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二人のアカボシ

桜が咲いて、でも春とは言えないくらい夜は冷えるのが、花見の季節の定番の悩みである。

春が近いが、冬の名残も残すこの季節に思い出す曲がある。

キンモクセイというグループの『二人のアカボシ』という曲だ。
この曲自体の歌詞やメロディも好きで元々聴いていた曲だったのだけど、この曲を桜の季節に思い出すのは、中学の同級生のY君が原因だと思う。

Y君は、野球部で、顔つきはどちらかと言うと恐い印象で、目も眉も細く、漫画「ROOKIES」の不良野球青年という印象だったが、話すと穏やかで、笑うとつり上がった目元も垂れ下がり、当時人気だったモーニング娘の安倍なつみと結婚したいからプロ野球選手になる、と話しているほど純朴な青年であった。

その彼が中学3年生の時に、1学年下の後輩に恋をした。
でもほとんど話す機会もなく、そうこうしていると、みんなの進路も決定し、僕らの卒業がにおいだす3月になり、そんなある日の3月、給食の時間にキンモクセイの『二人のアカボシ』が流れた。

Y君を見ると、目が潤んでいる。
僕が不思議そうに見ていると、Y君は歌詞に反応したらしかった。

君とも離れることになる。

の一説らしく、正直、驚いた。
彼のその感受性も繊細さも、彼女への想いも。

僕はこういう時少しおせっかいなので、話す機会を作るよ、と提案したが、彼は頑なに断った。

僕もそういうことでは、きっとないのだ、と悟った。

遠くへと連れ去ってしまえば?
と歌詞にある言葉で冗談を言おうとしたのも、のみ込んだ。

きっと彼は一瞬真面目に考えちゃいそうに見えたから。

卒業後、大人になって一度大勢で飲んでいる場所で、Y君は彼女と再会し、告白でもなく、中学生の時好きでした、と伝えたらしい。
彼女は、なんとなく知っていました、という返事だったそう。

そう話すY君の表情は清々しい表情で、彼は恋い焦がれていたのではなく、愛していたのだなぁとその時感じた。

桜は咲くけど、寒いこの季節、なぜだか毎年『二人のアカボシ』とY君を思い出す。
別れと出会いの、変化の季節だからだろうか?

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