュラルで耳馴染みがいいのでしょうね。

ストーリーも非常に分かりやすい。原作未読での初見でしたが、蛇足に感じる場面も、急ぎすぎて展開に追いつけないところも、個人的にはありませんでした。

序盤でゴーストの性質を歌うところでは、どことなく某ネズミーランドのなんとかマンションを彷彿とさせるような楽しい雰囲気もありますし、デオンとグレイが剣を交えるところは安っぽい殺陣ではなく、鬼気迫るものがある。幽霊同士ならではの空中戦も見どころ。

看護師(※作中では当時の言葉として看護婦と呼称)たちがフローを筆頭に戦地へ赴く場面は、胸に迫るものがありました。ここで本作初涙。

劇団四季のファンタジー表現には定評がありますが、グレイが壁をすり抜ける表現、死んだ人が幽体離脱する表現など、今回も楽しませてくれました。幽体離脱シーンは何度か出てきますが、何回見てもびっくりできる。光の演出もきれいです。

そして何より終盤。雪山のシーン以降の圧倒的な迫力とドラマチックさ。展開は予想外!というわけではないけれども、フローを演じる谷原志音さんの爆音・感情大爆発も相まって、僕の顔面は大洪水でした。ここからカーテンコールまで、泣きっぱなしです。
比較的しっとり、カラッとした絶望だったのが、ここにきていわゆる大絶叫・大絶望。すみません、言語化できないです。とりあえず凄いとだけ書かせてください。

フィナーレ〜カーテンコール直前では、光の演出が美しく、光に吸い込まれていくようなフロー、劇場の天井から一斉に無数のライトが降りてくる演出など、目を奪われ呼吸を忘れる美しさ。作中ではランタンのほのかな光も重要な小道具になっていますが、絶望というテーマを扱う中で、光の使い方が本当によく考えられているなあと感じました。

キャスト

初見なので、メインキャストが中心になりますが偉大なるキャストの方たちの感想を少しだけ。

グレイ役の萩原隆匡さん。アラジンのジーニー以来ですが、コミカルなところ、鬼気迫るところ、温かく包みこんでくれるところ、ぶっきらぼうなところ…幽霊だけど人間味にあふれていました。

グレイが見えるのはフローをはじめ一部の人だけですが、一般人の横に立つと人々がブルッと震えたりする、超細かい演出があります。その時のグレイの表情がなんとも可愛らしい。グレイというキャラクターを好きにさせてくれるキャストさん。

フロー役は谷原志音さん。先程も書きましたが、終盤の大爆発は圧巻。芯の強さもありつつ、何度も挫けそうになる等身大のヒロインで、何より歌が本当にすばらしいです。
ヒロインキャラクターは、時々観ていて引っかかるところとかもあったりするんですが、フローはそういうところがなく、初見なのに馴染みやすいように思います。

デオン役の岡村美南さん。クレイジー・フォー・ユーのアイリーン以来。宝塚の男役かな?と思うくらいシュッとしていて、男装の麗人のようなかっこよさ。これは虜になる人も多いのでは。一人称が僕なのもとても良きです。

総括

劇団四季の新作ミュージカル。これはぜひ、原作を知らない方もミュージカル好きなら、ミュージカルに興味があるなら一度は観るべき作品。劇団四季のプライドすら感じる舞台でした。
輸入作品が多い日本ミュージカル界ですが、この作品は逆に世界へ輸出することもできるのでは?と思えるくらい、完成度が高い作品でした。

ミュージカル評論家でもない、ただのいちファン(オタク)の戯言ですが、本気でそう感じました。

終演後に、原作についても少しだけ調べたのですが、この作品と原作とでは設定やキャラクターが異なるところも多いようです。原作との違いは詳しくわからないのですが、少なくともいちミュージカル作品として、始まりから終わりまで、違和感やひっかかりの少ないストーリーで親しみやすいと思います。

東京公演は11月まで。そのあとは確か地方に来るはず。チケットも売り切れの日もありますが、ちょこちょこ残ってるようなので、ぜひ!ぜひ!観てほしいです。

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