怨念

とある一軒家。二人暮らしの夫妻。
ここで夫の方が殺害された。ナイフで心臓を刺されて即死だったらしい。ナイフには指紋一つついてなくて犯人の特定には至らなかった。また、妻にはアリバイがあり、彼女は夫を殺してないと言う。じゃあ誰が殺したのか。犯人が分からず、捜査は打ち切りになってしまった。

「うーむ」先輩は頭を悩ませていた。
「どうですか、先輩?」
彼女は必ず犯人を突き止めようと、私達霊媒師に声をかけてきた。私が言うのも何だがこんな非科学的なものに頼るなんて彼女は相当病んでいるのだろう。
「あのな、多分犯人はあの女だ。」
「え?」
先輩が突拍子もないことを言うから私は固まってしまった。
「いやいやいや、どう考えてもおかしいですよ。彼女の夫はナイフで心臓を刺されて即死。その時、彼女は外に出てていなかった。どうやって殺したっていうんですか。」
「いくらでも殺す方法はあると思うぞ。」と先輩はニヤリと笑った。
「例えば、彼女が遠隔操作で殺害を実行したとしたらどうだ?」
「遠隔操作?」私は驚いて尋ねた。
「そうだ。彼女は家の中に何らかの仕掛けをしていた可能性がある。例えば、タイマーを使って特定の時間にナイフが作動するようにしていたんだ。」
「でも、そんなことが本当に可能ですか?」私は疑問を投げかけた。
「理論的には可能だ。彼女が家を出る前に、夫が特定の位置にいることを確認し、ナイフが作動するようにセットしておけばいい。例えば、ドアに仕掛けをしておいて、夫がドアを開けた瞬間にナイフが飛び出すようにすることもできる。」
私はその話を聞いて、少しずつ納得がいくようになった。「なるほど。それなら彼女のアリバイも成立するし、犯行が実行されるタイミングも説明がつきますね。」
「そうだ。しかも、その仕掛けを作動させるためには特定の条件が必要だった。例えば、特定の時間に特定の動作をするように夫に仕向けることができれば、そのタイミングで仕掛けが作動する。」
「でも、その仕掛けをどうやって作ったのでしょうか?彼女は普通の主婦ですよね?」
「それも考慮しなければならない。例えば、夫がDIY好きで、工具や材料が揃っていた可能性がある。彼女がそれを利用して仕掛けを作ったのかもしれない。」
「なるほど、夫の趣味を利用していたんですね。」私は頷いた。「その仕掛けの具体的な構造や作動原理を調べる必要がありますね。」
「そうだ。事件現場を再度調べて、仕掛けの痕跡を探そう。そうすれば、彼女が遠隔操作で犯行を実行したという証拠が見つかるかもしれない。」先輩はそう言って、霊媒の為だとか理由をつけて家の中をくまなく捜査することにした。

現場を細かく調べると、ドアの隙間に微妙な改造の痕跡が見つかり、そこからナイフが飛び出す仕組みが隠されていたことが判明した。そして、その仕掛けを作動させるためのタイマー装置も発見された。しかもタイマーには指紋がついていた。これで、彼女が犯行を実行した証拠が揃った。
「見つかったな、これが決定的な証拠だ。」先輩は満足げに言った。
「これ私達、やってること刑事さんみたいですね。」
「はははっ、そうだな。」先輩は笑いながら言った。

これを警察に話すと、彼女は直ぐに逮捕された。

「どうして犯人が彼女であることと殺人の方法とか分かったんですか?」先輩に尋ねた。
「そりゃあ、あいつの夫に聞いたに決まってるだろ。俺たちは霊媒師だぞ。」
すごいなあと私は先輩に感心した。

しかし何故、タイマーに指紋をつけてナイフには付けなかったのか。これはただただ失敗しただけなのか。
何で私達霊媒師を呼んだのか。自分で殺したのを忘れたのか。

私ははっと気づく。もしかしてこれは彼女の夫が彼女へ復讐するため完全犯罪に見せかけた自殺であるのではないかと。本当に彼女は夫を殺していないのではないかと。

しかし、そこまで強い怨念を持たれるということは彼女も彼女で何か何かやっていたのだろう。
この気づきはそっとしておこう。

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